第九夜 呪われた仏壇
便利屋で働いている北川さんから聞いた話です。
北川さんは便利屋で勤めて7年目の中堅社員さんです。
便利屋の仕事は様々あり、中でも一番キツイのが事件現場や孤独死の現場での家の片付けだそうです。
ある日、北川さんに事件現場でもう数カ月経っているから、便利屋さんに家に置いてある物の撤去依頼が来ました。
家に到着すると、既に見た目が暗く、鬱蒼とした木々の葉が玄関口まで生い茂って居て、独特の雰囲気を感じたそうです。
現場に入ろうとすると、「ちなみに、ここの現場は30代位の女性が刺された現場らしく、犯人も既に捕まっている。ただ、家族が家具やその他の衣類など全く撤去してくれないそうで、今回便利屋さんに…」と土地を管理している方から言われました。
北川さんは、さっそく荷物の撤去に取り掛かります。
一部屋、また一部屋と綺麗にして、最後に残った部屋が事件が起きた部屋でした。
部屋に入ると、畳が敷かれている和室、目の前には仏壇らしきものもあります。
こんな部屋で刺殺だなんて、何て罰当たりな…と思っていると、「ギィギィギィ…」と何か異様な音が部屋に響きます。
腐りかけた扉が閉まるような音ではありますが、扉はまだまだ錆びついてもいない、どこからするのかわからず、このまま作業の手を止めるわけには行かないので、北川さんは作業に取り掛かりました。
その間中も「ギィギィギィ…」と音が繰り返し鳴っています。
最後にこの仏壇も撤去しないといけない、そう思い仏壇に手を掛けようとしました。
「うぉおおおおお!」と言う男の唸り声のような声が部屋へ響きます。
一緒に作業をしていた人たちも、慌ててこの部屋へ飛んできました。
「何だ今の声…」と口々に言い合います。
すると、ガタガタガタガタと仏壇が自分で意思を持ったかのように右へ左へ揺れ動き、「ギィギィギィ」の音から「ベキベキベキベキ」と仏壇の中から何かが這い出てくるような音でした。
しばらくすると音はピタッと鳴りやんで、作業員たちと北川さんはお互いの顔を見合って、「今の聞いたよな」と声は発さずとも表情で会話しました。
「これ最後の1つだし、さっと積んでここから帰りましょ!」と他の作業員たちに促され、作業員と5人掛かりで仏壇を移動させようとしました。
パラっと白い紙が落ちました。
その瞬間、「うおおおおおお」と男の声が再び上がると、黒い影のような物が若手の作業員の体にスッと入ったのをそこにいた人たちは全員目撃したそうです。
若手の作業員はボーっとした表情のまま動きません。
「おい、大丈夫か?」と問いかけても無反応。
すると、その部屋からスーッと立ち去って行きました。
「おい、待てよ!」と何名かの作業員が追いかけます。
北川さんは落ちた白い紙を見ると、御札です。胸騒ぎを感じ、若手の作業員の所へ行こうとしました。
「ぎゃあぁぁぁ!」と先程の作業員を追いかけた人たちの声がします。
若手の作業員はカッターを手に取り、暴れていました。
顔はいつもの顔ではなく、誰かに操られているような無表情でカッターを振り回していました。
数人で抑え込み何とか若手作業員を落ち着かせてお寺にそのままお祓いに行くことになりました。
若手作業員を見るなり、お寺の住職もただ事では無いというのがわかったらしいです。
お祓いをして何とか体から悪霊を出すことが出来た若手作業員は今でも頑張ってくれています。
一方の仏壇は何とか運び出して、悪霊も出た事だし、大丈夫だろうと後日お寺に供養しに向かっている途中に、運搬していたトラックが大事故を起こし、作業員にも死傷者が出ました。
そして、生き残った作業員から驚きの言葉を耳にします。
「実はですね、あの事故はこの仏壇のせいなんです…。この仏壇から真っ黒の男が現れて車の荷台を持ち上げたんです…」
「そんな事できるか…こんな思い車を持ち上げるなんて無理だろ!」と言っても同じ言葉を繰り返します。
しかし、本当に恐ろしいのはここからでした。
運搬していたはずの、あの仏壇が消えたんです。
どこを探しても見当たらない。
粉々になったとしても、破片は残る筈…そして、探している最中、前の事件現場の土地管理者から「おい!なぜ仏壇は持って帰らないんだ!」と、あの仏壇がひとりでにあの場所へ戻っていたのです。
御札が取れてしまっているあの仏壇にはもう、北川さんたちだけでは手に負えなかったみたいです。
その後、この仏壇がどこに行ったのかもわかっていません。
第9夜 呪われた仏壇 終わりです。
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