第八夜 トンネル点検

知り合いから聞いた話です。


知り合いの小島さんはトンネルの点検をされている方で、以前高速道路でトンネル崩落事故があって以来、高速道路以外のトンネルでも点検を頻繁にしなくてはいけなくなったそうです。


高速道路などの点検は車も沢山通っていて良いのですが、山道などはお昼でも車通りが少なく小島さんは運悪く、山の方の点検に当たってしまったそうです。


山道のトンネルは夏場でもひんやりしていて、とても不気味な雰囲気があるとおっしゃっていました。


そんな小島さんが関西のトンネルを点検した時の話です。


その日も、お昼前にも関わらず通る車は1台、2台と数えれる程しか通らず、早く終わらして帰ろうと思っていました。


トンネルの真ん中辺りに来た時、後ろで何人かの人が会話している声がしました。


車でさえ数台しか通らない場所に人?と思いながら振り返りました。

 

確かに人の声はしていたのに、振り向くと誰もいない…一気に冷や汗と恐怖に包まれたそうです。

真ん中辺りにいるので、出口も入り口も結構遠く早く作業だけ終えることを考えていたそうです。


そんな最中、「カンカン、ボサッボサッ」と金属の何かの音と土を掘ったような音が聞こえ始め、今度はハッキリと声が聞き取れたそうです。

「どんどん掘り進めな終わらへんぞ!」

「おおっ!」

1人の声ではありません。

何人もの人が会話している声で、工事関係者の人たちの声のようです。


もちろん、実際には工事なんてしているわけ無く車も人の姿もありません。

トンネルには小島さん1人の筈なのに、そこには何人もの目に見えない人たちが居ている…小島さんは慌てて出口へ向かい走り出します。


その間も声はあちらこちらで聞こえ、出口に近づいた時です。

小島さんの足をグイッと引っ張る何かがいます。

恐る恐る小島さんは、足元を見ました。

「助けてくれ〜、ここから出してくれ〜」と何人もの手が小島さんの足首を掴んでいます。


小島さんは、意識あるまま金縛りにあったそうで…声も聞こえるし、生きてる人間では無い手が小島さんを逃さないようにしている。


「ドン!ゴゴゴゴゴゴーーーー」と凄まじい音がトンネル内に響きます。

すると、「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」と何人もの人の断末魔がトンネル内に響き渡ったそうです。


その瞬間、小島さんの足を掴んでいた手も声もピタッと止み、小島さんの金縛りも解かれたそうです。


逃げ帰るように会社に戻った小島さんは、今日あった事をすべて上司に話しました。


「あぁ、あのトンネルか…小島くんはあのトンネルの点検初めてだったな…実はな、あのトンネルは昔作らている時に崩落事故があって、多くの人が生き埋めになって亡くなった場所なんや。俺たちはもう慣れたけど、小島くんに伝えるの忘れてたわ…ごめんな…。」と言われたそうです。


その後、小島さんは再びあのトンネルを訪れ、お供えと線香を持って行ったそうです。


その後も何回か、このトンネルを担当した小島さんは金縛りになり同じような事が何回かありましたが、「僕にはなんも出来ません。申し訳ないです。」と唱えることしか出来なかったそうです。


今は機械があって、トンネルを作る時の事故は無くなって来ていますが、昔は人力で作っていて、事故で無念の死を遂げられた人たちもいる。今尚、浮かばれずに苦しんでいる人たちがいる事をわかって貰いたいと小島さんは、いつも言っています。


第8夜 トンネル点検 終わりです。

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