第10話 

冬はつとめて。凍るような寒さから目が覚め、ベットから体を起こして厚い上着を羽織った。横では灯真くんが死んだように寝ている。外では日が昇り始めていた。私は体を伸ばし、化粧台からヘアゴムを取って髪をまとめた。さて、朝食の用意だ。キッチンに立ち、フライパンに油を引いて熱した。パチパチと音を立ててきたら、ベーコンを2枚先に焼く。ジュウッと香ばしい匂いと音を放つ上に、卵を一つ落としてフライパンに蓋をした。


「おはよう、早いな」


ガラガラの声で目を瞑りながら起きてきた。昨日は年末の仕事で遅くまで起きていたのに。


「おはよ、起こしちゃった?」


「いい匂いがしたからな。てか、寒いな」


「あ、ごめん。暖房つけてないや。つけてもらえる?」


「んー」


暖房をつけると、ソファでまた寝てしまった。


 寝ぼけた日本国民を無理やり起こすように、日がカーテンの隙間から侵略を始める。もう7時すぎか。朝ご飯ができたので、お寝坊さんを起こすことにした。


「起きてー、ご飯できたよー」


起きない。そうだ、イタズラをしよう。頬を3回ツンツン触った。起きない。抜け殻が顔を横にしてうつ伏せている。私はその後ろから乗り、ギュッと抱きついた。起きない。こうなれば奥の手だ。少し開いた薄い唇に、そっと口づけをした。起きない。変に緊張したのがバカみたいだ。そして私の魅力はこんなものかと理不尽にムカついてきた。私は人差し指を揃えて狙いを絞った。


「アチョー!」


「いでぇ!」


「おはよ」


「カンチョーで起こすな!」


「いい朝ね」


「よくねえよ!」


灯真くんとギャーギャー言い合った。そんな時間も楽しかったりする。まだ少し眠そうに目を擦るが、料理が冷めるので食事をすることにした。テレビではニュース番組が流れている。


「シェフの娘結婚したらしいぜ」


「え、ほんと?結局会ったことないなー」


「俺もない。アイツ家庭では肩身狭そうだしな」


「たしかに。ジジイと服一緒に入れるなとか言われてそう」


「ジジイ家帰って来んなとか言われてたら面白いな」


「それだと笑えないよ、さすがに」


それもそうだなと、灯真くんがゲラゲラと笑った。シェフのネタを話すとすごく嬉しそうだ。


「そう言えば、来週の日曜、空けれるか?」


「店長次第かな」


「空けておくよ」


小っ恥ずかしそうにそっぽを向いた。照れると分かりやすい。彼の可愛いところだ。


「どこか行くの?」


「ああ、ちょっとな」


「なにー?遊園地?」


「ちげーよ」


灯真くんは食べ終わると食器を片付けて、またベットの方へ行ってしまった。私はもう25になる。そろそろプロポーズされてもおかしくないはずだ。私と結婚したくないのかな。…まあ、いいか。そんなことは。今、幸せだから。

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