第7話

「お久しぶりっす」


「久しぶりね」


このカフェでまたあなたと会った。夜風に揺れるすすきのような、九月に咲く桜のような。月に愛されたような顔立ち。爽やかな色気を纏う彼女に先輩は惹かれたのだろう。


「こうやってお茶するのは3回目かな?」


「そうっすね」


「初めてが確か、灯真がバイクで事故したときね」


半年前、武田先輩がバイクで事故を起こした。怪我は三針と足の骨折で済み、命に別状はなかったのだが、バイトの行きに血まみれの先輩を見た時は焦った。急いで救急車を呼んで同車し、病院で看病した。次の日の朝一番から国見さんが病室に飛び込んできた。その帰りに国見さんに誘われて、一緒にカフェに来たのが最初のお茶だった。


「2回目の最後の言葉は別れるって意味だったんすか?」


「この前の言葉?」


先輩が別れる1ヶ月前、私は彼女と会っていた。彼女は私の秘密を知っていた。墓まで持って行こうとしていた大事な秘密。


「私を死なせないって、あなたは最後に言いました。でも、自分を犠牲にするなんて聞いてないっす」


「私はあなたを死なせたくなくて...」


「私は覚悟はしていました。それに、先輩の気持ちはどうなるんですか」


「それは...」


嵐が吹いたような表情。こんな国見さんは初めて見た。


「私は好きな人が傷つけられたことを絶対に許せないっす。人を思って自分を犠牲にするのは同情っす。同情は優しさじゃないっす」


「...ごめん」


国見さんは下を向いていた。もちろん、彼女なりの考えがあったのだろう。私は少し迷った。けれど、このままにして良いわけがない。


「先輩にも謝って来てください」


「え、でも...」


「私は先輩に愛の告白を済ましました、あなたがモタモタしてると、すぐに取っちゃいますからね」


「...ごめん、ありがとう」


国見さんはお金を先に払い、店を出てしまった。本当にこれでよかったのだろうか。後悔の2文字が重く心を押し潰す。この爆弾がはじけたなら、私は幸せになれるのかな。LINEに通知が来た。


[来週の土曜、遊びに行こう]


先輩からだ。返事が聞けるのかもしれない。カフェオレのお代わりを頼んだ。砂糖いっぱいのミルク付きのやつ。

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