最終話・後継者の ケッテイ だよ〜ん。

「弼!」

「華夜ちゃん……おかえり」

「……大丈夫?」

「大丈夫」

 弼は自身で覆い隠していた拳銃を取り出した。

「これを……撃つくらいならできるよ」

「弾、まだ残ってたんだ」

「最後の一発。華夜ちゃん用にとっておいたの」

「……いいよ。撃って」

 彼女の手ごと拳銃を掴み、自分の眉間に押し付けた。途端に弼の手が、震える。

「だって……だって、華夜ちゃんが最後まで残ったら……これまでの私の……全部を覚えたままなんでしょう……? そんなの、無理だよ、受け入れられない。華夜ちゃんが、私を受け入れてくれるわけがない」

「……不安にさせてごめんね」

 全部、私が逃げたからだ。夏祭りの日、弼の言葉から、そして今日この夢の中でも逃げ続けた私の弱さが招いた恐怖だ。

「もう逃げない。受け止めるよ。だけど……一つ約束して。私とずっと二人ぼっちなんて……夢の中で永遠に過ごすだなんて……悲しいこと、言わないで」

「……ふふっ、こんな時まで……私の心配?」

 何の気なしに引き金を押し込んだ弼。しかし鳴り響いたのは発砲音ではなく、冷めた機械音だった。

「言ったでしょう? 私が華夜ちゃんを傷つけるなんてあり得ないって」

「弼……あの時、はぐらかして本当にごめんね。私だって弼のことが好きだったよ。でも言葉にするのが……カタチになるのが怖かったの」

「……ね、華夜ちゃん。ぎゅってして」

「ん」

 彼女が壊れてしまわないように、優しく、だけど、ありったけの想いを込めて。

「……あぁ……ずっと……ずっとこうして欲しかったの。もう一回だけでいいから、どうしても。でもダメだね」

 とろけるような声が、徐々にかすれていく。

「まだまだずっと、もっと、して欲しくてたまらないや」

「それは起きてからのお楽しみだよ」

 弼の体温が、香りが、感触が薄れ、やがて完全に消えるその瞬間まで、今までの時間を埋めるように、弼を抱きしめ続けた。


×


「弼」

「華夜、ちゃん?」

 終業式が終わってすぐ、弼に声を掛けた。

「久しぶり」

「ど、どうしたの?」

 明らかにキョドりつつも、頬を染めている様は少し嬉しそうにも見える。

「んーん。さっきちょっとおもしろい夢を見てね。……聞いてくれる?」

「夢……? うん、聞かせて。華夜ちゃんのお話なら、なんでも」


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白昼夢の逃避行〜耽溺と悲恋、あるいは友愛と悲願〜 燈外町 猶 @Toutoma

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