柔(外道)よく剛(NPC)を制す


 「さー、王様の命はボクが預かった。」

 ニッコリ笑って首を横に、それを見て察した騎士達は大人しく下がる。

 「ゆ、ゆ、ゆゆゆ勇者?貴様何を?」

 王様は驚きで声が揺れ動いている。玉座から逃げようとしたのでちょっとだけナイフを首に近付けたら大人しく座った。

 「貴様ぁ、何をしている!さっさとその玩具を仕舞って王から離れんか!」

 金色騎士様は腰にぶら下げていた剣を抜こうとしていた。

 「おぉっと?そんなもの抜いている間に王様の首はスッパリだよー。」

 手にしたナイフで首を斬る真似をすると、王様は震え上がり、騎士達がザワつく。

 俊敏性は人質王様を確実にゲットするため。技巧度はこういう時に『うっかりっちゃったー(๑´ڡ`๑)』をしないで済む。

 「さぁさぁさぁ、王様が明日の朝を迎える為には幾つか必要な物がある。

 制限時間は少しだけ。さー直ぐに用意しようか?

 先ず国庫の金全部頂戴寄越せ。あと足の速い馬車51台。この国の重犯罪者50人も一緒に持ってきてー。

 直ぐ用意出出来なきゃ来るでしょ斬るからね?」

 ナイフを動かして髭を剃り始める。

 「ひgぇぇぇええええええええええ!言うとおりにせぇええええええええ!」

 真っ青になった王様が震え上がる。

 「くっ!くっ!くぅうううう!早く用意しろ!」

 金色騎士が怒りで震えて連動した鎧が振動する。






 『魔王を倒す』

 それは本来一大プロジェクト。現代なら環境破壊規模だ。

 しかし、大半のゲームではそれを一人に押し付けてロクな支援も無し。挙句に拒否権は無いときていた。

 「理不尽だよねぇ?」

 「今のワシの方が絶対理不じぃぃいいいいいいいんんんんんんんん!」

 「はっ はっ は。

 いやいや、そうでもないよ?」

 さっき窓の外を見たとき、外は退廃していた。だと言うのにここは豪華絢爛。しかも家来は王の護衛にお熱で重要な役割を他人に任せて高圧的。しかもその割にザル警備。

 ここ、明らかに退廃した世界観がオブラートを突き破ってる。

 「正義は果たしてどっちかなぁー?」

 「間違いなくそっちじゃないぃぃいいいいいいいいいいいいい!」

 わー、喚く様から涙と鼻水が飛ぶ様までリアルぅ。

 「でも汚い&五月蠅いから少しお静かに寝てろ。」

 「うげぇ…」

 当身一発で伸びた。技巧度高いって便利ぃ。






 「国庫の金全部。足の速い馬車51台。この国の重犯罪者50名。用意、したぞ!」

 暫くして吉報が来た。

 兜を脱いだ金鎧がもの凄い形相で睨んでくる。敢えてそれに美人のニッコリスマイルで返したら周りが怯える様な表情になった、おもしろ―い。

 さて、さてさてさて……

 「さーて、なんで寝てるの王様、馬車と愉快な50人と金を確認にレッツゴー!」

 引っ叩いたら目を覚ました王様を引き摺って(withナイフ)城の外に出る。


 2m程に積まれた金塊が城の広場に一杯。金塊の向こうには素敵な馬車51台と手枷足枷をされた人相の悪い連中が50人。

 「いやぁ、絶景絶景。さてと収納。」

 手元に出した画面を片手で操作したら大量の金塊が消えてなくなった。

 このゲーム、持ち物に制限は無いらしいし、所持金に限りも無いから上限一杯を超えて消失…なんて勿体無いことにはならない。

 自身のステータス欄の所持金部分に大量の0が並んだ。

 「じゃぁ刹那の出会いで別れだけど皆の顔を拝みに行こう。」

 手枷足枷軍団に向かって歩を進める。当然傍らにはナイフを突きつけられて蒼い顔をした王様が居る。

 「お前が俺らを釈放したのか?」

 スキンヘッズの人相の悪い男がこちらを睨み、値踏みする様な目を向けた。

 「そうそう、感謝して。張り切って馬車まで用意してあるから、逃げるチャンスは幾らでもあるからね。

 さぁ皆並んで。国庫から取り出した逃走資金をあげよう!」

 ニッコリスマイルに対して凶悪犯達は中々動こうとしない。

 ウンよし。ここで素直に従っていたら友人に苦情を送っていたところだ。

 「拒否権は無いよ?

 ここでボクから馬車と逃走資金を貰ってボクの攪乱のついでに必死に逃げるか、この場に留まって脱獄の教唆で物理的に吊し上げられるかの二択だから。

 あ、ボクについていくって三択目もあるね。

 さぁ、一つ目と三つ目の選択肢を選ぶなら早速資金を受け取って馬車に乗ろう。」

 それを聞いて考えこむ人、顔が引きつる人、睨み付ける人………幾人も居たには居たけど資金を受け取って馬車に乗り込まない選択肢を選んだ者は居なかった。






 「さぁ出発!あ、尾行したら尾行を撒くために王様をパーツ単位でばら撒いて撹乱するからそのつもりでね。」

 豪華絢爛な城を飛び出すとそこは城下町スラム街だった。

 悪臭がする、怒声が聞こえる、泣き声が聞こえる、人が殴られる音が聞こえる。まさにディストピア。凄いリアルだ。細部に神は宿るって言うけれど、これは邪神が宿ってる。




 51台目の馬車が城を離れて直ぐ、黄金鎧は怒号を飛ばした。

 「追え追え追え!」

 「しかし……」

 「あのような下衆が約束を守ると思うか?精鋭近衛騎士隊が舐められたままで終わると思わせるな!他の連中も纏めて捕まえて縛り首にしろ!」

 部下はしぶしぶそれに頭を下げて何処かへと向かっていった。





 「このまま済むと思っておるのか!

 ワシの騎士達が直ぐに助けに来る!

 今ならまだ間に合う!ワシを解放せい!そして魔王を倒しに行くのじゃ!」

 余ったマントで縛り上げた王様が元気を取り戻してぎゃぁぎゃぁ喚きだした。

 「五月蠅いなぁ。人間って関節でバラすと48個位にはなるんだよ?」

 初期装備のナイフをチラつかせると王様は賢明だから大人しくなったよ。

 「さぁて、でも実際このままだと絶対あの騎士様は追って来るよね。

 だから一手打たないと。」

 バラバラに走り出した馬車は計51台。城下町を複数方向に走って逃げている。

 でも頭数で向こうが完全に有利な挙句、地の利は完全に向こう側。

 だから全部の馬車を捕えるのは難しくない。

 じゃぁどうするか?

 「マンパワーに対抗するにはそれ以上のマンパワーをぶつければいいのさ!」

 馬車を操りながらステータス画面を弄る。自由度の高さに対応出来るこのゲームの完成度があればこそ、この一手・・・・が打てる。



 馬車を操る女が凄まじいニッコリスマイルを浮かべていたのを目撃した城下町の人々が震え上がっていたのは、流石は技術的な特異点ゲームであった。

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