第4話 魔法を示す①
「ロー、学食を食べに行こう」
次の日の昼食の時間ジャックとジルが話しかけてきた。
「助かったわー。昨日昼、食べれなくて困っていたんだよな」
「食堂に行かなかったのか?」
ジルの質問の答えに対し、俺は周囲の人だかりに一瞬視線を移動させた。
わずかな視線の動きを見て二人は察し、
「「あ~」」
という言葉を漏らした。
災難だったなという雰囲気を出し、さっさと食堂に行こうと俺を連れ出す。
編入初日の昨日はクラスメイトの質問攻めで昼飯を食べることができず、食堂の場所を知ることができなかった。二人の察しが早くて助かった。
初めて来る食堂には学院に通う多くの生徒達が集まっていた。
「一般の生徒はここの食堂を使う」
ジャックが放った”一般の生徒”という言葉が引っかかる。
「貴族の生徒の多くは学園の中心の庭という場所で食事を取る、ここにいる生徒は一般の生徒かよほど気まぐれな変な貴族だけだ」
食堂はテーブルを置かれたスペースが三階まで続いていた。
食事を受け取った俺達は二階の開いている席まで歩く。
窓際のその席からは学園の中心の庭が見える。
庭にある綺麗な窓硝子が特徴のその建物は、学校に違和感を与える神々しさを放っていた。
「さっき言ってた貴族のやつらが食事をする場所、
ジルが指を差しながらさっきの話の補足をした。
「まぁ、ジャックや貴族階級に興味のない貴族はこっちの食堂を使う」
「なるほどな」
食事を始めてしばらくすると辺りの席は全て埋まり、食事の会話が飛び交っていた。平和な食事を楽しむが、心の中は次の授業魔法実技に対する不安が薄暗い影を落とす。
食事を食べ終わる頃に辺りがざわざわと騒がしくなっていた。何かトラブルでもあったのかと思った時、騒がしくさせている人物が俺たちの目の前に現れる。
「やぁ、君達。食事のところ失礼するよ」
そう言って現れた高貴な雰囲気を出した金髪の少年。ジルとジャックはその少年を見ると苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
「「げっ、ユリウス」」
この少年はユリウスという名前のようだ。二人を無視して名前の知らない俺に対して丁寧に挨拶を始める。
「初めましてローウェン・グライト君。僕の名前はユリウス・アランドール。名誉あるアランドール家の次期領主のこの僕が君に挨拶をと思ってね」
――アランドール。
この国の西の領土を統治している貴族の家柄のはずだ。次期領主をアピールしたところを聞く限り、地位や名誉を求めるプライドの高い人物であることが予想できる。まぁ、俺の想像でしかないが……。
貴族と面倒な関係になるのを懸念し、俺も冷静に挨拶を返す。
「ご丁寧に挨拶をありがとうございます。ローウェン・グライトです。よろしくお願いします」
俺は手を差し握手をした。
「さすが、魔導書のグライトブランドの魔導技師は礼節ある態度がとれてるね。見習えよ、そこのクズ二人」
ユリウスは席に座っている二人に視線を向け言い放つ。その態度に俺はイラっとしたが表情には出さないように心掛けた。
「ローウェン君、君は関わる相手を選んだ方が良い。Fクラスの奴らはまともな奴がいないからな。何なら僕が学院の上に話をつけてクラス替えをしてもらうように頼んでもいい」
「どうゆうことですか?」
「知らないのかい?この学院は僕のいるAクラスから底辺のFクラスがあるんだこど、Fクラスには一人では戦えない弱い魔法使いしかいないんだ。そこの弱いから兄弟揃って捨てられた奴とそんな奴を拾って貴族という名誉ある地位を捨てた一族。それにあの血染めのリゼがいるしな」
はっきり言い切った。
「ローウェン君にFクラスは似合わない。それでどうする?」
ユリウスは話を続ける。しかし、心の中にあった俺の問題を起こさないという思いは消え去り、怒りという感情だけが残された。
「ユリウスさんご丁寧にありがとうございます。けど、遠慮させてもらいます。……それに、人の事情も知らないのに偉そうなことをいうなよ、ユリウス」
丁寧に断った後、怒りを抑えることができなかった。最後に貴族相手に呼び捨てしたことで周囲の人物からは俺が怒っているというのは分かったはずだ。
「急に何なんだ君は。僕をそして貴族を敵に回すっていうのか?」
「あいにく、友人を馬鹿にされて気を許せるほど人間出来てないんだよ」
「ならば決闘で証明しようではないか」
――決闘。
学院の決められたルールに従って戦う、もめ事を解決する一つの手段。設立当初からこのシステムは存在し、生徒同士の魔法に関する意欲も向上することもあって今も生徒間でよく使われている。
この決闘に関することは学長からもらった資料にも書いてあり、あまり決闘を行うような場面にならないように心掛けていた。
「そうだな、お前の馬鹿にしているFクラスの生徒の一人として相手するわ」
「貴族に逆らうとどうなるか知らせてあげよう」
余裕な表情を浮かべるユリウス。
「っていうことでちょっと行ってくるわ」
俺はジャックとジルに軽く手を振り、食器を片付けその場を後にした。
その場に残された二人。
「ジル、俺達も行くか?」
「あぁ、当然」
二人は席を立ち決闘が行われている場所に向かい始めた。
「……」
そんな二人を視界に収めた赤い髪を持つ少女も、彼らの後を追うように足早にその場を後にする。
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