第3話 友達作り②

 広い食堂には数人の男子生徒しか食事をしていなかった。

 食堂のおばちゃんに定食を頼み、三人が座ることのできる席を選ぶ。


 肉と野菜を炒めた物に白米のご飯、それについてくる野菜の入った透き通ったスープが食欲をそそる。美味しそうな見た目の期待を裏切らないその味は、母親の作る料理に引けを取らない美味しさだった。

 食事を堪能しながら俺は話を切り出す。


「それで二人はとかいるのか?」


 部屋でのやり取りは自分の事を聞かれたので、今度はこっちから聞くことにした。俺が質問を投げかけるとピタリと二人の食事の手が止まる。


「「答えないとダメ?」」


 二人とも同じ反応をした。


「さっき俺は答えたのにそっちが答えないのはずるくない?」


 少しの沈黙の後、俺は指名した。


「はい、まずはジャックから」


 気まずい空気が流れ、固く閉ざしていたジャックの口が開かれる。


「……サシャ」


 ぼそっと呟くその名前の持ち主の姿はすぐに想像できた。クラスで積極的に俺に話しかけていた先生の妹。


「サシャのどこが好きなんだ?」


 さらに深く追求する。


「……胸かな」


「最低だな」


「冗談だって。……誰に対しても優しいところが好きかな」


 そう言ってジャックは顔を左下に向ける。本人は堂々と言ったつもりだろうが少し赤面している。

 ””という純粋でまっすぐな理由を言うジャックを応援したくなってくる。


「なるほどな、それでジルは?」


「妹」


 即答だった。反応に困ったがどこが好きなのか尋ねると、


「まぁ、唯一の家族だからな」


 ……。


「学年が一つ下だから学院内で会うことがあるかもな」


 複雑な事情があることを察し、俺は深く聞かないことにした。


 しばらく沈黙の空気が流れ、無言の食事になる。長い沈黙の空気に先に根を上げたのはジャックだった。


「ローは明日大変そうだな」


「ん?なんかあるの?」


「「明日は」」


 ――魔法実技。

 魔法学院の授業内容の一つで、その評価内容によっては大魔法祭のメンバーに選ばれる選考内容になっている。授業があることは理解していたが編入二日目にあることは初耳だった。


(曜日で決まっているのだろうか?)


 それでも大魔法祭の出場を目指す自分にとっては手の抜けない授業だ。


「確かにその授業があるのは知ってるけど、何か問題があるの?」


「「……」」


 二人は顔を見合わせる。


「リゼに狙われるぞ」


 ジャックが真剣な顔で話す。


「さっき部屋で話したろ?リゼは魔道具を使う人、作ってる人が嫌いって話。魔法実技は模擬戦形式で、相手を指名して合意が取れたら対戦ができるんだが……明日、リゼに狙われるぞ」


「……あー。どうしようかな」


「もちろん、断る権利も当然ある。魔法実技で俺らと試合する予定だったと言えば話はそれまでになる」


 少し悩むがすぐに答えは出せた。


「まぁ、何とかなるでしょ。もし指名されたら受けることにするわ」


 負ける気はしないし、模擬試験で対戦を避けてると追い回されることになりかねないからな。謎の自信と今後の学院生活の事を考えた結果だった。


「……二人は誰とするつもり?」


「「……明日次第かな?」」


「気になってるんだけど、なんで二人の喋る言葉が同じなの?」


 部屋での会話でもそうだった。俺が投げかけた問などを、二人が同じ言葉を同時に答える。仲のいい兄弟や双子のような受け答え、しかし背格好は似つかなかない。俺の心の中の引っ掛かった疑問を解決させようとする。

 真剣な眼差しでジルが答えた。


「ジャックは貴族の中でも優しい家庭で、親を亡くした俺ら兄妹を拾ってくれた命の恩人。対等な関係をジャックは望んで、今は親友。だけど俺はジャックと妹のためなら命を懸ける」


「それは許さないけどな」


「って感じで今に至る感じ」


「なるほどな」


 二人が出会い、親しい環境で暮らしていたことを納得し、互いを対等とする関係を築いていることに少し羨ましさを感じる。


「……今日はそろそろお開きにするか」


 食事を終えた俺らは食器を片付け、部屋へと戻る。

 

 階段で別れた後、一人考えていた。


 誰もが持つ複雑な環境。大魔法祭に出場するため、様々な事情を持つ者と争うことになる。その中で多くの願いや望み、野望を断ち切っていかないといけない。


「……はぁ」


 今日ついたため息の中で、一番深いため息をついた。

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