第2話 友達作り①
学院から少し離れたところに寮が存在した。
森の方向へ徒歩数分の場所に赤レンガで作られた建物が二棟。
5階建ての建物で右が男子寮、左が女子寮になる。
男子寮の玄関で年を取った男性から自室の鍵を受け取った。その鍵には《A―510》と書かれたタグが付けられており、部屋の場所を指し示していた。
A棟が男子寮、B棟が女子寮であり、510は5階にある10号室を表している。
階段を上り5階を目指す。
……長い。
上る速度は徐々に落ちていき、最上階に着くころには息を荒くしていた。
屋上から入った方が良いんじゃないのか?そう思えてくるほどに階段は長かった。
長い廊下にいくつもの部屋があり、最上階の端に自室が用意されていた。
渡された鍵を使いドアを開ける。開かれた先には、一人で過ごすには十分すぎる広さの空間が広がっていた。おそらく我が家の自室より広いその空間。この寮は相部屋が基本である為、この広さを自由に使っていいという学長の心意気が、俺に罪悪感を与える。
そんな広い空間の角に、編入が決まってから荷造りをした箱が、山のように積まれていた。
……荷解き。
すっかり忘れていた。編入初日の緊張感にドジな担任と休憩時間に押し寄せてくるクラスメイト、そして友好的な関係を築けないでいた隣の女子生徒。
目まぐるしい一日の最後の最後の仕事が残っていた。
必要な物だけを取り出し徐々に荷解きを終えればいいとも思ったが、中途半端な状態で投げ出すとそのまま過ごしてしまいそうであった為、荷解きを今日中で終わらせることにした。
荷解きにはさほど時間はかからなかった。持ってきた物と言えば学院生活で必要になるであろう生活用品。そして、魔導書を作る道具一式と参考資料となる書物だけであった。部屋にある机とその周辺は一瞬で我が家と同じ光景になった。
荷解きを終えると一日の汗を流すためシャワールームに向かった。
シャワーを浴びながら今日あった一日を振り返る。
コゼット姉妹。姉のフレイヤ先生は物腰は柔らかいがドジっ子要素が不安になる。妹のサシャは少し強引なイメージがあったけど悪い人ではないな。
クラスのみんなの自己紹介は出来てないけど授業態度は真面目で好印象を受けた。
「私、貴方みたいな人嫌い」
ふと、赤髪の彼女の言葉が脳裏をよぎる。
これからちゃんと話すことができるのか、不安交じりのため息がこぼれる。
……明日の事は明日考えよう。
濡れた髪をタオルで拭きながら部屋着に着替える。
コンコンと木製のドアをノックする音が部屋に響く。
「はぁい」
返事を返し、湿ったタオルを洗濯用の籠に入れ、部屋の入り口へ向かった。
誰が来たんだろうと不思議に思いながらドアを開ける。
「「あっ、合ってた」」
開けた先には二人の少年がいた。
黒髪で俺と同じ背丈の少年に、たくさんの飲み物を抱えている背の高い青髪の少年。どこかで見たような二人組。その答えはすぐに明かされる。
「俺はジャック。俺ら同じFクラスなんだけど昼間は自己紹介できなくて、こっちの背の高いのはジル。最上階の隅にある一部屋が編入生の部屋になるって寮長が言ってたからさ」
寮長は玄関で鍵を渡してくれたあの男性の事だろうか?
昼間は質問攻めで名前と顔を覚える暇が無かったから、クラスメイトとこうやって話す機会ができたのは正直嬉しかった。
「俺の事はローって呼んでくれ、こっちもジャック、ジルって呼ばせてもらうから。それでこの時間にどうした?」
「この時間なら帰ってきてるよなって思って、昼間話せなかった分喋りに来た。これ、飲み物。好きなやつとっていいよ」
「ここで立ち話もあれだから中に入る?……面白い物何もないけど」
俺は適当に飲み物を一つ選び二人を部屋の中に案内する。
「「広っ‼」」
二人の声が重なる。
とりあえず適当に腰かけるように指示した。
「やっぱ広いのか。学長が用意したんだけど」
全員、椅子やベットに腰かけるとジャックが話し始めた。
「俺とジルは相部屋だけど広さでいえばこの部屋の半分くらいしかないぞ?」
……。
学長の私権限で、この広い部屋を用意してもらったことが申し訳なく感じる。
受け取った飲み物の蓋を開け口をつける。
柑橘系の香りと甘酸っぱい風味が口に広がる。一日の疲れを癒すその風味を堪能する。
……美味しいなこれ。
「なぁ!クラスで気になる女の子いた?」
ジャックの一言で飲んでいた飲み物を思いっきり吹き出す。
「いきなりだな」
「ジャックは色恋話大好きだからな、それでいたのか?」
ジルがジャックの言動を補足しながら興味津々に聞いてくる。
……この二人はいきなりなんてことを聞いてくるんだ。
そもそも自己紹介をしてない人多いし、誰々さんが好きっていうのを
しばらく悩んだ挙句、一人の女の子の姿が頭の中によぎる。
「あっ」
「「いるのか?!」」
二人が食いつくように反応する。
「自己紹介とかしてないからあまり、けどしいて言うなら俺の隣の席の赤髪のあの子かな、名前知らないけど」
二人が顔を見合わせて少し額に汗を浮かべる。
「あー。……リゼか」
「リゼ?彼女の名前?」
「リゼ・フリーリア。その様子だとフリーリアの悲劇も知らなさそうだな」
ジャックは俺の表情を読み取ると彼女のことについて話し始めた。
「フリーリアの悲劇っていうのは、リゼの兄が魔剣を使って妹以外の家族全員を皆殺しにしたって話。その兄がなんで家族を殺したのか理由は不明で、今は行方を晦ませているらしい」
「ちなみにその兄のせいでリゼは魔法道具を使う人が嫌いで、魔法道具を作ってる人はもっと嫌いらしい。そのせいで周りの人もリゼと関わろうとしないんだよな、そして付いたあだ名が《血染めのリゼ》」
ジルが補足する。
「……だから俺は嫌われていたのか」
「なんか言われたのか?」
「私、貴方みたいな人嫌いって言われた。けど、事情を聞いたら仕方ないな」
真剣な話をする俺達の話の間で腹の虫がなる。
その音はジャックからだった。
「腹減った。ローも飯まだだよな?飯食いながら続きを話さないか?」
確かにこの寮に食堂があることは学長から渡された資料で見たが、場所がまだ分かっていなかった。
「そうだな、食堂の場所分からないし案内してもらおうかな」
そう言って三人揃って部屋を後にする。ジルが持ってきた飲み物は
「残りはローが飲んでいい」
と言って残った数本の飲み物を部屋に置き、一階にある食堂を目指し階段を下り始めた。
「ちなみに俺達の部屋はA―403号室だから、何か聞きたいことがあったら来ればどちらかは部屋にいるはず」
四階に着いた時にジャックが部屋のドアを指差し紹介する。
一階にある食堂に着いた頃には、時計の針が夜の九時を指し示していた。
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