星を紡ぐ魔女
夏川冬道
星を紡ぐ魔女
放置された廃ビル街は昼も夜も関係なく薄暗い。度重なる戦争で荒廃しきった地上には文明も歴史も消え去りビル街の来歴に気を留めるものも少ないだろう。
その廃ビル街の片隅にあるビルの屋上に小さなテントが張ってあった。テントのそばには焚き火が灯しており、そこにダッチオーブンが焚き火の炎で温められていた。
その横で白い髪の少女が焚き火を眺めながらギターを爪弾いていた。その行為に深い意味はない。ただなんとなくギターを爪弾きたい、そんな気分だったからだ。
ふと、ビルの片隅に小枝が折れる音がした。白い髪の少女は音のしたほうを向いた。そこには二足歩行するヒグマのような容貌をした男がいた。
「こんなところにいたのか……ウィッチ」
「アーサー・クライン卿……私を追ってこんな辺鄙な場所まで来たのね」
ウイッチはアーサー・クラインをうんざりした表情で見つめていた。
「俺が言いたいことはわかっていると思うが改めて言うことにする。ウィッチよ、アンダーシティに戻ってこい」
「何度言ったって無駄よ……私の意思は変わらない。外の世界で自由に生きると決めたの」
ウイッチはつれない表情でアーサーのお願いを切って捨てた。
「外の世界は危険なカル・カール人や、獰猛なバイオビースト、そして、殺戮マシンがうようよしているんだぞ。そんな危険な世界で自由に生きることは死と隣り合わせだ……アンダーシティにいれば身の安全は保証される。それでも自由を選択するのか?」
「大丈夫よ……私はあんな下賤な奴らには殺されないわ。それに自由を求める私の心は誰にも止められないわ」
白い髪のウィッチの言葉にアーサーは困ったような表情をした。
すると大気が震え飛行する大きな鳥のようなバイオビーストが高速にアーサーとウィッチめがけて飛来してきた! 二人は反射的に地面に伏せて怪鳥の突撃をやり過ごす!突撃の余波で焚き火の火が消えていった!
「アーサー、間一髪だったわね。しかし、あのバイオビーストは執拗に私たちを狙ってきそうね」
上空を見ると怪鳥が上空を旋回し、完全に二人をロックオンしたことがわかる。
アーサーは大口径の拳銃を向けて、夜空に向けて発砲したが怪鳥には命中しなかった。
「そんな豆鉄砲じゃバイオビーストは倒せないわ」
「でも! どうやって倒すんだよ!」
「魔術を使うのよ……こうやってね」
ウィッチは不敵に笑うと魔法陣が展開され風が吹き荒れる!
「うわっ!」
アーサーは思わず目をつぶった!
「飛翔せよ、コーヴァス」
ウィッチの詠唱とともに機械の翼を持つ鎧人形が現れ怪鳥に向かって飛翔していった!
「こ、これが魔女の究極の魔術……こんな間近で見るのは初めてだ」
アーサーはコーヴァスの威容に思わず息を飲んだ!
「さて、さっさと片付けるわよ!」
ウィッチ……コーヴァスは怪鳥を目掛けて魔弾の照準を定める、対して怪鳥もコーヴァスを見据え、敵機の心臓を狙い打とうとする。怪鳥とコーヴァスは高速接近する!
「グルァァ!」
刹那、怪鳥が悲鳴を上げて大地に墜ちていく! コーヴァスの魔弾が怪鳥の急所に命中したのだ!
「これが究極の魔術……なんて凄い魔術なのだろう」
アーサーは思わず涙を流していた。魔女の魔術により獰猛なバイオビーストを撃墜したのだ。それはアーサーの目には現実離れした光景に見えたのだ。
コーヴァスは数回、上空を旋回したあと魔法陣を経由してウィッチとして降下した。
「これでわかったでしょ? 外の世界でも私はうまくやっていけるっていうことをね」
しかし、アーサーは何も答えなかった。
「アーサー? どうしたの?」
ウィッチは慌ててアーサーに駆け寄る。心なしか声色は動揺しているように見えた。
「すまない……ウィッチの魔術に放心状態になってしまったよ」
「まったくそんなに私の魔術が見たいのなら私の後をついてくればいいわ。その代わりに私がアンダーシティに戻りたいと思ったときには一番にアーサーに教えてあげるわ」
「……ウィッチ、それは本当か?」
「約束するわ」
そして二人は夜空を見上げた。空には星々が瞬いていた。
星を紡ぐ魔女 夏川冬道 @orangesodafloat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます