第4話 リア凸
「さて、ついたぞーっと」
車から降り、大きく伸びをする。道中何事も無くここに着いたのは幸運か。久しぶりの地面の感覚が心地よい。目の前に見えるのはvuで馴染みの店「黒の輪」と同じ外観の喫茶店。こんな田舎にvuの名店と同じ店があるとは誰も思わないだろう。一つ違うのは店の名前が「白の輪」になっている。”昭和”と呼ばれた時代の雰囲気を醸し出す喫茶店。とても渋い。closeと書かれた木製の札を無視してドアを開ける。
カランコロンと心地よい音色でドアベルが鳴る。
「こんにちは」
「は~い。どちら様でしょうか」
ロイが半分ドアを開けたまま店内を見渡すと、これまた見慣れたレイアウトの店内のカウンターにはマスター...ではなく細身で美しい女性がたたずんでいた。
「あ、どうも初めまして。狭間ロイです」
「あらあら、まあまあ!お待ちしておりましたわ。ささ、お掛けになって」
「ありがとうございます」
勧められるままに席に着く。机の上に珈琲が置かれる。
「この度は父が申し訳ございません」
突然、女性が頭を下げる。
「ちょっと、どうしたんですか大丈夫ですよ。頭を上げてください」
ロイは慌てて頭を上げさせる
「無理にこんな田舎に呼んでしまい申し訳ございません。私、娘の榛原クロエと申します。初めまして。いつも父からロイさんの話をよく聞いてます」
「そ、それはどうも。マスターには感謝してます。恥ずかしながらリストラされてしまった所で牧場の求人票を用意してくださったんですよ。それにしてもこの町は良いところですよ。自然に囲まれて静かな点が素晴らしいです」
そう言って出されたコーヒーに口をつける。フルーティーなアロマとまろやかなコク。酸味のきいた繊細で芳醇なテイスト。もしかしたらvuで飲むものよりも美味しいかもしれない
「お口に合いましたか?これは海外から特別に取り寄せたものなんですよ」
「そうなんですね。とっても美味しいです」
ロイは微笑みながら答える。
「ふふっ。良かったです」
クロエが嬉しそうに笑う。
暫く他愛のない話をしていると
「お待たせしました!」
と言ってマスターが二階からやってくる。心地よいバリトンボイス。初老だが芯が通った姿勢であり、衰えを一切感じさせない。優雅な動作でカウンターに立つ。電脳廃人とは思えないイケオジだ。
「ロイ君。改めて自己紹介させてください。私は榛原宗一郎。喫茶『黒の輪』と『白の輪』のマスターをしています」
「こちらこそはじめまして。狭間ロイと申します。これからお世話になります」
「よろしく頼むよ」
部屋を借りようか迷っていたが、マスターがしばらく家に泊めてくれるというので、甘えてしまった。
二階はかなり広く三人暮らしするのに十分な設備が整っていた。ベッドは大きく二人で寝ても余裕があるほど広い。窓の外を見ると田んぼと民家が遠くに見える。
「荷物はすでに運んでいるので確認してください。今日の夜、馴染みの客を呼んで歓迎会をしたいんですけど大丈夫ですか?」
「もちろんです」
そうマスターに答える。
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