コンクルージョン

第46話 白銀世界


『センリ――おい、センリよ……起きぬか』


 まったく……いつも、お主は寝てばかりじゃな――と皇女殿下が笑う。


『まあ、それだけ、頑張っている証拠じゃな……』


 偉いぞ――と言って彼女が俺の頭をでた。

 子供ではないので止めて欲しい。


「いい加減にしてくれ……」


 そんな俺の言葉に、


なにを恥ずかしがっておる』


 やれやれ、困った奴じゃ――と皇女殿下は肩をすくめた。


「俺が悪いのかよ……」


 思わず、溜息が出る。皇女殿下はクスクスと笑った後、自分の姿を確認すると、


『それにしても、の姿が子供のままとは……』


 どういうことじゃ、このロリコンめっ!――と下段回し蹴りローキックを繰り出す。

 夢のはずなのに、やたらと痛い。


(手加減して欲しいモノだ……)


 俺が足をさすっていると、


『それよりも〈白銀〉と戦ったようじゃな……』


 どうじゃった?――急に話を変えてくる。

 どうもこうもない。対話にすらならなかった。


『まあ、そもそも対話が可能であれば……』


 打つ手は他にあったからのう――皇女殿下は考え込むような素振りを見せた後、


『一番近いのは〈蠱毒こどく〉じゃな』


 とつぶやいた。俺でも知っている呪術の一つだ。


へび百足むかでなどの生物を同じ壺に入れて……」


 互いに共食いさせるという奴だな――確認のため、補足する俺に対し、


『そして、生き残ったモノを毒として使うのじゃったな』


 そう言って可哀想なモノでも見るような視線を送ってくる。

 つまり、俺が――その毒だ――とでも言いたいらしい。


 〈白銀〉が人類を閉じ込め、人々を争わせる理由。それは――


「どうやら〈白銀〉は〈魔法〉という毒を持つ、最強の人類を作りたいらしいな」


 そのために――〈魔法〉の資質がある――様々な人類を戦わせるための世界を準備したのだろう。現に魔人族のような新たな種族も誕生している。


 だからこそ、一定の戦力が集まると――それを見極めるために戦いを挑んでくる――そう考えるのであれば、辻褄つじつまが合う。


『状況からの推測でしかないがのう……』


 皇女殿下は――やれやれ――と首を振ったかと思うと、


『そろそろ時間じゃ……』


 後は若い者同士、仲良くするがよい――と年寄りみたいなことを言い出す。


(いや、実際に年寄りか?)


 変な夢である。そう考えている間にも皇女殿下の姿は遠ざかって行った。


「待ってくれ! まだ、話したいことが……」


 あるんだ――そう言い掛けて手を伸ばした時だった。


「あらあら!」「はわっ」「キャッ☆」


 同時に俺の身体の上になにかが降ってきた。

 思わず――ぐえっ!――と声がれそうになる。


 低い天井が見えた。動いてはいないようだが、トレーラーの中のようだ。

 そして、俺は眠っていたらしい。


 なぜかソフィアとユナ、アカリの三人が俺の身体の上に倒れるように乗っかっている。目があった瞬間、三人とも誤魔化ごまかすように笑顔を浮かべた。


「添い寝なら一人ずつにしてくれ……」


 冗談で言った俺の言葉に、


「い、いえ、それを決めていたのですが……」


 とソフィア。ユナとアカリも互いに顔を見合わせ苦笑する。

 どうやら、誰が俺と添い寝をするのか、争っていたらしい。


 他の皆は外にいるのだろうか?


「もう大丈夫だから、退いてくれ」


 俺が言うと、


「も、申し訳ございません」「すみません」「ごめんネ……」


 とソフィアたちは謝る。そんな彼女たちを見ていると『俺が悪いことをした気になる』のは、なぜだろうか?


 俺は上半身を起こし、溜息をくと、


「いや、寝起きで気が立っていた」


 悪かった――と謝る。

 しかし、ソフィアは首をゆっくりと横に振った。そして、


「いいえ、結局、私の我儘わがままで……」


 皆を危険な目にわせてしまいました――と殊勝な態度を取る。

 珍しいこともあるモノだ。学園に通って成長したのだろうか?


 俺は苦笑すると、足を投げ出し、簡易ベッドから起き上がる。

 荷物を運搬する目的で作られているため、立って歩く程度の広さはある。


「これから、忙しくなるぞ」


 なにせ『天使』を倒してしまったのだからな――俺は告げると片膝を突いた。

 慣れていないのか、ユナとアカリが互いに顔を見合わせる。


 俺はその姿勢のまま手を出す。ソフィアが俺の手を取った。


「確かに、人は争うようにできている」


 けれど、それだけじゃない――そう言った俺に対し、ユナとアカリもソフィアの真似をする。俺はそんな三人の顔を見詰めて、


「どうか、これからも――俺を助けて欲しい」


 今更な言葉を投げ掛ける。

 ソフィアたち三人は顔を見合わせて微笑ほほえんだ。


 この世界は滅びを迎えようとしているのかもしれない。

 けれど、人々は互いに手を取り合い、お互いを支え合って生きている。


 それだって、人間の持つ立派な力ではないだろうか?

 今回は、そんな彼女たちの力に助けられた。


 人の想いや願いは、繋がることで世界を巡る。

 ソフィアたちは、まだ気が付いていないようだ。


 いつしかそれが、世界を大きく変えることに――

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