第42話 センリ:国境(1)


「まだ、戦闘は始まっていないようですね」


 そう言って、ソフィアは――よかった――と胸をで下ろす。

 国境沿い――とおぼしき境界線。


 その近くには砦のような建物が二つ、にらみ合うように建っている。

 お互いに監視するのが目的なのだろう。


 一方で集まっている兵士たちには緊張感がない。

 『戦闘の意思はない』ということだろうか?


 決して堅牢けんろうとはいえない砦。現状では見張り台程度の役目しかなさそうだ。

 しかし、念のため砦の増設を行っているらしい。


 お互いに〈魔法〉でブロックを作り、積んでいるようだ。

 それよりも――


かつての戦争の名残なごりか……)


 いたるところに大小様々な窪地くぼちや高台が目立つ。

 砲弾――いや〈魔法戦〉のあとだろう。


 お陰で隠れる場所に苦労しなくて済む。


「本当にワタシたちだけで、戦いを止められるでしょうか?」


 とはユナ。不安そうに俺を見詰める。

 最初は――解放軍さえ止めることができればいい――と考えていた。


 それが帝国との戦争へと発展してしまっている。

 ユナでなくても不安になるだろう。


 今、俺たちはソフィア、アカリ、ユナ、ジゼルとガルシーア。

 更にトウマとザファルを加えた八人で行動していた。


 他の面々には王都へ行って、ソフィアが生死不明の情報を流してもらっている。

 どの道、あの規模の爆発があったのだ。


 王国側としても調査する必要があっただろう。

 俺たちの乗っていた車をカエデたち使ってもらうことにした。


 戦闘に巻き込まれる可能性もある。トレーラーに積んであった〈魔導兵器〉と一緒に――急ぎ戦場へと来た――というワケだ。


 頼みの綱はユナと一緒に見付けてきた〈魔法具〉となる。

 先日、地下の研究所に眠っていたモノで使えそうなモノを回収してきた。


 ただ、実際に使えるかはためしていない。


(そんな時間もなかったからな……)


 恐らくは〈魔法杖〉だろう。

 念のため持ってきたのだが、使うことになるとは思わなかった。


 ジゼルには『漆黒の杖』をガルシーアには『漆黒の槍』を渡している。

 ジゼルの方は厨二心をくすぐられたようで、大事そうに持ち歩いていた。


 最近、やたらとポーズを決めたがるのは、この杖のせいかもしれない。

 一方でガルシーアは『あつかいに困っている』という感じだ。


 素手で戦うコウガの影響もあってか、武器には頼りたくないのだろう。長身のガルシーアにはリーチも活かせて、合っていると思ったのだが、難しいモノだ。


 また、トウマには『漆黒の狙撃銃』をザファルには『漆黒の大剣』を渡している。

 魔人族であり〈魔法〉が得意なトウマ。


 彼には威力があって、射程が伸びる狙撃銃が合っているだろう。

 しかし、ザファルに渡した大剣は剣というより、角棒に近い形状になっていた。


 斬るよりも叩き潰すといった感じの武器だ。


(まあ、ザファルにはピッタリか……)


 大きさもザファルからすると大剣ではなく――普通の長剣ロングソード――といった感じだ。

 重体だったはずだが、すっかり回復しているらしい。


 先程から、携帯食をずっと食べ続けている。

 正直、このおっさんとはもう戦いたくはない。味方になってくれて良かった。


不味まずい状況かもしれない」


 とはトウマ。狙撃銃のスコープで帝国側の視察していたようだ。


「奴ら量産型の〈魔導兵器〉を八機も持ってきている」


 あの陣形では、更に追加があるだろうな――冷静に分析するトウマ。

 その報告にアカリは不安そうな表情をした。


「王都の兵はかく、戦い慣れた彼らなら大丈夫だろう」


 少なくとも、そう簡単にはやられないはずだ。


「やっぱり、協力して戦うようにあたしが……」


 とアカリは言うが、今は士気を高めるべきではないだろう。

 できる限り、開戦を長引かせてもらう必要がある。彼女の肩に手を置き、


「アカリはここにいてくれ」


 とさとす。確かに軍との連絡役ならアカリが適任だろう。しかし、


「アカリがいるから、ガルシーアがここにいてくれる」


 俺のその言葉で、アカリはガルシーアを見た。

 気不味そうに――フンッ!――とそっぽを向くガルシーア。その様子に、


「そっか、あたしのことを守ってくれるんだね☆」


 ありがとう、ガル兄!――とアカリは微笑ほほえんだ。

 恐らく、コウガからアカリのことを頼まれたのだろう。


 どちらかと言えば、アカリがいるお陰で不利な戦場に出なくて済んでいる。

 そのため――ガルシーアの方がアカリに助けられている――とも言えた。


「あの〈魔導兵器〉が使われれば、多くの人が命を落とすだろう」


 今までは『白銀』が外の世界からもたらす異物の争奪戦のみを行っていた。

 よって、異物さえ回収できれば戦いは終わる。


 もしかすると獣人同士で情報の交換を行い、交流していたのかもしれない。

 俺たちがこれだけ、お前たちはこれだ――という風にあらかじめ取り分を決める。


 そうすることで、無駄な争いをしなくても済むだろう。

 後は戦う振りをするだけでいい。


 どうせ上の連中は、前線へ出て来ることはないだろう。

 しかし一度に大量の血が流れてしまえば、そういうワケにも行かなくなる。


 血で血を洗うあらそいが始まり、それは王国と帝国の間のみ限らず、この『白銀』の世界全体に波及はきゅうするだろう。


 俺たちが参戦することで、更に〈魔導兵器〉が使われる確率は高くなる。

 少なくとも、今は情報を集める段階だ。


「王国も帝国も、兵士たちの士気は低いようだしな……」


 と俺の考えを皆に伝えた。

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