第41話 センリ:軍師(2)


「俺たちには優秀な軍師がついているからな」


 そう言って俺は再びジゼルを見る。

 なんとか誤魔化ごまかしてくれないモノだろうか。


「フッ、そのために我が魔王様に策をさずけています」


 ビシッ!――と杖を俺に向けるジゼル。

 アイコンタクトのつもりだろうか? パチッ☆――とウインクまでしてきた。


(いや、なにも聞いていないのだが……)


 やはり、コミュ障の厨二病には荷が重いらしい。

 俺が悩む中、トウマたちは期待を込めた眼差まなざしで見詰めてくる。


まで、予測の範疇はんちゅうだ」


 詳しく教えてくれ――と俺はカエデに頼んだ。

 彼女の話によると、ネレイス帝国が王国との国境沿いに兵を配置したらしい。


 本来は『異物の回収』以外では干渉しない協定を結んでいるはずだ。

 明らかに敵対行為だが、軍事演習だとしらばくれてしまえば、それまでだろう。


 しかし、国としては兵を出さないワケにはいかない。

 ソフィアとアカリが顔を真っ青にする。


 ソフィアは姫としての立場からだろうが、アカリの場合は獣人族の皆を心配しているのだろう。


 戦争で矢面やおもてに立たされるのは、獣人族などの〈魔力〉の低い者たちだ。


 もしかすると、コウガがアカリを送り出したのは、この情報をつかんでいたからかもしれない。


「しかし、今は戦争をするタイミングではない」


 戦争とは基本、勝てる算段があって始めるモノだ。

 つまりは『落としどころ』が重要となる。


 攻めるにしても大義名分は必要だし、王国と総力戦をするのはリスクが高い。

 まさか、この『白銀』の世界を戦国時代にしたいのだろうか?


 いや、意図は別にあるはずだ。だとすれば――


「王国の兵を国境沿いに集めさせ、その隙に王都で反乱を起こさせるつもりか……」


 それなら、カエデが王都から脱出してきた理由も分かる。なるほど、トウマたちの次の手は――旧体制派の革命を成功させること――だったようだ。


 しかし、そのために押さえておくべき姫であるソフィアと、実行部隊を補佐するための解放軍は俺の目の前にいる。


「反乱は失敗ではないのか?」


 俺の疑問に、


「それが分からない連中だから、反乱を起こすのです」


 とトウマが答える。なにやら、哲学めいたモノを感じる。

 行きすぎた選民思想という奴だろうか?


 根拠もなしに『選ばれた自分たちは勝てる』と思っているのかもしれない。

 それで犠牲になるのは弱い立場の者たちだというのに――


(為政者なら考えて行動して欲しいモノだ……)


「解放軍としては――革命後にクーデターを起こせばいい――という算段か……」


 やはり、ジゼルの読み通りだったな――俺は再びジゼルに振る。

 当然、彼女とそんな話をしたことは一切ない。


 人気にんきのない旧体制派が政権を奪ったとしても、国民たちがそれを許さないだろう。

 しかも、軍部の大半は獣人族や蜥蜴とかげ族だ。


 クーデターも楽々成功するだろう。


「そこまで読まれていたとは……」


 これは勝てないワケだ――とトウマ。

 いや、むしろ、そんな計画を立てて実行できるトウマが軍師になって欲しい。


「クックック、すべては計算通り……」


 これを使いましょう――とジゼルは火口ように煙を上げる窪地くぼちを杖でしめした。

 そして、言ったはいいが――困りました、助けて――という目で俺を見る。


(じゃあ、なんで言った?)


 そんな振り方をされても、俺だって困る。

 いっそのこと、この事故でソフィアが亡くなったことにするのはどうだろうか?


 根本的な解決にはならないが、時間稼ぎくらいにはなりそうだ。

 そんな俺の視線に気付いたのか、


「どうされました、救世主様?」


 とソフィアが首をかしげる。ジゼルは俺の意図をんだらしい。


「姫には『ここで死んだこと』になってもらいます」


 とジゼル。多分、考えなしだろう。それにしても、台詞セリフの後に一々ポーズをとるのは、どうにかならないだろうか? なぜかこっちが恥ずかしくなる。


「なるほど! 姫の探索に王都の兵を駆り出すのですね……」


 当然、有力な貴族も駆り出される――とトウマ。


「そっか、そんな時に反乱を起こしても、国民の反感を買うだけだよね☆」


 とアカリはうなずく。


「よく分かりませんが『反乱の大義名分』というのを無くす……」


 ということでしょうか?――ユナは俺に質問する。

 分からないという割には、俺より理解が早いようだ。


「あー、つまり、王族が気に入らないから、ぶっ飛ばそうぜ……」


 てのがいて『でも、王族死んだよ』ってことか?――とガルシーア。


「それだけではない」


 とトウマ。続けて、


「他国の王族が亡くなった時に攻め入る帝国……」


 つまりは帝国が姫を暗殺したのではないか、そんな図式が成り立つ――と告げる。

 やっぱり頭がいいので、ジゼルをめさせてトウマに軍師になってもらおう。


 しかし同時に――こんな感じで勘違いしていたんだな――とも想像できる。


「その通りです!」


 とはジゼル。自信満々の態度だが、目のはしには涙が浮かんでいた。

 表面上は冷静をよそおっていたが、内心ではパニックになっていたようだ。


「そこまで考えていたのですね!」「すごいよ、ゼルちゃん!」


 ソフィアとユナがジゼルをたたえる。

 いや、考えたのはトウマだけどな――まあ、面白いのでしばらく放って置こう。

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