第40話 センリ:軍師(1)


「救世主様っ!」


 そう言って、主人の帰りを待つ子犬のように駆け寄ってきたソフィア。

 それを俺は手で制す。


 まだ、身体の熱が下がっていない。触れない方がいいだろう。

 白煙となって、水蒸気のようなモノが出ていた。


(俺の身体は大丈夫だろうか?)


 現状、特に問題ないが、始めての体験に心配になってくる。

 〈魔力〉の質を高めたことで、身体の自己修復が行われているのだろう。


 ダメージが相殺されているようだ。

 ソフィアとユナが俺を心配そうに見詰める。


 そんな中、一台のトレーラーがこちらへ向って走ってきた。

 トウマたちだ。


(取りえず、今は着替えだな……)


 そんな俺の意図をみ取ってか、ユナが服を渡してくれた。

 上着だけでも羽織っておく。不思議と『疲れた』という感覚はない。


 これが〈魔力〉を使った戦いだったからだろうか?

 どうやら〈魔力〉を循環じゅんかんさせて戦った場合、疲れ知らずの戦士になるようだ。


(その反面〈魔力〉を失うと倒れてしまうワケか……)


 〈魔法杖〉である『銃』や『刀』を使った戦い方には、まだ注意が必要らしい。

 近づいてきたトレーラーが停まるとトウマたちが降りてくる。


「ザファルは……」


 どこだ?――そう言い掛けたので、俺はあごで指す。

 アカリが〈魔法〉で治療してくれているが、どう見ても黒焦くろこげのかたまりだ。


「そうか、最後まで戦士として戦って……」


 トウマがそう言うと、彼の仲間たちもうつむく。


なにを言っている?」


 仕方なく、俺はガルシーアに視線を送る。ガルシーアは面倒そうに――へいへい――と返事をすると暢気のんきに寝ているザファルを蹴飛けとばした。


「にゃっ!」


 と声を出して、おどろくアカリ。

 ガル兄、なにするのっ!――と言おうとしたのだろう。


 だが――バリッ!――炭化したザファルが割れると無傷のザファルが現れる。


蜥蜴とかげだし、脱皮みたいなモノか……)


「ううっ……」


 とうめき声を上げ、ザファルが目を開く。

 その場のほぼ全員が、信じられない状況に対して凍り付く中、


「我は負けたのか……」


 上半身を起こし、ザファルは頭を軽く左右に振った。そんな彼に対し、


「殺さないように倒すのに苦労したんだ……」


 感謝しろ――と俺。本当は全然、手加減など、できてはいない。

 むしろ、先程まで戦っていた窪地くぼちが未だに熱を持ち、赤く光っている。


 同時にモクモクと煙を出し続けているので――どうしようか?――と考えているところだ。


 地下にガスだまりがあって引火してしまった――という言い訳は無理そうだな。


「ジゼルに感謝しろ」


 と俺はザファルに告げる。一方で――わたし?――とおどろくジゼル。


「そうか、結局は助けられたのか……」


 となぜか涙を流すザファル。

 ジゼルに丸投げしただけだったが、上手い具合に勘違いしてくれたようだ。


「父親に続き、その娘にまで心配されるとは……」


 そんなザファルの言葉に、なぜかトウマたちも感動している。

 俺は――なにか言え――とジゼルに合図を送る。


 彼女は一瞬、困った表情をしたが、


「すべては我が〈魔王〉のため、さあ、貴方も忠誠ちゅうせいちかうのです」


 バサリっ!――とマントを大袈裟おおげさひるがえすジゼル。

 結局、ボールをこっちに戻してきた。ザファルは、


「我は生きていてもいいのか?」


 とくだらない質問を俺にする。


「少なくとも、お前と戦えたことで俺は強くなった……」


 お前が強くて助かった――そんなことを述べた後、


「だが、生きるかどうかは自分の足で歩いてから考えろ」


 未だ両足が回復していないザファルに対し、言い放つ。

 正直、話が見えない。


 ジゼルと過去になにかあったのかと思ったが、ジゼル本人はまったく意に介していないようだ。


流石さすがは魔王様と、その軍師殿――力もことながら、その知謀ちぼう……まこと敬服けいふくいたします」


 トウマがそう言って片膝かたひざくと、彼の仲間たちも同様に片膝かたひざき、頭を下げた。


「なあに、最善の策を取っただけですよ」


 とはジゼル。なにもしていないクセによく言う。

 その一方で、ソフィアとユナが俺に尊敬の眼差しを俺に向けてくる。


づらいな……)


 俺は全力で殴っただけなのだが、ここは下手なことを言わない方が良さそうだ。


「お前たちが忠誠をちかうのはソフィーリア姫だ……」


 立て、それより――と俺はクラトスの秘書官をしていた女性を指差す。

 狐の耳と尻尾を生やしている獣人族だ。


 どうやら、幻術のような〈魔法〉で変身していたらしい。


「カエデと申します――魔王様」


 貴族用? いや、獣人族の挨拶だろうか?

 ひじって、こぶしてのひらを合わせ、お辞儀をする。


 正直、一悶着ひともんちゃくあると思い――どう切り抜けようか――と内心、冷や冷やしていたが問題ないようだ。


 なぜか『ザファルが負けた』というのに感銘かんめいを受けているように見える。

 不思議だ。俺はカエデに、


「お前が『ここにいる』ということは王都でなにかあったのか?」


 と質問する。すると、


「やはり、お見通しでしたか……」


 とカエデ。いや、分からないから聞いたのだが――

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