第39話 センリ:決闘(3)


 俺のこぶしから放たれた雷の一撃。

 それはザファルの身体を貫通かんつうし、その後方の斜面へ向けて飛んで行く。


 そして、地面に衝突しょうとつし――ボカンッ!――と音を立ててぜた。


なにかおかしくないだろうか?)


 ザファルを感電スタンさせるつもりで放ったのだが、威力が高かったようだ。

 光線ビームのように飛んで行ってしまった。


 それでも効果は大きく、ザファルは苦痛のうめき声とともに、皮膚が赤くただれた左脇腹を抱えて後方によろめく。


 もう少しズレていれば、背骨にもダメージがいっていたかもしれない。

 また、げた箇所は回復が遅いようだ。


 砂の刃でつけた傷は回復しつつあるが、腹部の火傷は治る気配がない。

 ザファルは片膝かたひざくと――ガハッ!――と口から血をいた。


めにするか?」


 俺の問いに対して――冗談を言うな――そんな表情でザファルはにらみ返してくる。


(ま、そうなるよな……)


 しかし、ザファルの装甲に対し〈魔法〉が有効であることが分かったのは有難ありがたい。これで勝てる光明こうみょうが見えてきた。


 ただ〈魔法〉の威力が上がり、変化したのが気になる。

 考えられるのは〈魔法〉の組み合わせだろう。


 学園でのソフィアとユナの〈魔力〉によって、植物の生長は暴走した。

 〈魔力〉に相性があるように〈魔法〉にも相性があるようだ。


 使っていた〈魔法〉は土と風。恐らく、風の〈魔法〉との相乗効果だろう。

 ユナに聞けば詳しいことが分かるかもしれない。


 もう一度、試したいところだが、すでに警戒されているだろう。

 その証拠に、ザファルの腕が変化し、鋭い爪が出現する。


(あれで切り裂かれたら、痛いとかの話じゃないよな……)


 直観で左に岩の盾を、右手に風の盾を発動する。ザファルが間合いを一気に詰めてきたので、岩の盾で防御ガードするが、あっさりと斬りきざまれる。


 また衝撃波のようのモノが飛んできたので、風の盾で防御ガードしながら後方に退しりぞき、追撃をける。


 幸運にも、風で土煙が舞ってくれたお陰だ。視界をさえぎってくれた。

 ザファルの攻撃により、地形が破壊されたお陰でもあるのだろう。


 同時に疑問が確信に変わる。先程から直撃は受けていない。

 だが〈魔力〉の消耗が激しいと思っていた。


 その原因はザファルの攻撃による拳圧けんあつと破壊された地面から飛び散るつぶてだったらしい。どうやら、かわすだけでは駄目なようだ。


 〈魔法〉を調整し、様子を見ながら戦いたいところだったが、短期決戦に切り替える必要がある。ザファルの方も、そのつもりだろう。


 どうして、彼がそこまで闘志を燃やすのかは分からないが――死すらもいとわない――そんな覚悟を感じる。


(いや、俺と一緒か……)


 俺も皇女殿下のいない世界で、途方に暮れていた。

 ソフィアたちがいなければ自暴じぼう自棄じきになっていただろう。


 だがそれは、さっきまでの俺だ。

 手に入れたいモノ、守りたいモノがいつの間にか増えていた。


「悪いが、遊びに付き合っている暇はない!」


 俺はザファルに向かい、叫びながら突っ込む。

 ザファルの方も――面白い!――と言って構えた。


 体内における〈魔力〉の流れを加速させる。

 すると〈魔力〉が勢いよく燃え上がるように放出された。


 ただでさえ、黒い炎のような形をした〈魔力〉の鎧が全身を包み込む。

 これで攻撃力、防御力ともに強化されたはずだ。


 ザファルの両手による攻撃。かわすつもりはない。

 突っ込んだ俺に対し、勢いよく振り下ろしただけのモノだ。


 しかし、それでも十分な威力がある。

 〈魔力〉を放出していなければ、身体が四散していただろう。


 まずは右手で上段を防御ガードするが――ゴキリッ!――と嫌な音がする。

 完全に骨が折れたようだ。関節が一つ増えていた。


 そして、もう片方の手は俺の脇腹をえぐる。

 ビチャビチャッ!――と血と肉片が飛ぶ。


 ザファルは勝利を確信したのだろうか?

 いや、残念そうな顔をしている。あっけない最後だと思ったようだ。


「そう、ガッカリするなよ……」


 まだ、この世界でためしてないことがあるんだ――と俺はザファルをにらみ付ける。

 すると、まだ勝機を見出そうとする俺の様子に嬉々とした笑みを浮かべた。


 だが、もう遅い。俺の身体はまたたく間に再生する。

 ザファルの回復力にも匹敵する速さだ。


 そう、俺はこの世界でまだ、致命傷ちめいしょうになるようなダメージを受けてはいない。

 ザファルの右腕は俺の脇腹ですでに固定している。


 左手で抱えるようにおさえつけていた。

 その腕からはチリチリと煙が上がっている。


 ザファルは反射的に腕を抜こうとしたが、動かせずにいた。

 俺は〈魔力〉による質を高めたのだ。


 それをすべて熱エネルギーに変換している。

 身体に亀裂が入り、血管は溶岩マグマのように赤く光っていた。


 まさしく、俺の風体は――〈魔王〉――と呼ばれるに相応しかっただろう。

 なにしろ、あのザファルの表情に恐怖が浮かんだのだ。


 慌てて左手を俺から離したが、それが運のきだった。

 俺の右手が自由になる。


 体内にある、すべての〈魔法陣〉の属性を火に切り替え、俺は右手を撃ち放った。

 ザファルごと、大爆発を起こす。


 誤算だったのは、その効果範囲だ。

 窪地くぼちだったのが隕石の墜落跡クレーターのように広がってしまったらしい。


 ソフィアとユナが防御の〈魔法〉を使ったようで皆、無事だった。

 解放軍の側も、トウマが氷の壁を作って防いだらしい。


 しばらくは、火山が噴火ふんかしたような状態で、熱を帯び、赤く光っていた。

 そんな中、俺は気絶したザファルをかついで斜面を登る。


 皆のもとへ戻ると、


「アカリ、治療してやってくれ」


 とザファルを地面に寝かせた。

 皮膚は炭化しているが、大丈夫だろう。


 それよりも、酸欠で死ぬかと思った。

 自分の〈魔法〉で死にかけていては世話がない。

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