第38話 センリ:決闘(2)


 やがて一台の車が近づく。大きなトレーラーだ。

 荷台には〈魔導兵器〉でも積んでいるのだろうか?


 停止するとトウマたちが降りて来る。

 トウマの他には刑務所で見た看守と思しき男と双子の少年兵。


 そして、見覚えのある女性が一人。


(確か、クラトスの秘書をやっていなかっただろうか?)


 どうやら、彼女が情報を流していたようだ。

 ここに姿を現したということは、王都が危ないのかもしれない。


 一際大きな体の男性――ザファルが斜面を滑り降りるように、俺の方へと真っ直ぐに向かてくる。


 刑務所で戦った時よりも、一回り大きく見えるのは気のせいだろうか?


「待たせたようだな」


 とザファル。早く来たのは周囲の地形を把握し、罠が仕掛けられていないかを確認するためだったが、言う必要はないだろう。


「先に準備運動ウォーミングアップを始めさせてもらっていた……」


 お前はいいのか?――わざと挑発するように、俺は質問で返す。


「問題ない……」


 とザファルは一言。どうやら、前回のように問答をする気はないようだ。

 俺が〈魔王〉だという確信でもあるのだろうか?


 身構える俺に対して、ザファルはなにかを感じ取ったようだ。


「ハアァッ!」


 と気合の入った声を上げるとへその辺りに力を込めるような姿勢を取る。軽く手合わせをするのかと思っていたのだが、最初から〈魔法〉で強化するようだ。


 ザファルの筋肉が盛り上がり、全体的に大きくふくれ上がる。

 俺もかさず、体内に〈魔力〉を循環じゅんかんさせた。


 奴の変身が終わるのを待っている義理はないので、俺は攻撃を仕掛ける。

 地面をって飛び上がると、ザファルの顔面を攻撃した。


 キックとパンチを連続で放つが、ダメージにはなっていないようだ。

 刑務所の時と〈魔力〉の質が違う。


 ダメージを与えるには、もう少し〈魔力〉を込める必要があるらしい。

 俺は一旦、距離を取ることにした。素早く後方へと跳躍ジャンプする。


 その一方で、ザファルの身体は変化して行く。筋肉が膨れ上がり、衣服をいてあらわになった身体を今度は漆黒のうろこが包み込む。


 背中から頭部と腕、下半身をおおう。

 それは鎧のようであり、その姿はまさしく恐竜だった。


(刑務所の時より、恐竜っぽくなってないか?)


 正直、恐竜を殴って倒せるイメージが湧かない。

 格闘技も通用しそうになかった。


 取り敢えず〈魔力〉を溜めて身体をおおう。

 黒い炎のような〈魔力〉をまとうと、俺は右手を突き出す。


 そして、左腕の〈魔法陣〉で土属性の〈魔力〉へ変換すると、右手へ循環じゅんかんさせて火属性の〈魔力〉を付与する。


 相手は巨大なため、狙いを正確につける必要はない。

 俺の腕からねっせられた石の弾丸が発射される。


 普通の相手なら、吹っ飛びながら燃えるはずだが――


(効かないんだろうな……)


 案の定、ザファルはけることすらしない。

 飛んでいる虫でも払うかのようにねっせられた石の弾丸を払った。


「嫌になるな……」


 まったくっ!――俺は愚痴ぐちると同時に〈魔法〉を連射する。

 ザファルの変身が完了し、姿勢を変えたからだ。


 俺に向かって突撃してくるのは分かっていた。

 すべて命中し、一部は焼けたが、瞬く間にザファルの身体は修復される。


(やっぱり無駄か……)


 せめて、ザファルの突撃の威力を相殺できればと思っていたが無理なようだ。

 まるで誘導弾ミサイルのように突っ込んでくる。


 俺は両足に〈魔法陣〉を展開させ、風の〈魔法〉を使うことでザファルの攻撃を避けた。慣れていないため、吹っ飛ばされたような着地に見えたかもしれない。


 一方で――ドンッ!――とまるで大砲のような音が聞こえたかと思うと、俺が立っていた場所が窪地くぼちになっていた。


 こぶしで地形を変えるとか、止めて欲しいのだが――


(これでは、恐竜というより、戦車を相手にしているようなモノだ……)


「ほお……〈魔法〉を使えるようになったか」


 とザファル。少しおどろいているようだが、俺もおどろいている。


「結構、簡単だったぜ」


 余裕を見せつつ答えてみるが牽制けんせいにすら、なりはしないようだ。

 むしろ、楽しそうに見える。


 やだやだ、そういう表情をされると――


(俺まで楽しくなってきてしまう……)


 しかし、今のままの戦い方ではザファルにダメージを与えることはできない。


「武器を使ってもいいんだぞ」


 ザファルの言葉に、


「断る」


 と俺は短く返す。ザファルと同じ条件で倒さなければ意味がない。

 〈魔法〉の使い方は間違っていないはずだ。


 ならば、組み合わせを試すしかない。

 ザファルは跳躍ちょうやくするとこぶしを振り上げ、俺目掛けて攻撃してくる。


(早いなっ!)


 再び、風の〈魔法〉で距離を取る。


 ――ドカンッ! ドカンッ! ドカンッ!


 ザファルのこぶしで、大地が音を立てえぐれる。

 これでは砲弾と変わらない。


 ザファルが着地した瞬間、俺に狙いを定めると突撃してきた。

 ビタンッ!――と尻尾を使った方向転換だ。


(そういうのもありなのか……)


 しかし、予想はしていた。俺は土と風で土煙を発生させる。

 単なる目潰し程度だが、効果覿面てきめんだ。


 ザファルの体当りを上にぶことで回避し、背後を取る。

 着地は腕で行い、足での攻撃に切り替えた。


 土と風で砂の刃を作り、足技と組み合わせる。

 ザファルの鋼鉄の身体をかすかに斬りきざむ。


 目が見えていないため、ザファルの攻撃は、俺には当たらない。

 また、逆立ちしていることで、リーチが変わっている。


 俺は攻撃をかわしながら、態勢を崩したザファルを蹴り飛ばした。

 だが、倒したワケではない。


 今度は水の球を作り出し、ザファルの頭をおおう。

 呼吸ができなくなり、慌てて起き上がるザファル。


 両手で顔の水を払ったので、ボディがガラ空きだ。

 俺は雷の〈魔法〉をこぶしに乗せ、腹部に一撃を放った。

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