第34話 センリ:集落(1)


 俺がザファルに勝てなかった理由は、やはり〈魔法〉への知識だろう。

 〈魔力〉の質については、こちらの方が上だ。


 単純に考えるのなら、同じ〈魔法〉を使った場合、俺が勝つ。

 しかし、それで勝っても面白くはない。


 面白い?――どうやら、俺は楽しんでいるらしい。

 皇女殿下に仕えていた頃は、俺より強い奴など山ほどいた。


(俺はどうやって、戦っていただろうか?)


 結局のところ――努力と創意工夫――そして、それを楽しむのが一番だ。

 後は強者に教えをうのも手だろう。


 だが――必ずしも教えるのが上手い――とは限らない。

 俺はそのことを経験から学んでいた。


 単に皇女殿下の周りには『変人しかいなかった』とも言える。

 その結果――実戦経験を積んだ方が早い――というのが俺の結論となった。


 都合のいいことに、目の前には強者が立っている。

 アカリの父親でコウガという人物だ。


 あのガルシーアが『オヤジ』と呼んでしたっているので、獣人族の中でも一目置かれている存在なのだろう。


 くれない獅子ししと言った風体ふうていだろうか? 向かい合うだけで、肌がピリピリとする。

 危険を感じ取っているらしい――いいねぇ――思わず口元がゆるんでしまう。


 今がどういう状況かというと、刑務所で気を失った俺をアカリとガルシーアが運んでくれたらしい。


 アカリの話によると、面倒な手続きは刑務所の所長がやってくれるそうだ。試させてもらったよ――と言っていたそうなので、後でお礼をねて殴りに行こう。


 エレクトラといい、施設の関係者は曲者くせものばかりだ。

 皇女殿下がどこかに隠れていて、俺の様子を見て笑っている気がしてならない。


 流石さすがに刑務所では一泊する気には、なれなかったようだ。

 アカリは俺を連れて、近くの集落まで移動することにした。


 すると――彼女の実家がある集落の近くまで送る――という流れになる。

 集落まではアカリが俺を背負おうとしたが、ガルシーアが背負ってくれたらしい。


 部下として、それくらいはやってもらわないと困る。

 アカリの住んでいた集落は木造の建物が多いためか、和風の要素が強い。


 丁度、彼女の父親も家に帰って来ていたようだ。

 俺はそこで一晩眠っていたらしい。


 朝起きるとアカリが一緒の布団で寝ていたので〈魔力〉を回復することができた。

 だが――そこをアカリの父親に見付かった――というワケだ。


 そして今、このような状況になっている。

 ちなみにガルシーアは『庭の大きな岩』にり込んだまま一夜を過ごしたらしい。


 このバカ息子がっ!――とコウガに言われると同時に鉄拳制裁で吹っ飛ばされたようだ。


「その後、母さんに怒られていたけどね……」


 アカリが教えてくれる。どうやら、この家ではアカリの母親の方が強いらしい。

 折角せっかく、綺麗にしている庭の景観を壊されて怒ってしまったのだろう。


 しかし、そんな状態でも眠れるとは……ガルシーアも器用なモノである。今は――オヤジが手を下すまでもねぇ、オレが叩きのめしてやる!――と言っていたので、


「うるせぇっ! 引っ込んでろ!」


 とコウガのこぶし炸裂さくれつした。丁度よかったので、俺も一緒に殴っておく。

 俺たちのダブルパンチに吹っ飛ばされ、ガルシーアは今、庭の池に沈んでいる。


「うーん、三割程度か……」


 俺は殴ったこぶしを開いたり閉じたりしながらつぶやく。

 完全回復には程遠いが、いつも万全な状態で戦えるとは限らない。


 むしろ、戦闘のたびに気を失っている。

 早々に対策を講じる必要があった。


「負けた時の言い訳か」


 とコウガ。大切な娘を取られて、相当機嫌が悪いようだ。


「そんなところだ」


 俺は飄々ひょうひょうとした態度を取る。

 また、丁度いいと思い、質問してみることにした。


「なあ、獣人族は〈魔力〉が少ないんだよな……」


 どうやって、制御しているんだ?――俺はコウガにたずねる。また、


「どうやら俺は〈魔力〉を一度に使い過ぎてしまうらしい」


 そんな俺の台詞セリフにコウガはあきれたのか――ハァ――と溜息をく。

 バカはガルシーアだけで十分だという顔だ。


「〈魔力〉は常に体内を循環じゅんかんさせろ――そして、めを作れ! それができたら……」


 今度は〈魔力〉のまくで自分を守るんだ――と親切に教えてくれる。


「なるほど、循環じゅんかんさせることで〈魔力〉を均一に保ち、特定の場所にめることで……」


 動きながらでも〈魔力〉を一個所に集中するのか!――俺は納得する。


「となると、自分をおおう〈魔力〉については量より質が重要になるな……」


 ありがとう――礼を言うとコウガは変な顔をした。

 まるで『気持ちが悪い』といった表情だ。俺は軽く腕でためしてみる。


 体内の〈魔力〉を循環じゅんかんさせて、集中させやすいこぶしめる。一定量まで〈魔力〉がまると――バチバチッ!――と音を立て、外に排出された。


 これを『まとえばいい』ということか。

 丁度、池からい上がってきたガルシーアに向けて、こぶしはなってみる。


 すると〈魔力〉による拳圧けんあつが生じ、


「うがっ!」


 ボチャンッ!――と再びガルシーアが池に落ちた。


「これならザファルとも、いい勝負ができそうだ」


 俺はそう言って、コウガへと向かい合う。


「ふざけんな!」


 とガルシーアがなにか言っているようだが、俺は気にしない。

 コウガも律儀りちぎに待っていてくれたらしい。


 互いに構えると、ほぼ同時に俺たちは激突した。

 この後、庭が滅茶苦茶めちゃくちゃになってしまったのは言うまでもない。


 そして、最強はアカリ母であることが判明した。


(俺もアカリを怒らせないように気を付けよう……)

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