第五章 偽りの希望と

第31話 トウマ:隠れ家(1)


 リリス王国の国王直属の配下である護衛騎士プリンセスガード『クロキ・センリ』。

 奴がなぜ――あのような場所に来ていたのか――は分からない。


 ザファルとの会話からすると仲間を探しているようだった。

 だが、騎士が刑務所でそんなことをするだろうか?


(計画がバレていた可能性がある……)


 そう考えたオレは計画を前倒しすることにした。

 計画の中心人物となるザファルの脱獄を計ったのだ。


 そもそもの原因は『ソフィーリア王女の誘拐に失敗してしまった』ことに端を発する。


 旧体制派の貴族に、誘拐した姫を救出させ、王国のバランスを崩す作戦だったのだが――白紙に戻ってしまった。


 敵国である帝国に協力し、下げたくもない頭を王国の貴族に下げたのだが、無駄になってしまったようだ。


 帝国の方は数ある作戦の内の一つだろう。

 それ程、期待はされていなかったため、問題とはならなかった。


 しかし、旧体制派の王国の貴族連中はどうだ。計画失敗の報告に狼狽うろたえるだけではなく、責任をすべてオレたちに押し付けてきた。


(救いようのないバカどもめ……)


 オレたちが捕まれば一蓮いちれん托生たくしょうだというのに、それすらも理解できていないらしい。切り捨てればいい――と考えているようだ。


(実際にそれをするのは、こちらなんだがな……)


 旧体制派に実権を握らせた後、帝国に戦争を仕掛けてもらう。

 当然、戦力の足りない旧体制派はオレたちを頼るしかない。


 帝国と戦う振りをして、武器や食料を調達する。

 後は帝国側につくだけだ。


 獣人族や蜥蜴とかげ族を失えば、王都の陥落かんらくもすぐだろう。

 しかし、そのためには急ぎ、以前からの計画を実行する必要があった。


 当初は刑務所の囚人たちを反乱分子として利用する計画だったのだが――そこへ例の護衛騎士プリンセスガードの介入だ。


 囚人たちを味方につけるためにも、ザファルに指揮をってもらう必要があった。

 だが、それを見透かしたように、奴はザファルへと接触を行う。


 ザファルを別の場所に移動されてしまっては、再び計画を考え直さなくてはならない。流石さすがにそこまで悠長ゆうちょうなことをしていては、帝国にも見限られてしまう。


 それだけは、避けなくてはいけない。

 現場の判断でザファルだけでも、我々のもとに来てもらうことにした。


 少なくとも、これで囚人たちに反乱を起こさせることは可能だろう。

 後は帝国側から兵を出してもらい、王国側に対応させる。


 更に刑務所で反乱を起こすことで、王都から鎮圧させるための兵を出さなければならない。


 これで王国の兵力はガタ落ちだろう。

 その間に――旧体制派が国を乗っ取る―――という計画だ。


 ザファルをおさえられては、その計画が根底からくつがえされてしまうところだった。

 余程の知恵者が姫のそばにいるのだろうか?


 作戦を実行する前に、もう一度、状況を整理する必要がある。本来は――しいたげられている魔人族を助けたい――という思いで解放軍を立ち上げた。


 故郷に妹を残して行くのは心配だったが、このままでは未来は変わらない。

 仲間はすぐに見付かった。同じようなことを考えている連中は多いようだ。


 ソフィーリア姫の誘拐計画を実行に移すまで、実にスムーズだった。

 だが、そこでオレは失敗してしまう。


 妹であるユナの介入だ。

 まさか、姫と一緒にいるとは誰が予想するだろうか?


 そもそも、泣き虫だった妹が王都に出てきているなど、考えもしなかった。

 すべての失敗の原因はオレにある。


 情報では姫を助けるような存在は皆無かいむだったはずだ。

 本来なら時計台へ向かう途中で確保できていた。


 後は『天使』に見せ掛けた〈魔導兵器〉が姫を連れさればいいだけだ。

 しかし、破壊されてしまう。王都の軍がこれほど優秀だとは聞いていない。


 つまりは――あの姫の私兵――ということになるだろう。

 あの『護衛騎士プリンセスガードあやしい』という結論になる。


 案の定――刑務所でも邪魔されてしまった――という訳だ。

 情けない話だ。


 だが〈魔導兵器〉が破壊されたことで、作戦失敗に対するオレへの責任の追及がれた。やはり〈魔導兵器〉の破壊は予想外だったのだろう。


 そういった意味では、奴の存在がオレを助けたことになる。


(なかなか、複雑な心境だな……)


 オレが溜息をくと、


「新しい情報が入ったわよ」


 とパスクアーレが部屋に入ってくる。

 鳥人族の戦士なのだが、ナルシストで口調がおかしい。


(有能ではあるのだがな……)


 今、オレたちは王都の近くにある集落に身をひそめていた。

 集落の長はオレたちに協力的なため、色々と便宜べんぎを図ってくれている。


 有難ありがたい話だが――それだけ彼らも苦境に立たされている――ということだろう。

 部屋にはオレの他に、蜥蜴族のザファルと昆虫族の双子レニエとレムスがいる。


「で、どうだった?」


 オレの問いに、


貴方あなたの読み通りね」


 とパスクアーレは書類をテーブルの置く。

 クラトスという貴族につけている秘書からのモノだ。


「このジゼルっていう、蜥蜴族の女の子が軍師を名乗っているらしいわ」


 パスクアーレの言葉にザファルが反応する。

 資料では普通の少女のようだが、


「知り合いか?」


 オレの言葉にザファルはうなずく。


「娘の友達だ」


 と短くつぶやく。


(オレの妹だけではなく、ザファルの知人まで……)


「どうやら、オレたちはソフィーリア姫を誤解していたようだ」


 ただの世間知らずなお姫様だと思っていたが、認識を改めなくてはいけない。


「まるで、こちらの手の内をすべて見透かされているような気がしてくるわ……」


 困ったわねぇ――とパスクアーレも頬に手を当て、溜息をく。

 彼女はとんでもない化け物だったようだ。

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