第27話 アカリ:刑務所(2)


「なぜ、急にオレたちの誘いに乗る気に……」


 囚人の一人がザファルへと話し掛けている。

 彼は包帯で顔を隠しているが、やはりそうだ。


 あの時、ソフィアを襲った『仮面の男』だ。独特の雰囲気をまとっているので、すぐに分かった。〈魔力〉の濃さが、他の連中と異なる。


 前回は気付かなかったけれど、その〈魔力〉を薄いまくのように使い、身体をおおっていた。まるで鎧のように見える。


(それで、あたしの攻撃が通らなかったのか……)


 あたしは気付かれないように物陰から、様子をうかがっていた。

 隠れたり、気配を消したりするのは得意な方だ。


 今回は彼に仲間がいるため、これ以上は近づけない。

 一方、ザファルの方は無言のようだ。あきらめたのか、


「いや、今はいいか――騎士に気付かれる前に、ここを離れよう……」


 ついてきてくれ――と男はザファルに手で合図をした。

 そして真っ直ぐに、あたしが身を潜めている方へと向かってくる。


 彼の仲間の二人は当然のように、その行く手を警戒していた。

 このままだと、あたしもすぐに見付かってしまう。


 逃げた方が良さそうだ。立ち上がり、振り返ると看守の一人が立っていた。


(丁度いいや、状況を説明して……)


 そう思って近づいたのだけれど、どうにも様子がおかしいことに気が付く。

 あたしは素早く下がった。


 看守は腕を伸ばし、あたしを捕まえようしていたらしく、その手は空をつかむ。

 なぜ、看守が? いや、普通に考えれば分かることだ。


 彼らが、どうして刑務所に潜入できたのか?

 刑務所内部に手引きした者がいる――と考えるのが普通だろう。


「にゃっ!」


 不意に両脇をから二人の人影が現れ、あたしは左右から捕まってしまう。


(本気を出せば振りほどけるけど……)


 二人は双子のようで面立ちがよく似ていた。


なにをやっている」


 とは誘拐犯だ。あたしの背後から声を掛けてきた。


「騎士と一緒に来た軍人よ――どうやら、気付かれたようねぇ……」


 困ったわぁ――と頬に手を当て、看守は悩ましげに答える。

 オカマだろうか? あたしの周りにはいないタイプだ。


 筋肉質でごつい身体をしているが、爪は綺麗だった。

 一方で、双子の男性――いや、少年たちだろうか?


 あたしを中心にくるりと反転する。

 目の前には誘拐犯。その後ろにはザファル。


(これは詰んだかな?)


 誘拐犯の彼は腕を伸ばすと、あたしのフードを取った。そして、


「お前は……」


 あの時の!――とおどろく。


「やあ、お久しぶりだね☆」


 とあたしは挨拶あいさつをしてみた。

 やはり、ソフィアを誘拐しようとした『仮面の男』で間違いないようだ。


(同じニオイがする……)


「どうするつもりだ?」


 とはザファル。誘拐犯の彼は即答しようとしたが、その目つきに気圧けおされ、一瞬言葉に詰まる。


 どうやら、言葉を選んでいるようだ。

 下手なことを言うと、ザファルに殺さるとでも思ったのだろうか?


 正直、あたしにはあまり『怖い』という感じはなかった。

 どちらかと言えば、見た目で損しているタイプだろうか?


 あたしをつかんでいる双子の少年たちは力でせるとして、問題は〈魔法〉だ。

 恐らく、誘拐犯の彼は〈魔法〉のあつかいにけている。


 ユナなら兎も角、あたしの〈魔法〉だと相殺されて終わりだろう。

 かといって、体術も不利だ。


 〈魔力〉を鎧のようにまとっているので、あたしの攻撃は決定打にならない。

 後ろのオカマ看守の実力も未知数である。


 あたしに出来るのは『センリくんが来てくれるまでの時間稼ぎ』と『隙を見て逃げ出す』ことくらいだろう。


「まずはここから出るのが先だ」


 この娘は後で開放する――と誘拐犯の彼。

 すぐには殺されないことに、あたしは安堵する。


 ザファルもその返答に納得したのか――うむっ!――とうなずいた。

 しかし次の瞬間、あたしの口は氷の〈魔法〉でふさがれる。


(冷たい……)


「さあ、行くぞ」


 と誘拐犯の彼が指示をすると、ザファルと双子の少年、そしてオカマ看守までもがついてくる。外に乗り物でも用意してあるのだろうか?


 流石さすがに正門へは向かわない。この方角は運動場のようだ。

 センリくんとガル兄の戦いを観に行ったのだろうか?


 看守の姿は見当たらない。どうやら、上手く利用されたらしい。いや、このために――試合をするように条件を出された――と考える方が妥当だろう。


 思ったよりも多くの人間が刑務所の職員として、入り込んでいるようだ。


(これは迂闊うかつに動かない方がいいかも……)


 あたしは大人しく、運動場まで連行されることにした。

 運動場につくと、誘拐犯の彼は頭上に〈魔法〉を放つ。


 氷の〈魔法〉だろう。上空で砕け散り、キラキラと輝く。


「すぐに来るさ」


 と誘拐犯の彼。すると、


『どっせい!』


 ドカンッ!――という轟音と一緒に、そんな掛け声が聞こえた。

 土煙が舞い、視界が見えなくなる。


 双子の少年とオカマ看守が――ケホケホ――と咳込んだので、あたしは透かさず、双子を持ち上げ、その頭同士をぶつけた。


 人間カスタネット――と父が言っていたような気がする。

 どう見てもシンバルだけれど、語呂が気に入ったのだろう。


 頭蓋骨ずがいこつつぶれていないだろうか? うん、大丈夫! 気絶しているだけだ。

 あたしは身をかがめると、その場からコッソリと逃げ出した。


 口元の氷は〈魔法〉のため、融ける様子はない。

 仕方なく、素手で叩いて壊す。その一方で、


「たくっ、無茶しやがって……」


 とはガル兄の声だ。ケホケホとむせながら土煙を払う。


おりに閉じ込められていたのだから仕方がないだろう」


 計算通りだ――とはセンリくんの声。


(助かった!)


 とあたしが思ったのも束の間。

 土煙が晴れてくると、二人はなぜかおりの中にいた。


 どうやら、戦いのためのおりはセンリくんを閉じ込めてくためのモノだったらしい。

 ガル兄はその巻き添えを食らったのだろう。


おりが開かなかったら、おりごと出ればいい」


 簡単な理屈だ――とセンリくん。周囲には壊された壁の破片が散らばっている。


「どんな脱獄方法だ!」


 とはガル兄。


「取りえず、強い〈魔力〉のする方に来てみたが……」


 正解だったようだな――勝ち誇ったように言うセンリくんに対し、


おりの中でなに、格好つけてやがる!」


 ガル兄が彼の頭を殴った。

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