第23話 センリ:学園(6)


 学園長であるエレクトラから見せてもらった資料。

 それによるとジゼルは蜥蜴とかげ族のようだ。


 この世界において、人は動物などの特徴を持って生まれてくるらしい。

 ソフィアは長寿で耳が長く、アカリは獣の耳と尻尾を持っている。


(ユナは上手く隠しているのだろう……)


 ジゼルの場合は包帯を巻いている箇所にうろこがあるのかもしれない。

 『黒炎』と言っていたことから、色は黒だろうか?


 他人がそれを見た場合、あまり好ましいとは思わないだろう。幼い頃、住んでいた村が戦火に巻き込まれたようだが、彼女だけは無事だったらしい。


 蜥蜴族が持つという――再生能力――それがいちじるしく高いようだ。

 ゆえに平和を望むと信じたい。


「両親のかたきてるとしたら、どうする?」


 出会ったばかりの少女にする質問ではないが、嫌われ役を買うくらいはいいだろう。俺の問いに対し、


「隊長殿――いったい、なにを……」


 言っているんだ?――そう言い掛けて、彼女は首を横に振った。そして、


「復讐か……考えたことがない訳ではない」


 とジゼルは答える。この学園にいるということは――他の人間よりも〈魔法〉の素養が高い――ということを意味している。


 現状では、人々の暮らしを良くするために〈魔法技術〉の発展へ力を入れているようだ。純粋な学問への探求、それがいつ私利私欲へ向いてもおかしくはない。


 人は環境に依存する。

 地位や名誉、あるいは金を得て、変わった連中を何人なんにんも見てきた。


 彼女がどういう考え方を持っているのか、確認しておく必要がある。


「確かに、今の世界の在り方が正しいとは思えない」


 だけど――とジゼル。ユナたちの方へと視線を移すと、


「例え、世間からうとまれようと、真っ直ぐに生きている連中もいる……」


 まぶしいな――そんなことを言って、彼女は微笑ほほえんだ。

 どうやらジゼルは、この学園で変わったらしい。


 それはユナたちのお陰のようだ。彼女は再び、包帯をした方の瞳を手で隠すと、


「クックック……我が〈魔力ちから〉の前では、すべては灰燼かいじんす」


 とポーズを取る。根本的な所は変わらないらしい。俺は、


「〈黒き流星〉センリが命じる――我が配下となり、黄金の妖精姫を守れ」


 〈魔炎竜〉ジゼルよ!――と命令する。


御意ぎょい!」


 そう言って、ジゼルは片膝かたひざいた。どうやら通じたらしい。

 このために『わざわざ死角となる場所へ移動した甲斐かいがある』というモノだ。


 かつて、皇女殿下の命令で参加した同人即売会での黒歴史が役に立つとは――

 人生とはなにがあるのか分からないモノだ。


 彼女は俺と通じ合ったと思ったようで、立ち上がると握手を求める。

 俺がその手を取った時だった。


 キャーッ!――と悲鳴が上がる。

 一人や二人ではない。複数の悲鳴だ。


なにがあった!」


 慌てて俺は木陰から飛び出す。飛び出したはずなのだが、なにやら暗いままだ。

 花壇の植物が生い茂っている。


(いつの間に……)


 ほうけた顔でかがんだまま上を向いているユナに、


「大丈夫か! ソフィアはどうした?」


 と質問する。彼女は黙って上を指差した。

 いや、おどろいているため、声が出ないのだろう。


 見上げると、そこには建物よりも巨大な植物が空に向かって伸びていた。

 どうやらソフィアは、その植物の蕾の上に乗っかっているようだ。


「どうして、こんなことに……」


 俺は疑問を口にしながら、ユナを抱きかかえると後ろに飛び退いた。

 成長した巨大な葉が倒れてきたのだ。


れている?)


「そ、ソフィアさんが〈魔力〉の供給なら救世主様で慣れていると言って……」


 とユナ。どうやら、二人で〈魔力〉の供給を行ったらしい。確か、エレクトラが〈魔力〉の調和により『特殊な〈魔力〉』がどうとか言っていたような気がする。


「それで植物が急成長したのか……」


 葉が倒れてきたのは、成長により枯れたためだろう。

 俺は植物をこんな風にしてしまうような〈魔力〉を注がれているらしい。


(考えるのは後だ……)


 上を見ると綺麗に咲いた花の上にソフィアが座っている。

 意外に楽しそうだ。


(そう言えば、風の〈魔法〉で飛べるんだったな……)


 しかし、植物は周囲を巻き込み、まだまだ成長を続けているようだ。

 どこまで大きくなるのか分からないが、枯れるまで放って置くのは得策ではない。


 生徒たちもパニックになって逃げ出している。


「ユナ、植物をそっちに倒すから避難しろ」


 彼女の返事を待たず、俺は〈魔法杖〉を召喚する。

 右腕に〈魔法陣〉が浮かび上がり、黒い刀剣が現れた。


 再び、人がいないことを確認すると、俺は成長し続ける植物を一刀両断する。


(おいおい、斬れすぎだろう……)


 〈魔導兵器〉へと銃を放った時と同じで〈魔力〉の調整が難しいようだ。

 刀身の長さよりも明らかに広い範囲の植物を刈ってしまった。


 立ちくらみを起こしたが、気力を振り絞り、植物の上を駆け上がった。

 〈魔力〉による身体強化のお陰だろう。


 自分でも信じられない速度が出る。一瞬にしてソフィアのもとへと辿たどり着くと、


「あら、救世主様♡」


 暢気のんきに女の子座りをしている彼女を抱えて飛び降りた。

 着地に成功すると同時、大きな音を立て、植物が中庭一杯に広がる。


怪我けがはないか?」


 俺の問いに対し、


「胸が――キュンッ♡――としています……」


 フフフッ――と頬を赤くしながら、嬉しそうに微笑ほほえむ。

 やれやれだ。姫じゃなければ、この場で落としてしまう所だ。


 しかし、それよりも――


「余計に目立ってしまった……」


 俺はそう言って周囲の惨状を見渡す。

 中庭はメチャクチャで、校舎の壁にひびが入ってしまっている。


 窓ガラスも何枚なんまいか割れたようだ。


(もしかして、このお姫様……)


「行く先々で、破壊活動をしているんじゃないだろうな?」


 そんな俺の疑問の言葉を受けて、ソフィアはあごに指を当てると――うーん――と少し考える仕草をした後、


「そんな訳、ないじゃないですか」


 と微笑ほほえむ。俺の考えすぎかと思っていると、


「たまぁになら、あるかもしれません」


 ソフィアは答えるのだった。

 今後、彼女と出掛ける時は、色々と注意が必要なようだ。


 ユナたちが――大丈夫ですか?――と駆け寄ってきたので、ソフィアをゆっくりと地面に降ろす。


 さて、エレクトラにどう言い訳をしようか?

 お互いのことを心配し合う少女たちを尻目に俺は一人、頭を抱えるのだった。

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