第22話 センリ:学園(5)


 魔女っ娘『ジゼル』――彼女の実力を知りたい所だ。

 流石さすがに『面白い』という理由だけで仲間に引き込む訳にはいかない。


「我が加わったからには、多大な戦果を挙げてみせようぞ……」


 クックック――と意味深に笑い彼女は意気込む。

 いったい、ソフィアはなにを吹き込んだのやら……。


 女子たちの輪の中に、積極的に入る訳にも行かず、俺は様子を見守ることにした。


「で、魔王殿とは、どういう御仁ごじんでゴザルかな?」

「アタシも気になっていたナリぃ♪」

「我も軍師として仕えるのであれば、聞いておこう」


 本人のいる前で、そういう話をするモノだろうか?

 好奇心旺盛な三人娘。


 ソフィアは話したくてウズウズしているようだが、ユナは困った顔をしていた。

 国家機密である上、ソフィアが狙われている。


 だとすれば、迂闊うかつに話すと彼女たちまで危険にさらされてしまうだろう。

 さて、どう誤魔化ごまかしたモノか……。


(それにしても、授業はいいのだろうか?)


 俺が余計な心配をしていると、


「あらあら、余り者四天王が随分ずいぶんと騒がしいこと」


 そう言って、更に騒がしそうな桃色髪の縦ロールの少女が――シャララン♪――と取巻とりまきを連れて現れる。手には扇子を持っていることから貴族だろうか?


「それとも、魔人族は〈魔力〉も高いので『余裕』ということかしら?」


 どうやら、ユナを標的にしているようだ。

 上から目線で彼女に圧力を掛けてくる。


「そちらこそ『重箱の隅をつつく』という言葉を知らないようでゴザルな」


 とくノ一。多分、知らないだろう。それに自分たちが『重箱の隅』――取るに足らないモノ――だと言っているようなモノだ。


「そうだそうだ! 『残り物には福がある』ナリぃ!」


 眼鏡っ娘も応戦する。

 この二人は黙っていた方がいいのではないだろうか?


「今は授業中でしてよ……騒ぐのであれば、他の生徒にも迷惑です」


 そう言って扇子を広げ、口元を隠すと、桃髪縦ロールはそっぽを向いてツンとする。その後、視線だけを動かし、ユナへ向けると、


「ま、まあ、分からない所があるというのであれば……」


 教えてあげないこともありませんわ――とデレた。

 どうやら、仲間に入りたかっただけのようだ。


(この学園は面倒な生徒しかいないのだろうか?)


 ユナは返答に困っているのか、作り笑いをしている。


なにを困っているんだ?」


 俺はくノ一に耳打ちすると、


「魔人族の〈魔力〉はけがれているとうわさになっているのでゴザル」


 気にする必要はないと思うのでゴザルが――と教えてくれた。

 今は植物に〈魔力〉を流し、成長具合を観察しているようだ。


 遣り方が分からないのではなく――自分の〈魔力〉に問題がある――と考えているのであれば、ユナの性格からいって、積極的に動くのは難しいだろう。


「これがユナの花壇か?」


 その一角だけ、植物の成長が上手く行っていない花壇がある。


「は、はい」


 と答えるユナ。俺は彼女からノートを受け取ると内容を確認した。

 どうやら〈魔法〉には属性があり、ユナは〈闇〉と〈氷〉の属性持ちのようだ。


 植物の育成には、相性が悪いらしい。授業なので『植物が育てばいい』という単純なモノではないようだ。この分では成績に響くかもしれない。


(これは植物の選定から、やり直した方が良さそうだな……)


 少なくとも、多くの実験結果が必要だろう。

 そのためのグループなのだろうが、上手く機能していないようだ。


 他の生徒たちも、効率よく植物が育つ方法を探しているだけらしい。結果を予測し、実験を行い、最適解を見付けるがこの授業の目的のような気がする。


(自分たちで気付く必要があるな……)


「ユナは〈魔力〉が高いから、植物には毒かもしれない」


 素人意見で適当なことを言って、俺はノートをユナに返す。これで――ユナの〈魔力〉にあった植物を探そう――と考え直してくれるといいのだが……。


 俺は同時にジゼルを見た。


(〈魔炎竜〉と言っていたし、彼女の属性は〈火〉だろうか?)


「この授業は誰かに、協力してもらってもいいのか?」


 それとなく、周囲に聞こえるように言ってみる。

 個性が強いので、グループで協力する方が効率的だろう。


 ユナがリーダーシップを発揮するいい機会だと思ったのだが、


「でしたら、私が手伝います!」


 とソフィアが手を上げる。

 部外者がなにを言い出すのやら……。


「いえ、それでしたら、わたくしが……」


 と桃髪縦ロールも張り合う。同時に、


「ところで貴女あなた何者なにものですの?」


 そう言って、彼女はソフィアの顔をのぞき込んだ。

 やれやれ、上流階級のお嬢様同士、仲良くして欲しい所だ。


 喧嘩にならないことを祈ろう。


「あら、貴女あなたは――いえ、貴女あなた様はソフィーリ……」


 そこまで言って、桃髪縦ロールは言葉を失う。

 どうやら、気付いたようだ。社交界だろうか? 面識があるらしい。


 また、状況判断にも長けていたようだ。一度、周囲を見渡した後、扇子を広げる。

 そして、口元を隠すとなにやらソフィアに耳打ちした。


(どうして姫様がこんな場所に?――といった所だろう)


「あらあら……」


 なんのことかしら?――そんな表情でとぼけるソフィア。

 どこかで気付かれるとは思っていたが――


(思いの外、早かったな……)


 俺は喧嘩にならなかったことに安堵する。

 ニコニコと笑顔のソフィアに対し、桃髪縦ロールは困惑の表情を浮かべた。


 それでも、すぐに結論は出たようで――行きますわよ――と言って、彼女は取巻とりまきを連れて立ち去る。戦略的撤退という所だろうか?


 俺はその間にジゼルに合図を送った。

 少し離れた場所で、話をして置きたかったからだ。


 ソフィアから目を離すのは心配だが、ユナも一緒だし、大丈夫だろう。

 死角となるように木陰へと入る。


なにかな? 隊長殿……」


 素直に付いてきたジゼル。案外ノリノリのようだ。

 彼女の方から声を掛けてきた。


「自己紹介がまだだった――と思ってな……」


 俺は『クロキ・センリ』……お前の上司になる訳だが――と語り始める。

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