第19話 センリ:学園(2)


 受付で学園長との面会の許可を取る。

 俺たちが来ることは予想できていたのか、直ぐに許可が下りた。


 ユナには悪いが、学園長室までの案内をしてもらう。

 学園内を見る限り〈魔法〉に対する研究も行われているようだ。


 生徒以外にも職員の姿が目立つ。

 白衣に身を包んでいる姿は〈魔法使い〉というよりも、科学者だった。


「〈魔法〉の研究をするために、学園へとどまっている人たちもいるんですよ」


 とユナ。彼女は修復師レストレイターの資格を得るために学園へ通っているらしい。

 学園長の部屋の前まで案内してもらうと、俺はユナにお礼を言った。


 授業があるため彼女とは、ここでお別れとなる。

 出来ればソフィアも連れて行って欲しい所だが……。


(仕方がないか……)


 ユナとは後で会う約束をした。

 俺がノックをすると――どうぞ――返事があったので、中へと入る。


(女性の声?)


 それも若いようだ。

 てっきり、魔法学園ということでひげじいさんを想像していた。


「失礼する」


 そう言って、俺は扉を開けると、先にソフィアを通した。

 皇女殿下と一緒だった時のくせが抜けないようだ。


 ソフィアも『お姫様』ということでれているのか、すんなりと中へ入る。


「思っていたよりも、来るのが早くておどろいているよ」


 部屋の奥にある机。学園長と思しき人物は立ち上がると、俺たちに向かい一礼した。その姿を見て、同時に俺はおどろくことになる。


 学園長――その女性――の姿がかつての仲間にそっくりだったからだ。

 まさか『生きていた』という訳ではないだろう。


 例え『生きていた』としても『若い頃の姿のまま』なはずがない。


「やあ、ソフィーリア姫……それにセンリ君だね」


 肩の辺りで切りそろえられた髪に切れ長の目。

 美人ではあるが、少々話し掛けにくい雰囲気をまとっている。


 『眼鏡を掛けている』という違いはあった。

 だが『男装の麗人』といった服装まで瓜二つだ。


「わたしの姿を見ておどろいたということは……」


 記憶もあるようだね――そんなことを言って、学園長は笑みを浮かべた。

 その表情はどこか子供っぽい。眼鏡をクイッと動かすと、


「ああ、ちなみに……この姿は御祖母おばあ様の真似まねをしてみただけだよ」


 そう言った彼女はご機嫌な様子だ。

 どうやら、似ているのは外見だけらしい。


 中身は別人であることに俺は安堵あんどする。


「まあ、立ち話もなんだ……腰を掛けてくれ」


 彼女の名前は『エレクトラ』というらしい。先代の女王であり、俺が仕えていた皇女殿下の命令で適合者――特定の〈魔力〉の波長を持つ者――を探していたようだ。


 彼女の口振くちぶりから、王立で建てられた施設の目的の一つに『特定の〈魔力〉を持つ者の探す』というのがあるらしい。


「ご明察めいさつ――約束のソフィーリア様の誕生日に間に合って良かったよ」


 そう言って彼女は苦笑した。

 やはりユナは選ばれて、あの場に居たようだ。


 もし彼女が居なければ、俺は目覚めることなく、ソフィアも捕まっていただろう。

 あまり考えたくはない結末だ。


 軍関係では、アカリが適合者として選ばれたらしい。

 タイミングといい、なにか運命のようなモノを感じる。


 ただ、少女たちを危険な目に合わせたことに対しては容認できない。

 ソフィアがいない時に改めて言及げんきゅうするとしよう。


「俺を目覚めさせるために――特定の〈魔力〉が必要だ――ということは理解した」


 同時に、それは『ディアボロス計画』が上手く行かなかったことを意味する。

 少なくとも、あの時代〈魔力〉というモノの存在は物語の中だけだった。


「学園や軍の他にも、病院や図書館、刑務所にも関係者はいるのだけれどね……」


 適合者を見付けるのに、こうも苦労するとは――とエレクトラ。

 どうにも、彼女の姿は苦手だ。


 彼女の祖母は、俺にとっては『姉のような存在』であり、優しくもきびしかった。

 頭が上がらない――というヤツだろう。よく怒られていた記憶がある。


 その原因のほとんどは皇女殿下の振る舞いによるモノなのだが……。

 皇女殿下のお気に入りだった俺は、いつも彼女の一番そばに居た。


 つまり――彼女の行動を真っ先に止めなければならない立場にいた――という訳だ。当然、俺がそれを止められる訳もない。


 結局は皇女殿下の代わりに、俺が注意を受ける破目になってしまう。


「俺以外のDディアボロスシリーズは?」


 聞かなくても予想はついていたが、確認する。

 エレクトラは静かに首を横に振ると、


「残念ながら廃棄はいきとなった」


 そう答えるが、つまりは『失敗した』ということだろう。

 現状で分かっているだけでも『特殊な〈魔力〉』が必要だ。


 少なくとも俺自身は、三人の〈魔力〉が調和することで――新たに創造される――特殊な〈魔力〉により動いている。


 助かっているのは、その〈魔力〉が『起動時のみ必要だ』ということだ。

 起動後は三人の内、誰か一人に〈魔力〉を供給してもらえばいい。


 日常生活を送るだけなら、それで問題はなかった。

 逆に言えば、この条件をそろえることが難しかったのだろう。


 結局、成功したのは俺だけらしい。他にも条件はあるのだろう。

 だが『特殊な〈魔力〉』というのが一番の問題のようだ。


「戦力としては、期待できないのか……」


 想定はしていたが、やはり落ち込む。

 俺はどこかで『白銀』と戦うことを考えていたようだ。


(しっかりしろ――俺……)


 今はソフィアたちを守ることが最優先である。

 そのための力があればいい。


 俺がソフィアに視線を向けると、彼女は微笑ほほえみ、俺の手をにぎってくれた。

 再び、エレクトラに視線を向けると、


Dディアボロスシリーズについて、いくつか聞きたいことはあるが……」


 今日はいい――と俺は自分に言い聞かせるように断る。


「急ぎ必要なのは人材だ」


 そう告げた後、俺はエレクトラに説明をする。

 ソフィアが再び狙われる可能性があるため『使える人材が欲しい』という相談だ。


「なるほど、護衛騎士プリンセスガードの人材集めだね」


 納得をした様子でエレクトラはうなずく。

 その目は『面白そうだ』と言っているようだった。


 学園長という立場がなければ、彼女が立候補していたかもしれない。


「能力と忠誠心さえあればいい――と考えている」


 暗に『学生でもいい』という意味だったのだが、エレクトラはどう受け取ったのだろうか?


「学生に一人――君の考えている条件に合うのがいるよ」


 と彼女は微笑ほほえむ。どうやら、伝わっていたようだ。

 話が早くて助かるのだが、学生の立場からするといい迷惑だろう。


 俺は――ここの学生も苦労しているのだろうな――と勝手な想像をふくららませた。

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