第三章 学園の平和と

第17話 センリ:学園(1)


「よお、ユナ」「おはようございます、ユナ」


 翌日、俺とソフィアは『学園に登校する』というユナを待ち構えていた。

 学園の寮から出てきた彼女は、俺たちの姿におどろいていたようだったが、


「あ、おはようございます! センリさん、ソフィアさん」


 ぐに、にこやかな笑顔で挨拶あいさつを返してくれた。

 そんな彼女に対し、


「センリで構わない」


 お前は俺のマスターだからな――と告げる。

 それから――歩きながら話そう――と手をつないでもらった。


 俺は彼女たちから〈魔力〉をもらう必要がある。昨日は三人が一緒だったため、日常を送るのであれば問題はない程度に、回復することが出来た。


 しかし、俺の〈魔力〉には、まだまだ空きがあるようだ。

 このままでは、一緒に居るソフィアの負担が大きくなってしまう。


 そのため、ユナに手をつないでもらう必要があった。


「フフフッ♡」


 と笑う彼女。なにやら楽しそうだ。

 兄がいると言っていたので、思い出しているのだろうか?


 一方で、学園の寮のため、異分子の俺たちは目立つらしい。ソフィアが用意した学園の制服に着替えはしているが、どうしても人目を引いてしまう。


 ソフィアが美人なためだろうか?

 変装はかえって逆効果だったのかもしれない。


 制服姿のソフィアなど、目立つに決まっている。

 彼女が学園に通っていたのなら、知らない人間はいないだろう。


 あの、誰?――と声が聞こえる。

 その一方で――朝から女子と一緒かよ――という声も聞こえた。


 どうやら、俺がユナと手をつないでいるのも、目立つ要因のようだ。

 特に男子生徒からの視線を感じる。


「それで、朝からなんの用ですか?」


 そんな生徒たちの視線に気付いていないのか、無邪気なユナ。

 彼女の言葉に俺は、


「学園長に用があってな……」


 と告げる。ユナがソフィアと合流するように、時計台へと向かわせたのは学園長のようだ。であるのなら、味方の可能性が高い。


(早めに、情報を共有しておくべきだろう……)


 ソフィアには、そのことを告げてある。昨日は公園から戻ると、俺は早々に退院し、彼女の父である国王に会いに行った。


 娘の恩人であり、王都を救った――ということで、特例として面会の許可をもらう。強硬手段もさない考えだったが、クラトスが口添えをしてくれたらしい。


 すんなりと会うことが出来た。

 本来なら、正式に感謝を伝える場を設ける予定だったそうだ。


 だが、ソフィアの安全を考えると時間がない。

 クラトスにしても『自分ではソフィアを守れない』と思っていたのだろう。


 彼女をおそった連中の見当はついているのかもしれない。

 先代の女王から、俺のことを聞いていたのだろう。


 俺と一緒にいることが、ソフィアにとって安全だと判断したようだ。

 そもそも、相手は〈魔導兵器〉まで持ち出している。


 失敗した、あきらめよう――で済むのなら、そもそも実力行使などしない。

 少なくとも、国内で気付かれずに兵器を準備できる資金力を持っている。


 更には、ソフィアの行動を監視できる立場にいるようだ。

 打てる手は限られている。


 俺としては、そんな連中を野放しにする気はない。

 そのためにも、一緒に戦ってくれる仲間が必要だ。


 まずは俺が、彼女のそばに居ることへの免罪符が欲しい。

 妥当な所で、王直属族の部下となり、姫の護衛騎士となるのがいいだろう。


 そう考えた俺は国王と交渉し、名誉騎士の称号をもらうことにした。

 土地を持たない『一代限りの貴族』という所だ。


 皇女殿下に仕えていた時も似たような立場だった。

 授与式は後回しにするとして、護衛騎士プリンセスガードの称号を得る。


 俺は簡単に、ユナへあらましを説明した。


「という訳で、今の俺は隊長だ」


 と教えてやると、


すごいですね!」


 ユナは喜んでくれる。

 ソフィアとの会話はたまに疲れるが、彼女との会話はいやされた。


 そんなソフィアは「ごきげんよう」と知らない生徒たちに挨拶あいさつをしている。

 都合よく、制服を用意できる訳もない。


 以前から、学園へ潜入する計画を立てていたのだろう。

 注意するのも面倒なので、気が済むまで放って置くことにした。それよりも――


「そして、お前が今日から副隊長だ」


 即席でソフィアが用意してくれたピンバッジを渡す。

 デフォルメしたソフィアの形をしている可愛いアイテムだ。


 ソフィアがどうしても必要だと言ったので、夜中に俺がデザインした。

 それを専門の錬金術師に作らせたのだ。


 発想はかくとして、彼女の行動力にはおどろかされる。

 また〈魔法〉とは便利なモノだ。


 イメージさえしっかりしていれば、簡単に作成できてしまうらしい。

 これなら、大規模な施設がなくても〈魔導兵器〉を簡単に準備できるだろう。


「どうです? 可愛いでしょ」


 ムフーッ!――と鼻息も荒く、ソフィアが胸を張る。

 多分、ユナが戸惑っているのは、そこではないと思う。


「救世主様の考えたデザインですよ」


 と、なぜかソフィアは得意気だ。

 救世主であることは、まったく関係ない気がする。


 ちなみに、俺は以前、漫画を描いたことがあった。

 皇女殿下のイメージアップのため、布教用の冊子を作るように命令されたのだ。


 まさか、その経験が役に立つとは思わなかった。

 思い付きと行動力に関しては、ソフィアはやはり、彼女の孫なのだろう。


「おかげで一睡もしていない……」


 と俺は愚痴ぐちる。夜中にたたき起こされ、こんな物を作らされた職人たちにとっても、いい迷惑だ。

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