第15話 センリ:病院(5)


 目覚めたばかりのため、身体からだの機能が正常に働いているのかは分からない。

 取りえず、消化の良さそうな『野菜スープ』を口にする。


(あまり美味おいしくは感じないが、問題なさそうだな……)


 俺たちは病院の食堂に来ていた。

 彼女たちも、お腹が空いていたようなので食事を一緒にとる。


 この国に住んでいる種族が多いからか、メニューも豊富だ。

 食材は一緒のようだが、調理法が微妙びみょうに違うのだろう。


「〈魔力〉は食事からでも摂取せっしゅできるんです」


 とユナが教えてくれた。

 俺に〈魔力〉を供給したため、三人とも、お腹が空いてしまったのだろう。


「じゃ、デザートも頼むか?」


 皇女殿下と一緒に居た時のくせで、つい俺は言ってしまった。

 別に『俺がお金を払う訳ではない』ことを思い出す。


「それでは……」


 とソフィアが言い掛けると、


「街に出るんだったら、美味しいお店がありますよ」


 ユナが提案をする。ソフィアとアカリの目付きが変わる。

 さすがは女の子だ。スイーツにはこだわりがあるらしい。


 まあ、病院ここのデザートは、良くも悪くも普通なのだろう。

 ケーキとドリンクのセットだけのようだ。


是非ぜひ、行きましょう!」


 ソフィアは目を輝かせる。


「王都のスイーツかぁ……」


 とはアカリで、なにやら思いをせている様子だ。

 微笑ほほえむユナの表情から、自信が伝わってくる。


 彼女自身も楽しみなようだ。俺は苦笑すると、


「分かった――じゃあ、行ってみよう」


 と告げた。街の様子も見てみたかったので、丁度いい。

 食事を済ませると、俺たちは街へと繰り出す。


 天気は快晴――というより、なにか違和感を覚える。

 青く澄んでいるはずなのに、太陽の位置が分からない。


 ユナが先導し、ソフィアがその隣を歩いているので、今はアカリと手をつないでいた。そのため、俺が感じた疑問を彼女にたずねたのだが、


「ここには、太陽はないよ」


 と、おかしな回答が返ってきた。では、なぜ明るいのだろうか?

 俺の様子を見て、アカリは少しさびし気な表情をすると、


「アタシたちは、閉じ込められているんだよ」


 そう教えてくれる。それはまだ、彼女が生まれる前の話のようだ。

 こことは別の世界があって、すべてを『白銀』に飲み込まれてしまった。


 以来、彼女たちの種族は『この世界で暮らしている』という。

 多種多様な種族が存在しているのも、同じ理由らしい。


(『白銀』は人を選別し、この世界へと送っているのか……)


 その話が本当なら、俺も『白銀』に飲み込まれたことになる。

 となると『白銀』は単純に『人類の敵』という訳ではないようだ。


(滅ぼすのが目的ではないのか……)


 だとするなら『白銀』の目的はなんだったのだろうか?

 どうやら、調べてみる必要がありそうだ。


「亡くなった人も大勢いるって聞いているよ」


 とアカリ。ある日、『白い獣』が現れ、大勢の獣人たちを消し去ったらしい。

 帝国と――いや、俺の居た世界と『同じ状況』と考えるべきだろう。


 一部の人類のみを『この世界に閉じ込めている』ということは、人類を間引まびくことが『第一フェーズ』と考えることが出来る。


 では、この閉ざされた世界で、俺たちになにをさせたいのだろうか?

 謎は深まるばかりだが『白銀』にも、明確な意思があるようだ。


「ここでは、白い獣を『天使』って呼んでるみたい」


 アカリの言葉に――そうか――と俺は答えた後、


「ありがとう」


 お礼を言った。なるほど『お日様のにおいがする』と言った時、彼女が不思議そうな顔をした訳だ。この世界には太陽がないのだから――


 俺は立ち止まり、空を見上げる。

 人類を間引まびきき、暮らすことの出来る環境を与えた『白銀』。


 まるで人類を使って、実験をしているようでもある。

 ならば『神』という表現も間違ってはいないようだ。


 そして、その意思で動く兵器――『白銀』の機体。

 それを『天使』というのもうなずける。


 少なくとも、今の人類にはあらがすべはないようだ。


「あ、ソフィアたちが呼んでるヨ☆」


 少しボーッとしていたようだ。アカリに手を引かれ、俺は店へと移動する。

 フルーツケーキが自慢のお店らしい。


 人気があるようで、混んではいたが、無事に入ることが出来た。

 女子三人が満足そうだったので、俺も嬉しくなる。


「やっぱり、王都はすごいヨ☆」


 感動するアカリに、


「最近では、王都以外でも出店するようになったらしいですよ」


 とユナ。


「アタシの所には、こういうお店が出来るのは、まだまだ先だよ」


 あはは☆――アカリはそう言って、手をヒラヒラとさせる。


「これも、先代の女王――ヤエ様のお陰ですね」


 ユナの台詞セリフに、一瞬、ソフィアが身構えたような気がしたが、


「はい、御祖母おばあ様は偉大な御方です」


 と、いつもの笑顔で答える。ソフィアの話によると、能力主義の雇用のもと、食料問題や医療環境の改善、軍隊の強化など様々な問題を解決していったらしい。


 王立病院も先代の女王が建てた物だと言う。

 また、今の軍隊のほとんどは、先代の女王への忠誠心が厚いようだ。


 その影響か、ソフィアの発言力もかなりのモノらしい。ただ、逆に言えば――急な改革を行ったことで――反感を持っている存在もいるようだ。


 俺が目覚める前にも、ソフィアは危ない目にっていたらしい。

 クラトスのおっさんが心配していた理由が分かった。


 一見平和に見える、この王都でも、反乱分子がうごめいているようだ。

 例え、多くを失ったとしても、人類は争いをやめることはないらしい。

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