第14話 センリ:病院(4)


 ソフィアは俺の後ろに隠れると――べぇーっ!――と舌を出す。


(子供か……)


 一方で恰幅かっぷくのいいおっさんは、俺から距離を取った。

 彼らにとっては、俺は『〈魔導兵器〉を破壊した』ことになっている。


 得体の知れない存在を警戒するのは当たり前だ。

 それよりも、気になるのは、


「ひ、姫様……」


 とおっさん。ひげといい、身形といい、貴族に違いない。

 それが姫と呼ぶのだから、ソフィアは――


なんだ、お前――この国の姫だったのか……」


 俺はそう言って、後ろに隠れていたソフィアを見る。

 アカリたちと仲が良かったので、学生かと思っていた。


「もう、クラトス! 貴方あなた所為せいでバレてしまったではないですか……」


 プンプン!――とソフィアは怒る。

 そんなことを言われては、おっさんも困るだろう。


「ひ、姫様……申し訳ございません」


 とおっさん――いや、クラトスは謝った。

 どうにも、ソフィアには頭が上がらないらしい。


 俺は溜息をくと――入ってきていいぞ!――とアカリとユナを呼んだ。

 二人が顔を出し、キョロキョロと警戒しながら、ゆっくりと入ってくる。


 その様子はまるで小動物のようだ。

 一方で俺は服を脱ぐと、


「着替えはこれだな、身体をきたい」


 タオルを持って来い――とソフィアに指示を出した。


「はい♡」


 と答える彼女に対し、


「ひ、姫様がそんなことをされては……」


 クラトスはどうしていいのか分からず、アワアワとする。

 先程までは余裕がなかったが、汗をいたのでなんとかしたい。


 本当ならシャワーでも浴びたい所だ。


「取りえず、着替えるから……」


 おっさんたちは出て行け――俺はそう言って、𠮟𠮟しっしっと追い払う。

 兵士たちは身構えたが、


「よい」


 とクラトス。彼はそう言って、大人しく病室から出て行った。

 もう少し食い下がると思っていたが、予想外だ。


「あの子にも困ったモノですね」


 と洗面器に水を用意したソフィア。

 彼女自身が『一番困った人物だ』という自覚はないらしい。


 俺は礼を言うと、らしたタオルをしぼって、身体をいた。


「背中は私が……」


 とソフィアが言ったので、任せることにした。


「お前たちは『ソフィアが姫だ』ということを知っていたのか?」


 俺がアカリとユナにたずねる。

 すると彼女たちは互いに顔を見合わせた後、コクリとうなずいた。


 詳しく聞いてみると、ここは『リリス王国』といい、この世界でも二番目に歴史のある国だという。ソフィアは現国王の娘で妖精族らしい。


 この世界では多種多様な種族が存在していて、通常は種族ごとに国家を作っているそうだ。『リリス王国』のように『複数の種族が共存している』のは珍しいという。


 俺は先代の国王が秘密裏に研究していた施設で眠っていたらしい。

 段々と現状を理解できてきた。


「帝国はもうないのか……」


 分かっていたことだが実感を得るために、俺は口に出す。すると、


「はい、ですので、私とデートしましょう♡」


 とソフィア。どうしても、デートしたいらしい。

 どの道〈魔力〉を回復する必要がある。


 そのためには、彼女たち三人と行動を共にしなければならない。

 よって、デートは構わないのだが、なにか裏がありそうな気がする。


 ただ、大人しく病院に居ても、俺の立場が好転することはないだろう。


「分かった、準備をする」


 と俺は立ち上がると服を着た。

 意外にも、アカリとユナは俺の裸に対して抵抗がないようだ。


「見苦しいモノを見せたな」


 俺が謝ると、


「アタシは兄弟が居るから平気だヨ?」


 とアカリ。ユナも兄がいるらしく、


「ワタシもです」


 彼女は微笑ほほえんだ。

 当面の間、彼女たちの兄弟には合わない方がいいだろう。


 妹を傷物にされた――と怒られては敵わない。

 服の着方が分からなかったので、ソフィアたちに手伝ってもらった。


「これは標準的な服なのか?」


 なにやら〈魔法使い〉みたいな格好だ。


「妖精族の服だネ」


 とアカリ。俺が首をかしげると、


「私も妖精族です」


 ソフィアはそう言って、とがった耳を見せてくれた。


「綺麗だな」


 俺がそうつぶやくと、ソフィアは照れたように頬へ両手を当てた。

 初めて着た服のため、確認の意味で身体を動かしつつ、


「もしかして、長寿だったりするのか?」


 俺はアカリに質問した。


「そうだね、二百歳は生きるから……」


 だいたい見た目の三倍かな?――アカリはユナに確認する。

 コクコクと彼女はうなずいた。


 すると十代後半に見えるソフィアは少なくとも五十年は生きていることになる。

 クラトスが彼女に対し、頭が上がらない理由が分かった気がした。


 恐らく、あのおっさんが子供の頃から、ソフィアは知り合いなのだろう。


「どうかしましたか?」


 とソフィア。彼女をベッドの上に座らせると、


なんでもないさ」


 そう言って、俺は彼女の頭をでた。

 身長は俺より少し高いくらいだろうか?


 美人でスタイルも良く、モデルのようだ。

 ただ、今はニヘラと笑っているので、子供っぽい。


 どうして、俺が国の研究所で眠っていたのかは気になるが――


(お姫様が味方なら、急いで確認する必要もないか……)


 ソフィアはもっとでて欲しそうにしていたが、俺はユナに手を引いてもらい病室を出る。病室の外では、律儀にクラトス一行が待っていた。


「じゃあ、救世主様とデートに行ってくるわね♡」


 ソフィアは無邪気に笑って、俺と腕を組んだ。

 なにか『小言を言われる』と思ったのだが、


「分かりました」


 とクラトスは素直にうなずいた。

 秘書らしき女性が――いいのですか?――とクラトスに耳打ちしたが、


「構わん、好きにさせろ」


 そう言った後、


「どうか、姫様をよろしくお願いします」


 と頼まれた。これで問題なく食事に有り付けそうだ。

 だが、なにか面倒なことを頼まれてしまった気がする。

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