第9話 ソフィア:王都(3)


 部屋の内部は監視部屋モニタールームになっているようだ。

 複数のディスプレイが設置されている。


「ここで、いいみたいだネ☆」


 と言って、アカリがユナの頭をでた。


「えへへ♡」


 とユナ。今度、私もやってみたい。

 しかし、今はそれよりも、外の様子を確認するのが先決だ。


 私が制御パネルを操作すると、いくつかの部屋の映像が表示された。

 しかし、映りが悪い。


 しばらく、動いていなかったため〈魔力〉が供給されていないようだ。

 気が付いたユナが〈魔力〉を〈魔石〉へと注いでくれる。


「ありがとう」


 頭をでるチャンスだったけれど、残念ならが今は手がふさがっている。


「ねぇ、これって……」


 とアカリが――どうしよう?――という表情でディスプレイの一つを指差す。

 そこには、エレベーターがある部屋が映っていた。


 困ったことに、エレベーターの入口は上から崩れてきた瓦礫がれきふさがっている。

 これでは動きそうもない。私たちが脱出するのもむずかしい。


「大丈夫です……」


 まだ、階段は無事ですから――とユナ。

 別の出口を見付けてくれていたようだ。


「分かったわ」


 そう言って、私は外の映像を探して切り替える。

 ぐに外の映像は見付かった。


 映っているのは、周囲が破壊されている景色だった。

 木々が薙ぎ払われ、地面は土がき出しになっている。


 先程まで木々が生えていて、緑に囲まれていた『時計台』。

 その周囲が、今はただの荒れ地になっている。


「これって〈魔導兵器〉じゃ……」


 とアカリ。昆虫を連想させる形状の真っ白な機体が暴れているようだった。

 王都の軍が応戦しているらしい。


「なぜ、こんな所に……」


 と私はつぶやき、口元をおおいながら一歩下がる。

 『天使』のようだ。ここにいては危ない。


 下手をすると王都ごと滅ぼされてしまうだろう。


「お二人は、急いで王都から離れてください!」


 慌てる私に対して――落ち着きなよ――とアカリ。

 さすがに落ち着ける状況ではない。


「今は、ここに居た方が安全だよ」


 それに相手は一機だけみたいだし――そう言って彼女は私の前に立つと、


「ほら、軍の人たちも頑張ってる」


 とディスプレイを指差す。

 確かに『天使』相手だというのに、一方的な戦いにはなっていなかった。


 この王都が火の海になってしまう――と思ったけれど、しばらくの間は大丈夫そうだ。


「まず、アタシたちの勝利条件はソフィアの無事だよ」


 そんなアカリの言葉にユナもコクコクとうなずいた。


「いえ、私たち三人の無事です」


 と私は訂正する。

 アカリは――そうだね――と言って笑顔になると、


「なら、そのためにも……」


 まずは『救世主』様に目覚めてもらわないとネ☆――ユナの方を見る。

 おどろくユナだったけれど、アカリの意図を理解したのだろう。


 少しの間、考える素振りを見せると、


「恐らく、供給する〈魔力量〉が多ければ……」


 早く、目覚めるのではないでしょうか?――と提案してくれた。

 私とアカリは互いに顔を見合わせるのだった。


 それだ!――という表情で、互いに笑顔を浮かべる。

 早速、実行に移そうとしたのだけれど――


 ドカンッ!――と今までで一番大きな音が響く。

 同時にすさまじい揺れがおそった。近くでなにかがくずれたようだ。


 身を伏せてうずくまる私たち、最初に声を上げたのはアカリで、


「どうやら、安全じゃなくなったみたい……」


 と嫌な物を見た顔をする。

 頑丈だと思っていた地下の天井が崩れ、『天使』が落ちてきたのだ。


 恐らく、防御用の結界に回していた〈魔力〉が不十分だったのだろう。

 長年、放置されていたのでは仕方がない。


 シェルターとしての機能は果たしていなかったようだ。

 『天使』は幾分いくぶん破損ダメージを受けているようだった。


 同時に私たちの存在に気が付いたようだ。

 いや、最初から知っていたのかもしれない。


 本体に収納されていた左腕を動かすと、こちらへ方向転換する。

 左腕は大きなはさみのようで、その姿はかにのようだ。


 私はおびえるユナと、それをかばうように抱きめるアカリを見た後、


「後はお願いします!」


 そう言って、部屋を飛び出した。

 背中に〈魔法陣〉を展開し、風の〈魔法〉で素早く移動する。


「こちらです!」


 『天使』に対し声を上げると〈魔法〉で砂塵を巻き上げ、『天使』を攻撃した。


目眩めくらまし程度には、なってくれるといいのだけれど……)


 そのすきに、私はユナが言っていた階段を探す。

 しかし、砂塵の中で――ギュイン!――となにかが光った。


 〈魔導兵器〉と同じで〈魔導核コア〉があるようだ。

 まるで目のように見える。


 その直後――ゴオォォォッ!――とすさまじいいきおいの風が巻き起こった。

 私は砂塵ごと、壁の方にたたきつけられてしまう。


「きゃっ!」


 思わず悲鳴がれた。今日はこんなことばかりのような気がする。

 しかし、階段を見付けられたのは僥倖ぎょうこうだろう。


 私は痛みをこらえつつ、階段へと急ぎ、足を掛けると、


「こちらです!」


 と再度、声を上げた。『天使』が私を見付けたようで、器用に方向転換する。

 なんとか注意をきつけることに成功したようだ。

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