第8話 ソフィア:王都(2)


 少しあせっていたのだろうか?

 ユナが不安になる気持ちも分かる。


 このひつぎに眠っている人物が『救世主』様である保証はない。

 それに目覚めさせたとしても――


(その後、なにが起こるのかは分からないモノね……)


 二人との出会いは運命だ――と勝手に思い込んで喜んでいた。

 今更ながら、巻き込んでしまっていいのか、急に不安になる。


 御祖父おじい様の手紙には『力になってくれる人物を遣わす』とあった。てっきり、二人のことだと思っていたけれど、勝手な思い込みだったのかもしれない。


「ソフィアは、この力でなにがしたいの?」


 まさか戦争?――とアカリ。私はぐに否定する。


「いいえ、まずはこの国を立て直します」


 出来るだけ多くの人々が平和に暮らせる国を作りたいのです――と答える。

 アカリは――そうなんだ――とうなずくと、


「ユナはどう思う?」


 と質問する。そんなアカリの言葉に、


「ワタシは不安です。ソフィアさんとアカリさんが……」


 もっと危険な目にうかもしれません――とユナは答えた。

 どうやら、私たちのことを心配していただけらしい。


 この状況で他人ひとの心配とは、やはり優しい子だ。 

 アハハ☆――とアカリは笑うと、


「もしかしたら〈魔王〉かもしれないね」


 と冗談めかして言った。魔人族に伝わるうわさだろう。

 ユナたちにとっては、希望の存在だ。


「そ、その時は……ワタシが説得しますね」


 とユナが微笑ほほえむ。

 冗談を冗談で返せるくらいには緊張きんちょうが解けたようだ。


 私は再び手を動かし、システムの起動を終える。


「では、指示を出しますので、二人は〈魔力〉を送ってくれますか?」


 そう確認した時だった。


「きゃっ!」


 とユナが短い悲鳴を上げる。地面が揺れていた。

 かなり大きな揺れだ。


 不意の出来事できごとに私はバランスをくずし、制御装置に手をいてしまった。


「二人とも、大丈夫?」


 とアカリ。私たちは互いの無事をする。けれど、


『〈魔力認証〉を確認しました。マスター登録をします――』


 機械による音声がひびく。


「な、なんですか?」


 ユナはおどろいている。彼女の触れた台座が光っていた。

 どうやら、今の衝撃でシステムを起動させてしまったらしい。


「ご、ごめんなさい……」


 私は謝る。制御装置に触れてしまった所為せいだろう。

 最初から、そのつもりだったけれど、ユナの〈魔力〉が登録されてしまった。


 再び大きな揺れが来て、


「にゃっ!」


 今度はアカリが声を上げる。天井の方が揺れた気がする。

 どうにも、地上でなにかが起こっているようだ。


『〈魔力認証〉を確認しました。マスター登録をします――』


 再度、同じ音声が響く。


「あれ?」


 とアカリ。どうやら、アカリも台座の紋章に触れてしまったらしい。


「あはは……」


 どうしよう!――そんな目で私を見ても、もう後戻りは出来ない。

 問題ありません――と私が答えようとすると、


「登録が完了しました。契約には王族の承認が必要です」


 機械から承認を求める音声が流る。二人が私に注目するのを感じた。

 深呼吸をして、落ち着くと、


「最後は私のようです」


 そう言って制御装置の上に手を置いた。


『〈魔力認証〉を確認しました――〈ディアブロ〉起動します』


 機械からの音声と同時に、ひつぎの上に数字が表示される。

 どんどんと減って行くことから、カウンターのようだ。


 どうやら、ぐに目覚める訳ではなく、少しの間、待つ必要があるらしい。


「だ、大丈夫でしょうか?」


 心配そうなユナの問いに――分かりません――と私は首を横に振る。


「ですが、今は待つしか……」


 カウンターの数値を見る限り、もう少し時間が掛かりそうだ。

 再び大きな揺れが起こる。


「さっきからなんなの? もうっ!」


 とアカリ。地上でなにか起こっているようだけれど、地下ここからでは確認する方法がない。


「揺れ具合から考えて、地上でなにか起きているみたいですね」


 そんな私の台詞セリフに、


「地上って――誰かが《魔法》でも使っているの?」


 アカリのその言葉に、私とユナは顔を見合わせた。

 私たちの世界には『天使』が存在する。


 真っ白な戦闘用の機械だ。

 現状、この世界を維持させるために起動していることが確認されていた。


 大きな戦争に発展しそうな場合や強力な兵器が完成すると、それを武力で介入し、殲滅せんめつしようとする。


 圧倒的な戦闘能力を保有し、この世界の維持を目的とする行動から、いつしか人々は畏敬いけいの念を込めて『天使』と呼ぶようになった。


「まさかね……」「ですね……」


 私とユナは『天使』の存在を疑ったけれど、すぐさま、それを否定するように乾いた笑いを浮かべる。


「二人とも怖いよ? どうしたの?」


 とアカリ。『天使』の可能性を告げようとも思ったけれど、そもそも攻撃があったのはシステムを起動させようとした瞬間だ。


 そこまで、タイミングがいいとは思えない。

 別の可能性を探るべきだろう。


「ここで待っているよりも、出来ることを探しましょう」


 私の提案に二人はうなずいてくれた。


「施設全体を監視するような部屋があるかもしれませんね」


 とユナ。確かに、各研究室に連絡を行う場合や、不測の事態に備える必要がある。

 管理室のような部屋があると考えるのが普通だ。


 まずは最初にエレベーターで降りて来た部屋だけれど、恐らく、あそこで検査をして――問題なければ研究室へ入ることが出来る――という仕組みだろう。


(となれば、あの部屋を監視する部屋があるはずよね……)


 時折、激しく揺れることがあるので、天井や壁が崩れないか、物が倒れてこないか、注意しながら歩いていると、


「この部屋ではないでしょうか?」


 とユナは指を差す。確かに、この位置なら全体を見渡すことが出来る。

 私たちは、ユナが見付けてくれた部屋へと入ってみることにした。

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