第7話 ユナ:王都(3)


 ワタシたちの世界では時折、空に『白銀』が現れる。

 空間の一部が白く発光する謎の現象。


 重要なのは――そこから外界の異物が出現する――ということだ。

 主に国家間での戦争は、異物の奪い合いが原因であることが多い。


 前国王は〈魔導技師〉でもあり、異物の研究を行っていた。

 中でも特級異物とされるモノに対して、熱心だったようだ。


 ソフィアさんの話によると『秘密基地』とのことだったけれど――


(どう考えても、国家機密の詰まった研究所だよね……)


 それが、この森林区の地下に存在するらしい。


「国家救世のための力が、この研究所に眠っているのよ!」


 とやや興奮した面持おももちでソフィアさん。

 正直、にわかには信じがたい。


 けれど、国王の求心力が低下し、国家間でのバランスもくずれつつある今。

 その情報にすがりたい――という気持ちも理解できる。


 あきらめることばかり選択してきたワタシには、彼女の行動力がうらやましい。

 ソフィアさんの案内で辿たどり着いたのは『時計台』という名の小さな館だった。


 二階建てだろうか?

 周囲の木々の高さよりも低く造られていて、隠れるように存在している。


 ソフィアさんが扉に設置された王家の紋章に触れると機械が反応し、扉が開いた。

 どうやら〈魔力〉に反応したようだ。


「待って」


 とアカリさん。彼女を先頭にソフィアさん、ワタシと続く。

 自動で明りが点いたため、ワタシはおどろいてしまう。


 外装から想像できる通り、中の作りも普通の民家だった。

 今のところ、危険は無さそうだ。ソフィアさんは、


「こちらです」


 と暖炉だんろのある部屋へ案内してくれた。

 暖炉だんろの中央にあるくぼみにブローチをめる。


 すると、地下へと続く階段が出現した。二階はフェイクのようだ。

 最初は怖かったけれど、冒険をしているみたいで楽しくなって来る。


 階段を下りて行くと、上の階とは異なり、無機質な造りの通路が続いていた。

 所々に赤いライトが点いている。


 暗いため、ワタシは〈魔法〉で明りを作った。

 思ったよりも地下の空間は広く、しいて言うのなら夜の病院を連想させた。


 ここから先は、ソフィアさんも詳しくは分からないらしい。

 手分けをして部屋を探すと、エレベーターを見付けた。


 扉には王家の紋章がある。ワタシは二人を呼んだ。


「あの、この紋章……」


 『時計台』の入口と同じ仕掛けで間違いないだろう。

 ソフィアさんが触れることで〈魔力〉を認識し、操作パネルが出現した。


「まだ、地下があるみたいだね」


 とアカリさん。どうやら、この地下もフェイクだったらしい。

 用心深い――と言うべきだろうか?


「ふぇ~」


 思わず、ワタシは間抜けな声を出してしまった。少しずかしい。

 エレベーターを動かすには〈魔力〉が必要なため、ワタシの〈魔力〉を使う。


 更に下の階に辿たどり着くと、今度は白い明かりが点く。

 まぶしい!――と獣人であるアカリさんは目をくらませた。


 部屋になっていて、人間が待機するための場所のようだ。

 分厚い扉があり、その奥は開けた空間になっていた。


 壁沿かべぞいには等間隔にいくつか扉がある。研究室のようだ。

 非常階段があることから、階段でも来ることも出来るらしい。


 ただ、上の階では発見できなかった。

 恐らく、暖炉だんろの仕掛けのように隠し通路になっている可能性が高い。


 開けた場所は天井も高いことから、研究用の施設というよりは、実験を行うための意味合いが強い気がする。


 地下にあるのは、防音のためだろう。


「どの部屋に向かうといいんだろ?」


 とはアカリさんで、キョロキョロと周囲を見回している。


「多分、あの扉ではないですか?」


 ワタシはそう言って一際ひときわ頑丈がんじょうそうな扉を指差した。

 ソフィアさんも同意見のようで、


「そのようですね」


 とうなずく。ワタシたちは奥の扉へと向かった。

 予想通り、扉の横には王家の紋章がある。


 ソフィアさんが再び〈魔力〉を注ぐと、


 ――ウィーン!


「開いた!」


 アカリさんが声を上げる。

 頑丈がんじょうそうに見えたけれど、思ったよりも、あっさりと開くモノだ。


 ただ、部屋の中は薄暗い。

 所々で機械が動作しているらしく、発光している箇所がある。


 ワタシは〈魔法〉で周囲を照らす。すると、


棺桶かんおけ?」


 とアカリさん。部屋の中央にひつぎのようなモノが設置されている。

 確かに、人間サイズだ。


「カプセルですね。誰か入っています……」


 機械につながれた真っ黒なひつぎには、沢山のくだが伸びていた。

 ワタシとアカリさんがひつぎに興味を示す中、ソフィアさんは台座の前に立つ。


 台座は制御装置らしく、情報を確認しているようだ。


「どうやら、生命維持装置のようですね」


 とソフィアさんはつぶやく。他にも同じ形状をした台座が二基ある。

 ひつぎの左右にそれぞれ設置され、王家の紋章が描かれていた。


 〈魔力〉を注げ――ということだろうか?


「すみませんが、それぞれ移動してもらえますか?」


 とソフィアさん。その言葉に、ワタシとアカリさんは顔を見合わせうなずく。

 左右に別れ、台座の前に移動した。


「少し待ってくださいね」


 ソフィアさんはそう言って、パネルを操作する。

 どうやら、彼女はこのひつぎの中の人間を目覚めさせようとしているらしい。


 協力していいのだろうか? ワタシは少しだけなやむ。

 答えは出ないので、向かいに立つアカリさんを見る。


 彼女は落ち着かない様子で、キョロキョロとしていた。

 好奇心が強いのだろう。楽しそうだ。


「あのっ……大丈夫なんでしょうか?」


 ワタシの問いにソフィアさんは、


「私は御祖父おじい様を信じます」


 と答えた。分かってはいた。

 彼女の話によると、このひつぎには『国家救世のための力』――


 つまりは『救世主』が眠っているらしい。

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