第4話 ユナ:王都(1)


 さて、どうやってソフィアさんを――


(いえ、ソフィーリア様を探そうかな?)


 と考えていた。すると、


「においで分かるよ」


 とアカリさん。彼女は獣人だ。

 するど嗅覚きゅうかくでソフィーリア様を探せるらしい。


 クンクンと地面のにおいをいだかと思うと、今度は木に登り出した。


すごいです! アカリさん……」


 ワタシがめると、


「まぁ~ね☆」


 彼女は胸を張った。頼りになる人だ。


他人ひとに見られると、ちょっとずかしいけれど……)


 人気ひとけがないのはさいわいする。

 いや、人気ひとけがないから事件が起きてしまったのだろう。


 勿論もちろん、本来なら『誰かに助けを求める』ことが正しいのは分かっている。けれど、説明に時間が掛かるし、魔人族のワタシでは信じてもらえないかもしれない。


 今は『自分が出来る最善の手を打っている』と信じることにする。

 それよりも――


(どうして、臆病おくびょうな自分が危険な行動に出てしまったのだろうか?)


 そちらの方が分からない。

 ただ――じっとしていられなかった――そのことは本当だ。


「クンクンクン……」


 こっちだね☆――アカリさんは早速、においを見付けたようだ。

 林の奥を指差す。その方角は、ワタシたちが向かっていた場所でもある。


 木々が邪魔をして、ここからではよく見えないようだ。

 アカリさんは登っていた木から飛び降り、着地する。


「森林区の人工林ですね」


 とワタシは言う。鬱蒼うっそうとしていて薄暗い。

 森林区は王都に住む人々をいやすために自然を維持しているエリアだ。


 普段は近くに住む人々の散歩コースになっている。

 けれど、今はなにかを隠すために造られたようにしか見ない。


 やはり、ソフィーリア様が向っている場所は――


(ワタシたちと同じ場所なのかな?)


 冗談で言ったつもりだったけれど、ワタシたちの出会いは偶然ではなかったのかもしれない。


「さあ、行くよ!」


 とアカリさん。ワタシの手を引いて、ズンズンと進む。

 怖くはないのだろうか?


「あ、あの――どんどん人気のない所に来てますけど……」


 大丈夫でしょうか?――不安に負けそうになるワタシに対して、


「うん、お陰で、においが分かりやすいよ」


 そう言って、アカリさんは迷うことなく進んで行く。

 臆病おくびょうなワタシとは大違いだ。


「でも、これでは完全に迷子ですね」


 最早もはや、持っていた地図の意味がない。


「だったら、尚更なおさらだネ☆ ソフィアに会って……」


 道を教えてもらわないと!――とアカリさん。

 歩みを止めることなく、振り返るとワタシに対し笑顔を浮かべた。


 思わず、釣られて笑顔になる。


「確かに、そうですね」


 とワタシは答えた。

 前向きな彼女の言葉から、元気をもらう。


「あっ! 近いかも……」


 そう言って、笑顔だったアカリさんの表情が変わり、急に目つきがするどくなる。


「他の人間も居る」


 アカリさんは――先に行って、様子を見て来るヨ――そう言うと駆け出した。

 待ってください!――そうさけびそうになるワタシだったけれど、急いで口をふさぐ。


 悪い人だったら大変だ。

 辺りを警戒しつつ、ワタシも後を追う。


 すると、ぐに整備された石畳いしだたみの道へと出る。

 道沿いには等間隔に木々が立ち並んでいた。


 アカリさんが待っていてくれたのか、立ち止まっている。

 いや、なにかを警戒しているようだ。


「アカリさん……どうしました?」


 ゆっくり近づくと、ワタシは小声で質問をする。アカリさんは、


「静かに……」


 そう言うと、素早い動作でワタシを抱きかかえた。

 わぁっ!――と声を上げそうになったけれど、再び両手で口をふさぐ。


 アカリさんが見ているのはワタシではない。

 彼女の視線の先を追うと、ソフィーリア様が居た。


 そして、もう一人――黒尽くろづくめの格好をした人物が居る。

 男性のようだけれど、仮面で顔を隠しているため、よく分からなかった。


 どう考えても『仲が良い』という雰囲気ではない。

 むしろろ、ソフィーリア様が追い詰められているように見える。


 助けなくてはいけない――


(でも、どうやって?)


 アカリさんは一気に距離を詰めると、死角になるように木の後ろへ隠れ、


「ユナ……〈魔法〉で援護を頼んでもいい?」


 とワタシに確認する。

 どうやら、アカリさんはなにかを仕掛けるらしい。


「えっ⁉ あ、はい……」


 ワタシは思わず返事をしてしまった。

 具体的になにをすればいいのか分からない。


「じゃ、よろしくネ☆」


 と言って、アカリさんはワタシを降ろすと飛び出して行く。

 一方、ソフィーリア様の方は逃げようとして、仮面の男に地面へ転ばされていた。


 拳銃型の杖から射出された炎の〈魔法〉が原因だ。

 それほど威力はないようだけれど、足元を狙われたらしい。


 けれど、おどしに使うには十分だろう。

 ソフィーリア様の顔には疲労の色が見える。


 どうやら、今までは防御の〈魔法〉で防いでいたようだ。

 怪我けがらしい怪我けがは見当たらない。


 相手は人気ひとけのない場所に誘導ゆうどうしつつ、彼女の〈魔力〉が切れるのを待っていたようだ。勝利を確信しているのか、仮面の男の動きはゆっくりな気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る