第3話 アカリ:王都(1)


 アタシとユナは手を振って、ソフィアを見送った。

 綺麗な人だったので、つい名乗ってしまったけれど、良かったのだろうか?


 今から思うと、変な奴だと思われていないか、心配になってしまう。

 まあ、大丈夫だろう!


「いい人だったね」


 とアタシはユナに言葉を掛ける。

 この国での暗黙のルールとして〈魔力〉による差別があった。


 〈魔力〉の優劣により、人の価値を判断するのだ。

 獣人族は〈魔力〉も少ない上、数も少ない。


 そのため、他の種族からの風当たりが強かったりもする。

 ソフィアは、そういうのは気にしないようだ。


「はい、ワタシのような魔人族にも、普通に接してくれました」


 とユナは笑顔で返す。

 魔人族は、この世界で生まれた『新しい種族』だと聞いている。


 〈魔力〉は高いのだけれど、数はまだ少ない。その所為せいで古くから、この地に住む種族たちにとって『自分たちの地位をおびやかす存在だ』と思われているようだ。


 彼女たちもまた、差別の対象となっていた。


「綺麗な金髪ブロンドだったし、本当のお姫様みたい☆」


 今更ながら、アタシは興奮していることに気が付く。

 なんだか心がはずんでいる。


「はい、そっくりでした」


 とユナ。彼女もアタシと一緒だろうか?


「本物だったりして……」


 冗談めかして言ったアタシの台詞セリフに、


「まさか、こんな場所に居る訳ないですよ……」


 とユナが返す。アタシとユナは向かい合うと、


「あはは☆」「えへへ♡」


 お互い笑顔になった。可能性がない訳ではない。

 表には出さないけれど、ユナの方も――もしかして!――と思っているようだ。


 今日、始めて出会ったばかりの少女だけれど、気が合うらしい。

 いい友達になれそうだ。


「改めまして、アタシはアカリだよ」


「ゆ、ユナです」


 握手あくしゅを求めると、ユナは握り返してくれた。


「これで友達だネ☆」


 微笑ほほえむアタシに対して、


「でも、ワタシでいいのでしょうか?」


 とユナ。彼女が心配しているのは、魔人族のうわさについてだろう。彼女たち、魔人族の間ではいつからか――〈魔王〉が誕生する――とささやかれていた。


 差別を受ける自分たちを救ってくれる『救世主』を求めてのモノか、それとも『予言』なのかは分からない。


 ただ、出る杭は打たれる。

 魔人族が迫害を受けているのは、誰の目から見ても明らかだった。


 『革命を起こそう』という動きもあるようだ。争いを好まない一部の魔人族は、人類統一の思想を掲げる――このリリス王国へ来た――と学校では習った。


 生まれつき〈魔力〉が高い――というのも、いいことだけでは無いようだ。

 〈魔力〉の低い獣人族のアタシからしてみると、うらやましい存在である。


「アタシがユナのことを気に入ったから、それでいいんだよ」


 と返す。身体能力の高い獣人は戦闘を好む。アタシの父や兄も軍に入っているので仕方なく、アタシも将来は軍人だ。


 この王都に移動になったもの、父や兄たちが手を回したのだろう。


「〈魔王〉のことは、よく分からないや……」


 そう言って後頭部をく。

 ユナも安心したのか、フフフッと笑みを浮かべた。


「アカリさんも、いい人で良かったです」


 そう言って、ユナは紙片を広げた。どうやら、地図だったらしい。


「学園長から、ここへ行くように言われていたんですよ……」


 アカリさんが拾ってくれたお陰で迷子にならずに行けそうです――とユナ。

 地図を見せてくれる。不思議なことに見覚えがあった。


「あれ? そこって……」


 本当は見せてはいけないのだけれど、この場合はいいだろう。

 軍からの異動命令の紙を取り出すと、ユナの地図と並べた。


「同じ場所ですね?」


 とユナ。ということは、彼女に案内してもらえばいいようだ。

 正直、王都に来たばかりで土地鑑がない。


 ユナは、そんなアタシの考えを察してくれたようで、


「一緒に行きましょうか?」


 と言ってくれた。当然、アタシはうなずく。

 心強い援軍の登場である。それに小さくて可愛い。


 アタシも小柄な方だけれど、彼女はそんなアタシよりも頭一つ小さい。

 けれど、光の加減で水色に輝く氷雪髪スノーホワイトはサラサラでとても綺麗だ。


 少しくせのあるアタシの赤髪とは違ってうらやましい。


「もしかして、ソフィアさんも居るかもしれませんね」


 ユナは、そんなことを冗談めかして言った。

 さすがにそこまでの偶然はないだろう。けれど――


「だったら、運命かもね☆」


 とアタシは笑う。

 その後、王都のおススメのお店や好きな食べ物の話をしながら一緒に歩く。


 居住区を出て、公園のような場所に出る。

 いや、墓地だろうか? 人の気配はない。


 突如とつじょなにか見付けたらしくユナが駆け出した。

 拾ったのはブローチとげた封筒だ。ブローチの方には見覚えがある。


「こ、これって……ソフィアさんが付けていたモノに似ていますよね」


 とユナ。どうやら、アタシと同じ考えのようだ。

 胸騒ぎがする。


「じゃあ、この手紙はソフィアの落とし物?」


 ユナが宛名を確認すると、


「我が孫娘ソフィーリアへ――と書かれています」


 と教えてくれた。どうやら、ソフィアの落とし物で確定のようだ。

 さらにユナは、


「この紋章、王家が使用しているモノにそっくりです」


 そう言って、封筒を見せてくれる。

 女性の悪魔をかたどった紋章は確かに、この国の王家の紋章だ。


 ユナは再び、アタシの手から封筒を取ると〈魔法〉を発動させた。

 見る見るうちに封筒が元の形に戻って行く。


「へぇ~、ユナは修復師レストレイターなの?」


 とアタシはおどろく。

 修復師レストレイターと言うのは文字通り、壊れ物や失われた物を復元する職人のことだ。


 〈魔力〉が支配する、この世界においては重宝される存在だ。

 世界を元の姿に戻すため、注目されている職業でもある。


 ユナは復元した手紙を確認すると、


「その……アカリさん! ソフィアさんは本物の――」


「お姫様だね~」


 彼女の疑問に対し、アタシは――やっぱり――という態度で返した。

 ユナもてっきり、理解していると思っていたのだけれど、しばし茫然とする。


 それから急に、


「ど、ど、どうしましょう? アカリさん!」


 ワタシ、失礼なことをしていませんでしたか?――と言ってパニックになる。

 今にも泣きそうな顔をしていた。


「取りえず、深呼吸かな」


 そんなアタシの台詞セリフ


「そ、そうですね」


 とユナ。一緒に――スーハ~――と深呼吸をする。


「落ち着いた?」「落着きました」


 アタシの問いに、ユナは答える。


「あはは☆」「えへへ♡」


 お互いに微笑ほほえむ――って、なごんでいる場合ではない。


「これって、もしかして誘拐なんじゃ⁉」


 そうと決まった訳ではないのだけれど、アタシの言葉にユナは顔をさおにする。


「た、助けにいかないと……」


 と言ってふるえていた。てっきり――助けを呼びに行きましょう!――と言い出すのかと思っていたのだけれど……違った。


 やはり、アタシとユナは気が合うようだ。

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