第18話

ピーシャの家を出て街の中心の方へと歩いていくと、すぐに大きな建物が見えてきた。建物の前には石像が二つ並んでおり、それぞれ『ガルダ』と『セレーナ』という名前が彫られていた。

「これがセレナの石像なんだな……」私は立ち止まってセレーナの石像を眺めた。彼女は胸の前で両手を組んで微笑んでいるような表情をしていた。

「ふふっ、綺麗でしょう……? これはセレナさんが結婚して間もない頃に作られたみたいよ……」

「へぇーっ、そうなんだ……」私は感心しながらセレーナの顔をじっと見つめた。

(セレナって、結構美人だったんだな……。それにスタイルも良いし……。まあ、俺の母親には負けるけど……)

私はセレーナの顔を見て少しだけドキドキした。すると、ピーシャが私の肩に手を置いてきた。

「さぁ、行きましょう……。早くしないと日が暮れてしまうわ……」

「あっ、すみませんでした……。すぐに連れて行ってもらいます……」

私はピーシャの後を追うようにしてセレーナの生家へと向かった。セレーナの生家はピーシャの家からそれほど遠くはなかった。私たちは十分ほどでセレーナの実家に到着した。

「ここがセレーナの実家ですか……」

「ええ、そうよ」

ピーシャは短く答えると、家の中に入っていった。私もそれに続いて家の中に足を踏み入れた。

「うおっ!?」私は思わず声を上げた。なぜなら、玄関に入ると目の前に階段があり、その先には地下に続くと思われる扉があったからだ。

「お兄ちゃん、どうかしたの……?」

「いや、何でもないよ……。それより、アイラはここで待っていてくれ。俺はピーシャさんと二人でセレナのところに行ってくるから……」

「分かったよ!」アイラは元気よく返事をしてくれた。

「それじゃあ、行こうか……」

「はい……」私はピーシャと共に地下に下りていった。

薄暗い地下室の中を進んでいくと、前方に木製の扉が現れた。

「この奥にセレナさんの遺体があるんですか?」私はピーシャに尋ねた。

「いいえ、遺体ではありませんよ……」

「えっ、違うんですか?」

「はい、セレナさんの魂を呼び出すために必要になるのは、彼女の肉体の一部分だけです。ですので、肉体さえあれば大丈夫ですよ……」

「なるほど、そういうことですか……」

「それでは開けますよ……」ピーシャはドアノブを掴むと、ゆっくりと手前に引いた。そして、部屋の中に入った瞬間、鼻をつく異臭を感じた。だが、その臭いはすぐに気にならなくなった。

「こ、ここは一体何なんですか……?」私は周囲を見回した。そこには大小様々な大きさの木箱がたくさん置かれていた。木箱の中には人間の指のようなものが詰め込まれており、私は吐き気を覚えた。

「ここはセレナさんの死体安置所ですよ……」ピーシャは淡々と答えた。

「死体安置所……」私は言葉を失った。

「はい、そうです……。セレナさんはこの街の英雄でしたので、彼女の遺体は多くの方に見守られる中で埋葬されました。しかし、夫のガルガドさんは、娘であるセレナさんの死を受け入れることができませんでした。その結果、彼は娘の遺体を誰にも見つからないように隠してしまったんです……」

「そ、そんなことがあったんですね……」私は動揺を隠しながら相槌を打った。

「はい、ですので、セレナさんの遺体は街の外にある森の奥深くに隠されているんです……」

「なるほど……」私はピーシャの話を聞いて納得すると、部屋の中にある無数の木箱に視線を向けた。

「それで、セレナの身体の一部はどこにあるんですか?」

「セレナさんの身体の一部は、セレナさんが生前愛用していたペンダントの中にあります。ペンダントはセレナさんが亡くなる直前に身につけていました。おそらく、自分の命が失われることを予感して、あらかじめ準備をしていたんでしょうね……」

「そうだったんですね……」私はセレナの行動力の高さに驚いた。

「セレナさんは英雄でしたが、同時に優秀な錬金術師でもありました。ですので、セレナさんの死後も、彼女の遺志を継いで研究を続けている方がいらっしゃいます。私はその方に会いに行きたいと思っています……」

「もしかすると、それがセレナを復活させるために必要なことなのかも知れませんね……」

「はい、そうだと思います……」

「ピーシャさん、その方はどこにいるのか分かりますか?」

「もちろん分かるわよ……。ここからだと少し遠いけれど、セレナさんが遺したメモを頼りに向かえば問題なくたどり着けるはずよ……」

「それなら安心ですね……」

「ええ、ただ……」

「んっ? どうしたんですか……?」

「セレナさんが亡くなった原因を作ったのは、実は私の父なんじゃないかと思っているの……」

「えっ!?」私は驚きの声を上げた。

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