第15話

 振り向くと、そこにはアイラの母親であるピーシャの姿があった。彼女は私たちの座っているテーブルに近づくと、隣の椅子に腰掛けた。

「どうして二人がここに?」

「えっとね……。今日はお姉ちゃんとお出かけしてるんだ!」

「そうなの……。ということは、もしかしてデートかしら?」

「えっ……、うん……」アイラは恥ずかしそうに俯きながら答えた。

「ふふっ、アイラは本当にその人のことが好きなのね」

「えっ……、どういう意味?」

「そのままの意味よ。顔に出過ぎてるんだから……」

「そんなに分かりやすい?」

「えぇ、すごく」

「むぅ~……」アイラは不満げに頬を膨らませた。すると、ピーシャがこちらを向いてきた。

「ところで、あなたの名前はなんていうんですか?」

「あっ、申し遅れました。私はアイラの姉のセレナと言います」

「アイラのお姉さんだったのね……。それなのに、妹がいつもお世話になっています……」

「いえいえ、私の方がアイラには助けられてばかりです」

「そう……。アイラは良いお友達に恵まれているのね」

「うん! 私の自慢の親友だからね!」アイラはとても嬉しそうな表情を浮かべていた。

(やっぱり、アイラにとって大切な存在なんだな……)私は微笑ましい光景を見ながらそう思った――。

「それで、二人はこれからどうするの?」

「特に決めてはいないけど、色々と見て回ろうかなと思ってるよ」

「そう……。じゃあ、もしよかったらうちに寄っていかない?」

「良いのですか?」

「もちろん! アイラもいいよね?」

「うん! ぜひ行きたい!」

「決まりね。二人ともついてきて!」ピーシャはそう言うと、先に歩き出した。私たちは慌てて彼女の後を追った。

(それにしても、まさかアイラの家族に会うとは思わなかったな……)

私は心の中で驚きつつも、どこか嬉しさを感じていた。

それからしばらく歩くと、一軒の大きな家が見えてきた。

「ここが私の家よ!」

「大きいですね……」

「ふふっ、ありがとう! さあ、入ってちょうだい」私たちは家の中へ入ると、リビングへと向かった。そこには三人掛けのソファーが置かれており、サーシャの隣に座るように促された。

「じゃあ、早速だけどお茶を用意するわね」

「あの、そこまでしていただかなくても……」私が遠慮がちに答えると、ピーシャは優しく笑みを浮かべた。

「気にしないで良いのよ」

そう言って、彼女は台所の方へ向かっていった。それからしばらくして、紅茶の入ったカップを持って戻ってきた。

「はい、どうぞ」

「いただきます……」私たちはゆっくりと口をつけた。すると、温かい飲み物が喉を通っていき、身体の中から温かくなっていくような気がした。

「美味しい……」

「本当! 甘くて優しい味がするね!」アイラも気に入ったようで、目を輝かせながら飲んでいた。「気に入ってもらえて良かったわ」

「はい……。とても落ち着きます」私はほっと息をつくように言った。

「ふふっ、お口に合ったみたいで何よりよ……」

「ねぇ、お姉ちゃんはどこから来たの?」

「俺は西の方の村からやってきたんだよ」

「へぇ~、そうなんだ……。じゃあ、都会に来るまで大変だったんじゃない?」

「そうだな……」

「でも、今はこうしてアイラと一緒にいられるものね」

「うん、そうなんだけど……。実は、途中で魔物に襲われちゃったんだ……」

「ま、魔物に襲われたの!? 大丈夫だったの!?」

「心配してくれてありがとな。でも、この通り無事だよ」私はそう言いながら手を広げて見せた。

「そっか……、良かった……」彼女は胸を撫で下ろすようにして言った。

「アイラは本当に優しい子ね……。お姉さんもきっと喜ぶと思うわ」

「えっ、どうして?」

「だって、あなたが危険な目に遭っているかもしれないと思ったら、すぐに駆けつけてくれるはずだもの」

「お母さん……。うん、私も同じことを考えてた……」

「だから、アイラももっと素直に気持ちを伝えても良いのよ? そうしたら、お姉さんも喜んでくれるはずよ」

「うーん……、そうなのかな……」アイラは不安げな表情を浮かべていた。

「アイラなら絶対にできるわよ」

「うん……、分かった……」アイラは小さく呟くと、何かを決意したような顔つきになった。

「セレナ……」

「えっと……、どうしたんだ?」

「その……、もしよかったら今度、私の家族に会ってほしいの……」

「俺の家族にもか……?」

「うん……。セレルナのことを紹介したいし、それに……」アイラは恥ずかしそうに俯きながら言葉を続けた。「セレルナのことを私と同じように大切に思ってるから……」

「そっか……。それなら、アイラの家にお邪魔させてもらうよ」

「うん! ありがとう!」アイラはとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

(アイラのご両親か……。どんな人たちなんだろう……)

私はそんなことを思いながら紅茶を飲み干すと、ピーシャに向かって頭を下げた。

「色々とお世話になりました……」

「いえ、こちらこそ楽しかったわ」

「また遊びに来てもいいですか……?」

「もちろん大歓迎よ。いつでも来てちょうだい」

「はい……。それと、紅茶とお菓子も美味しかったです」

「ふふっ、そう言っていただけると嬉しいわ。じゃあ、帰り道には気をつけてね」

「分かりました。それでは失礼します」

私たちはピーシャの家を出ると、来た道を戻り始めた。そして、アイラと別れる場所まで来ると、彼女は寂しそうな表情を見せた。

「もう帰らなきゃいけないんだよね……」

「そうだな……」

「あっ、そうだ! 最後に私の家に行ってみようよ!」

「それは構わないけど……、いいのか?」

「うん、もちろん! じゃあ、行こうか!」

私たちは再び歩き出し、彼女の家にたどり着いた。そこはピーシャの家と似たような造りをしており、庭付きの大きな屋敷だった。

「ただいまーっ!!」

「あら、おかえりなさい」玄関を開けると、一人の女性が出迎えてくれた。

「お母さん!」アイラは女性に抱きついた。

「ふふっ、今日も元気いっぱいね」女性は優しく微笑みながら言った。

「それで、そちらの方たちは……?」

「この人はセレールナって言うんだよ! 私たちと一緒に遊んでくれた人なんだ! ほら、前に話したでしょ?」

「ああ、あの時のことね……。覚えているわよ。初めまして、私はアイラの母のピーシャといいます」

「どうも……。俺はセレルナと言います……」

「セレルナさんですね……。よろしくお願いいたします」

「はい、こちらこそ……」私はぎこちなく挨拶をした。すると、彼女は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「セレルナ……?」

「どうかしましたか?」

「いえ、どこかで聞いたことがあるような気がしたものですから……。すみませんが、お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「俺はセレルナですよ」

「えっと……、そういう意味ではなくて……」

「セレナだよ」

「えっ?」

「だから、セレリナは俺の名前なんです。アイラがそう呼んでいたのを聞いてませんでしたか?」

「いや、聞いてたわよ……? でも、そんなはずないじゃない……」

「どういうことでしょう……?」私は困惑しながら尋ねた。

「だって、その方は亡くなったと言われている勇者様のお母様なのですから……」

「……え?」

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