第13話

 「えっと、母さんは仕事とかは大丈夫なんですか?」

「あぁ、問題ないよ。元々一人でやっていたことだしね」

「そういえば、そうですね」

「だから心配はいらないよ。それよりも……」

「どうかしましたか?」

「いや……。少し聞きにくいことがあってね」

「何でしょうか?」

「君はアイラのことをどう思う?」

「どうって、普通に可愛いと思いますけど……」

「そうじゃない。この子は他人と関わることを極端に恐れていてね。今までは私が面倒を見てきたが、これからもずっと一緒に居られるわけではないだろう」

「まぁ、そうですね……」

「そこで提案なのだが……。もし良ければ、しばらくの間は君と一緒に暮らしてみてくれないだろうか?」

「えっ?」

(どういうことだ?)

私は予想外の言葉に戸惑っていると、アイラの母親が再び口を開いた。

「もちろん、無理強いするつもりはないよ。嫌なら断ってくれても構わない」

「いえ、別に構いませんけど……」

「本当かい? それじゃあ、これからよろしく頼むよ」

「は、はい……」

(一体どういう状況なんだ……)

私は困惑しながらも、三人で暮らす日々が始まった――。

それから数日が経ち、私は三人での生活を送っていた。最初は戸惑いばかりだったが、今ではすっかり慣れてしまった。そんなある日のこと、アイラは突然こんな質問をしてきた。

「ねぇ、お姉ちゃんって好きな人居るの?」

「えっ? 急にどうしたんだ?」

「ちょっと気になってね」

「そういうお前はどうなんだよ?」

「私はね。お姉ちゃんが好き!」

「そ、そうか……」

(どう答えればいいんだ?)

私は戸惑いながらもアイラの顔を見てみると、彼女は楽しげな笑顔を浮かべていた。私はそんな彼女の顔を見ながらため息をつくと、今度は母さんが尋ねてきた。

「ちなみにだが、イレイニーナは誰か付き合っている人はいるのかな?」

「いませんよ」

「そうなんだ! 良かった!」

アイラは嬉しそうな声を上げると、私の腕に抱きついてきた。そして、頬ずりをしながら満面の笑みを浮かべていた。その様子を見て、母さんは微笑ましそうに見つめていたが、すぐに真剣な表情を浮かべた。

「イレイニーはどうしたいと思っているんだ?」

「俺は特にありませんけど……」

「だったら、このまま私達と一緒に暮らすつもりはあるか?」

「えっ……?」

(まさか、プロポーズか……?)

私は戸惑いながらアイラに目を向けると、彼女は頬を膨らませていた。そして、不満そうな声で呟いた。

「むぅ……、お姉ちゃんは渡さないからね」

「別に取ろうなんて思ってないよ」

「本当に?」

「あぁ、本当だよ」

私は優しく答えると、アイラは安心したように笑みを浮かべた。すると、母さんが穏やかな口調で話しかけてきた。

「イレイニーさえ良ければ、この家にずっと住んでも良いんだぞ」

「えっ……?」

「君も知っている通り、ここは私しか使っていないから部屋には余裕があるよ」

「でも、迷惑になるんじゃ……」

「大丈夫さ。それに私達は家族みたいなものだろう」

「か、家族……」

「あぁ、そうだよ。だから遠慮なんてしないでくれ」

「分かりました」

「よし、決まりだな。それじゃあ、今日からは私達のことは家族と思って接してくれて構わないよ」

「はい……。でも、いきなりだと変な感じがしますね……」

私は苦笑いしながら言うと、母さんは小さく肩をすくめた。

「確かにそうだな……。少しずつで良いから、慣れていってくれると嬉しいよ」

「はい……」

こうして私たちは本当の親子のように、毎日を過ごしていくことになった――。

ある日のこと、私はアイラを連れて町へと出かけることにした。その理由は彼女が行きたいと言ったからだ。

「お姉ちゃん、早く行こうよ!」

「分かったよ……。ほら、手を繋いでいこうか」

「うん!」

アイラは元気よく返事をすると、私の手を握ってきた。そして、楽しそうに笑い始めた。その光景を見て、私は思わず苦笑いをした。

「そんなにはしゃぐと転ぶかもしれないぞ」

「平気だよ! だって、お姉ちゃんが一緒だからね!」

「そうか……」

(まぁ、たまにはこういう日があってもいいかもな)

私はそんなことを考えながら、彼女と手を繋ぎ続けた。

「ねぇ、次はどこに行くの?」

「とりあえず服屋に行ってみるか?」

「うん、行く!」

「よし、じゃあいくぞ」

「わーい!」

アイラは嬉しそうな声を上げると、私の腕に抱きついてきた。そんな彼女の姿に私は微笑ましく思いながらも、二人で歩き出した――。

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