第10話

 「なにを?」

「もしも僕が君のことを好きになっても、絶対に手を出したりしないと誓うよ」

「えっ? はぁ!?」

(何を言ってるんだ! こいつは!)

「そんな顔をされると傷つくなぁ……」

「いや、ごめん……。少し驚いて……」

「まあ、無理もないよね。いきなりこんなことを言われたんじゃ、誰だって戸惑うはずだ」

私は黙って彼の話を聞くことにした。

「実は最近、おかしな夢を見るんだ」

「夢?」

「そう。不思議なことに、知らない女の子がずっと出てくるんだよ」

「へぇ~」

「それでね、その子はいつも悲しそうな顔で泣いているんだ」

「どうして?」

「さあ? 分からない。だけど、どうしても気になって仕方がなかった。そこで僕は考えた。もしかすると、彼女の笑顔を見たいと思っているんじゃないかなって……」

「なるほど……」

「最初は自分でもよく分からなかったけど、何度も見るうちに段々と理解できた。きっと、僕は彼女のことが好きなんだろうなって」

「……」「でも、どうしたら彼女に会えるのかが、全く分からない。だから、まずは自分のことを知ってもらおうと思った。そのために、こうして仮面をつけて正体を隠しているんだ」「そうだったんですね……。事情はよく分かりました。ですが、私には貴方とお付き合いするつもりはありません。申し訳ないのですが……、諦めてください」

「残念ながら、それはできない」

「どうしてですか?」

「理由は二つある。一つ目は君に一目惚れしてしまったから。二つ目は……」

「二つ目は?」

「僕が君を愛してしまったからだ」

「はっ?」

「もう後戻りはできない。たとえどんな結果になろうと、僕たちは必ず結ばれることになるだろう」

「ちょ、ちょっと待ってください! 一体何を言っているのかさっぱり……」

「大丈夫。すぐに分かるよ。それより、そろそろ試合が始まるみたいだね」

「えっ? あっ……」

闘技場の中心では、すでに二人の選手が向かい合っていた。そして、試合開始を告げる鐘の音と共に、戦いが始まった。「さあ、僕たちも始めようか」

「始めるって、何をするの?」

「もちろん、愛の営みさ」

「なっ!?」

私は驚きのあまり固まってしまうと、彼は優しく微笑んで私の顎を持ち上げた。そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。

(キスされる!?)

咄嵯の出来事に頭が混乱してしまい、何も考えることができなかった。

(助けて!)

心の中で叫んだ瞬間、突然大きな音が響き渡った。そして、次の瞬間、目の前にいたはずの彼が吹き飛ばされていた。

(えっ?)

「ぐふぅ!」

彼は勢い良く地面に叩きつけられると、苦しそうな声を上げた。

「くっ……。何が起きたんだ……」

すると、彼の前に一人の女性が立っていた。その女性は美しい銀色の髪をしており、背中からは白い翼が生えていた。さらに右手には光り輝く剣を持っていた。

「お前は何者だ!?」

彼は立ち上がりながら叫ぶと、彼女は冷たい視線を向けたまま口を開いた。

「お前こそ何者だ?」

「僕の名は……」

「興味がないわ」

彼女が左手を前に出すと、突然地面から巨大な氷柱が現れた。そして、それが凄まじい速度で放たれた。

「危ない!」

私は思わず叫び声を上げると、慌ててその場から離れた。すると、背後から激しい爆発音と衝撃が伝わってきた。

「なんなんだ……。あいつは……」

私は呆然としながら呟いていると、ふと我に帰った。

(そうだ! 今は試合中だぞ!)

急いで闘技場の方に目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。なんと、対戦相手である男が膝をついて倒れており、女性の方が優雅に立っているのだ。

(ど、どういうこと……?)

私は目の前で起きた出来事を理解することができず、ただ唖然とすることしかできなかった。

「お待たせしました」

受付の女性はそう言うと、私に向かって頭を下げた。

「いえ、全然大丈夫ですよ」

「そう言っていただけると助かります」

「それで、依頼というのは?」

「はい。実はですね……」

受付の人が説明を始めようとしたその時、奥の部屋から大柄な男性が慌ただしい様子で出てきた。

「おい! 大変だ! すぐに来てくれ!」

「どうしたの?」

「いいから早くしてくれ!」

「分かったわ」

受付の人は男性に急かされながら部屋に戻ると、しばらくすると息を切らして戻ってきた。

「ごめんなさい。仕事の話は後にしましょう」

「何かあったんですか?」

「実は、あなたに依頼したいことがあるの」

「僕にですか?」

「えぇ。この子を預かってほしいの」

「この子?」

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