第9話

 歓声が上がる中、私は深く深呼吸をした。そして、ゆっくりと立ち上がった。

「まずは、ここまで勝ち上がってきた二人の選手を紹介しましょう!」

実況の声を聞き流しながら、私は相手のことを見つめていた。

「一人目は、この男! その強さはまさに、ロリコン界のレジェンド!」

「ふっ……」

「そして二人目が、まさかの美少女! しかしその実力は本物だ!」

「けっ……。誰が変態だ!」

「それでは両者、準備はいいかな? レディーゴー!」

「いくぞ!」

私は勢い良く飛び出すと、両手を前に突き出した。すると、大きな炎が出現した。

「くらえ!」

私はそれを相手に向かって飛ばした。だが、それは簡単に避けられてしまった。

「甘いな!」

続けて放たれた水弾を避けると、私は距離を取った。

(なかなかやるな……。でも、これならどうだ?)

私は魔力を高めると、特大の火球を放った。

「くらえ!」

しかし、それも同じように回避されてしまった。そして次の瞬間には、目の前に迫ってきていた。

「なっ!?」

私は慌てて避けると、地面に手をついた。すると、そこから大量の水が噴き出した。

「ちっ!」

(よし!)

相手が怯んでいる隙に、私は魔法を発動させた。地面から土の壁が現れると、それを盾にして攻撃を防いだ。さらに壁の上に乗ると、上から水弾を放った。

「ぐっ!」

相手はそれを防ごうとしたが、避けきれずに命中した。私はそのまま追撃しようとしたのだが、突然足場が崩れた。

「なに!?」

(しまった……)

私は落下しながらも体勢を整えると、なんとか着地することができた。しかしその直後、何かに押しつぶされた。

「うわぁああ!!」

私はそのまま壁に叩きつけられた。そして、あまりの衝撃に意識を失いかけた。

(くそ……。なんて威力だ)

「おい! 大丈夫か!」

「えっ?」

「早く立て! まだ終わってないぞ!」

「は、はい!」

(やばいな。かなり効いたぜ)

私は立ち上がると、魔法を使った。そしてそのまま相手に突っ込んだ。

「くらいなさい!」

「ふん!」

私の放った魔法を片手で受け止めると、相手はそのまま押し返してきた。

「きゃぁああ!!」

「どうした! そんなものか!」

「このぉおお!!」

私は怒りに任せて攻撃を繰り出すが、全て受け止められてしまう。それでも諦めずに何度も挑み続けると、次第に動きが見えてきた。

「そこだ!」

「うおっ!」

(いける!)

私は渾身の一撃を放つと、ついに直撃させることに成功した。

「やったか?」

煙が晴れていくと、そこには無傷の対戦相手の姿があった。

「残念だったな」

「うそ……」

(あのタイミングで、なんで平気なんだ……)

「さあ! これで終わりにするぞ!」

対戦相手は拳を振り上げると、思いっきり振り下ろしてきた。私は咄嵯に身を屈めることで、ギリギリ避けることができた。だが、すぐに反撃に転じることはできなかった。なぜなら、相手はもう片方の手で殴りかかってきたからだ。

「しま……」

避けられないと思ったその時、誰かが間に入ってきた。

「させないよ」

「プリティーウィッチー!!」

「ナイス! 愛してるぅう!」

観客たちの声援を聞きながら、私は呆然としていた。何故なら、彼が攻撃を受け止めてくれたから……。

(どうして? なんで……?)

私は訳が分からずにいると、彼は振り返って微笑んだ。

「大丈夫かい?」

「あっ……」

「さあ、ここは僕に任せて」

「はい……」

私は後ろに下がると、彼の背中を見つめていた。そして、不思議と胸の奥が熱くなるのを感じた。

(なんだろう? この気持ち……)

対戦相手は舌打ちをすると、彼に向き直った。そして、ゆっくりと口を開いた。

「お前は確か……、どこかで見たような気がするな……」

「そうかい?」

「まあいいか……。とりあえず、邪魔をするなら容赦はしない」

「それは困るね。僕は君と戦いたくはないから」

「ほう……」

「だから、ここを通してくれないかな?」

「断る」

「じゃあ、仕方がないね……」

すると、彼の周りに黒い霧のようなものが現れた。そして、それが徐々に形を変えていった。やがて現れたのは、二本の角を持つ巨大な悪魔のような生き物だった。

「なっ!? こいつらは……」

『グオオォオオッ!』

「まさか、魔獣なのか……?」

(違う……。これは魔人だ!)

「いくよ!」

彼は勢い良く飛び出すと、悪魔の腕を掴んだ。すると、その部分がドロリと溶け始めた。さらにもう一人の腕を掴むと、同じように溶かした。そして、相手の頭に飛び乗ると、その頭を握り潰した。「ふぅ……。終わったかな」

「すごい……」

私は目の前で起こった光景を見て唖然としていると、突然視界が真っ暗になった。

(えっ?)

「お疲れ様」

「ありがとう」

「いえ、とんでもない」

「んっ? ちょっと待ってくれ!今の声ってもしかして……」

「そうだよ。僕だよ」

「やっぱり! なんで仮面なんかつけてるんだよ!」

「だって、恥ずかしいだろ?」

「何が!?」

「ほら、僕の素顔を見た人は不幸になるからさ」

「そんなことあるわけないだろ!」

私は思わず叫んでしまうと、ハッとして口を閉じた。

(しまった……)

恐る恐る相手を見ると、特に変わった様子はなかった。

「君は面白いことを言うんだね」

「えっ?」

「それとも、冗談のつもりなのかな?」

「いや、そういうわけではないんだけど……」

「気にしなくていいよ。よくあることだから」

「そうなの?」

「うん。でも、安心して。もし君の身に何かあったとしても、責任は取らないから」

「どういう意味?」

「そのままの意味さ。ただ、一つだけ約束しようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る