彼女との別れ

 次の日、俺を迎えにみずきがやってきた。今日は親父さんは居ないらしい。

 おいおい女子高生一人で大丈夫なのか?と思ったが、まあみずきから見たら、アニキたちは普通の夫婦だもんな。

 でも今日はちょっとヨーコの様子が変だ。


 昨日と同じくアニキの隣に座っているが、何故だかやたらとベタベタしている。

 昨晩、アニキはヨーコを追い出すように帰らせていたし、別に付き合っているわけじゃないらしい。

 だから、あれは『フリ』なんだろうけど、ヨーコにとってはそれだけじゃ済まなそうだ。

 ヨーコは厄介なヤツだって、以前にアニキが言っていたなぁ……


 昨晩以来、ゆりちゃんは機嫌が悪くなってしまったのか、自分の家から出てきていない。

 もうちょっとイチャイチャしたかったんだけどな。


「おーい、ゆりちゃんーー 俺、そろそろ帰るけど、元気でなーー」

 ケージの隙間から鼻をだして話しかけると、ゆりちゃんが慌てて出てきた。


「ちっ! ちぅ!! 行っちゃだめでち!!」


 お、おおう。俺との別れを惜しんでくれるのか!!

 モテる男はつらいぜ…… フッ


 もう一度ゆりちゃんにちゅぅをしたタイミングで、みずきが俺のケージを持ち上げた。

「るぅちゃん、お別れ済んだ? おうちに帰ろっ」



 二人に挨拶をしてアニキの家を後にする。

 揺れるケージの中から、腕にしがみついているヨーコをアニキが振り払うのが遠目に見えた。

 アニキ…… 頑張れよ。


 今日の帰りは電車を乗り継ぐらしい。

 チンチラって手荷物扱いで電車に乗れるんだな…… 知らなかったぜ。


 家に帰ったらまたモフスタグラムのチェックをして、みずきの太ももでくんかくんかしないとな。

 俺はそんな風に、平和でのんきな事をぼやーっと考えていた。



 電車を一度乗り継いで、駅の改札を出た時だった。


 突然、俺のケージが大きく振りまわされたように感じた。

 毛づくろいをしていた俺は大きく転げた。ケージの内側に体をぶつけたが、このモフモフな体のおかげか痛みはない。

 何があったのかと外を見ると、景色がびゅんびゅんと猛スピードで流れていく。ブオンブオンと前世でよく聞いていた爆音が耳に飛び込んでくる。

 みずきが何かを呼びながらこちらに向かって手を伸ばす姿が、だんだんと遠く小さくなっていった。

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