NEARLY

立花零

レイヴン

 両側に麦畑が広がる道は、かつて国境線だったという。東は恐怖政治で統治され、西には自由主義の恩恵を享受する大国があった。そして南北には、いつできたとも分からない道だけが続いている。

 一歩踏み出すたびに、対物ライフルの負い革スリングが肩へ食い込む。放射能で凶暴化した獣相手とはいえ、12ミリクラスの徹甲弾は流石に威力過剰ではないか。それとは別に背負った背嚢には、大量の工具と精密デバイスが収まっている。それでも意気揚々と歩けるのは、機動防護服に搭載されている筋力アシスト機能の賜物だ。

 この道の先、北へ向かうと、100年前の人類の墓標がある。ただし墓標にしては巨大で、少々無骨すぎるきらいがあり、おまけに放射能で汚染されている。ガイガーカウンターが先ほどから反応しているのは、そのためだ。

 人類は、その種に宿す持続可能性サスティナビリティを捨てた。傍迷惑な目標を17個も抱えていたにも拘らず、いざとなればあっさりと。まるで、スポーツ・ガンの引き金を絞るように。

 それから戦争があり、災害があり、人類は緩やかに数を減らす道を選んだ。国家という区分は消え、地下と地上に複合都市を建造した。適切に管理された環境で、適切な決断をするために。

 人類は、40億人まで減った。環境汚染は止まらなかったし、なにより創造遺産クリエイティヴィティ・レガシーがあったからだ。

 創造遺産クリエイティヴィティ・レガシーは、複合都市が建造される前に人類が残したものだ。立ち入り禁止とされており、その正体は駅や発電所、工場群であることが多い。それらは打ち捨てられた後も、社会に悪影響をもたらす。

 僕が今いるこの道も、創造遺産クリエイティヴィティ・レガシーへと続いている。そこはかつて、原子力発電所だった。漏れ出た放射能に封鎖された、忘れ去られしプルトニウムの牙城。

 ほら、見えてきた。黒と灰色だけの世界。ガイガーカウンターが泣き喚いている。ここから先は、機動防護服を外してはいけない。

 対物ライフルに初弾を装填しよう。人喰い兎キラー・ラビットに、殺されたくないのなら。

 あそこには、たくさんの宝物が眠っている。早いところ持ち帰って、バイヤーに売りつけよう。


 僕の名前はレイヴン。死肉を漁る、がめつい傭兵だ。

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NEARLY 立花零 @ray_seraph

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