第4話 花嫁は暗殺者
「……誰からも君を奪われないようにするために」
彼の思ってもいなかった言葉に驚いてしまう。
まさかあれほど嫌っていた帝位に付くとは思わなかったから。
考えが纏まらず気が動転する。
彼はそんな私に優しく微笑みかけてくれる。
その優しさに胸が締め付けられる。
嬉しいのは勿論ある。
でも、同じ位に彼に重い荷を背をわせてしまったという罪悪感。
私は彼に救われてばかりだ。
「私は、私は貴方に何が出来ますか?」
乞うように彼に問い掛ける。
「うーん、じゃあ改めて、僕と結婚してほしい」
笑って何でもないように私にプロポーズする。
「それでは側室として、私の命尽きるまで貴方の側に置いてください」
私のような薄汚い暗殺者には正妃など相応しくない。だからといって私のために帝位を継ぐ彼の意志を無駄にさせるわけにはいかない。
なら、いつでも切れる側室として、せめて彼が望む間は側に居よう。
「あー僕は君以外の妃を迎え入れるつもりはないよ、だから君が正妃だよ」
しかし、負い目から逃げ道を作ろうとした私の、その逃げ道を塞ぐ彼の言葉。
分かっていたはずのに、私がどうしょうもなく彼に焦がれるのと同じように、彼がどうしょうもなく私を求めてくれているのを。
「私にこの国を共に背負えと言うのですね」
「えっと、そこまで大袈裟なものじゃないよ、ただ僕の隣に君が居てくれれば良いんだ」
「嫌です。妃になるのなら私も貴方の役に立ちたい、お飾りだけなんて嫌です」
「本当に君は……まあ、そういう所も好きなんだけどね」
「はい、私も貴方の人を喰ったような飄々とした態度も、ヘラヘラと感情を隠すような笑みも……それでいていつも私のことばっかり考えてくれていて、私のために全てを捨てようとして、こんな貴方を殺す為に育てられたような暗殺者を好きでいてくれる……そんな人、愛してしまうに決まってます」
私の言葉に満面の笑みを見せてくれる。
どれだけ私のことを好きなんだと、思わず私まで笑顔があふれてしまう。
「素敵な笑顔をありがとう。聞くまでもないけど、返事を聞かせてくれるかい」
「……最後に、本当に私なんかで良いんですか? 貴方を殺す為に育てられた暗殺者なんかの私を側に置いて、恐ろしくないですか、怖くないんですか?」
ここまで来ておいて、どうしても自分に自信が持てない卑屈な私が顔を見せる。
「ハハッ、怖いわけないだろう、僕がなんて言われるているか君も知っているだろう。むしろ君こそが相応しいよ、死神の伴侶が暗殺者なんて正にうってつけじゃないか」
彼に言われてハッとした。
確かに、たかが暗殺者なんて死神に比べれば可愛いものだ。
ならば、覚悟を決めたのなら、彼の想いに応えるだけだと自分を叱咤する。
「貴方の言うとおりですね。なら死神に相応しい妃として、これからも側に居させて下さいませ」
「ありがとう。これからもよろしくね僕の最愛の人」
跪いたままの私に彼が手をのばす。
私はもう躊躇することなはない。
愛おしい彼の手を取る。
立ち上がるとそのまま彼と見つめ合う。
大好きな彼の笑顔。
私は我慢できずに彼の胸元に飛び込む。
彼はそんな私を強く抱きしめてくれる。
顔を上げ目を閉じキスを強請る。
彼は私の意を汲んで二度目のキスを落とす。
唇同士が優しく触れ合う。
それだけで幸せな気持ちに満ち溢れてしまう。
「あの時の言葉をもう一度聞きたいな」
大好きな笑顔で彼が言う。
本当にズルい人だ。
「永遠に貴方を愛しています」
もうサヨナラの言葉を付ける必要ない。
変わらない気持ちで告げるあの時と同じ言葉。
「僕も、君だけを永遠に愛し続けることを誓うよ」
そして、あの時聞けなかった彼の返事。
自然に溢れる涙はあの時と違い、嬉しさからくるもの。
でも、それと同じくらいに彼を傷つけたという、拭いきれない罪悪感が込み上げてくる。
色々な感情が溢れ出し笑顔が崩れる。
そんな私を彼は強く抱きしめてくれた。
その優しさに甘え、彼の胸元で我慢できずに泣きじゃくる。
散々泣き散らし、感情が落ち着く。
その間、彼はずっと頭を優しく撫でてくれていた。
本当にどこまで私を好きにさせるつもりなのだろう。
泣き腫らした目でもう一度彼を見上げる。
そこにはやっぱり大好きな笑顔が私に向けられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます