第12話別れの時
別れの時は突然だった。
子どもが一人暮らしして肩の荷が下りた時だった。
4月半ば、相変わらず7歳で止まったままの座敷わらしがいう。
「わたし、出ていくね」
「そう。あの神社に戻るの?」
「ううん。新しい場所見つけたから」
「さみしくなるわね」
「うん。ありがとう。毎月神社を訪れてくれて」
子供が乳幼児だった頃は行けなかったが、
ある程度子供がいうことを聞くようになったら参拝はしていた。
夫は呆れていたけれど。
「今度は神社のかわりにまた来るね」
「ええ。いつでもどうぞ」
「ありがとう」
夫はもういなくなっていると思っている。
いなくなると盆休みに帰省してきた息子が言った。
「あの子、いなくなったの?」
「覚えていたの?」
「ああ、ときどき見かけてたし」
「そう」
「またあえるの?」
「どうかしらね。神社に行けば会えるかもしれないわ」
「あそこ嫌いなんだよ」
相変わらず息子となじみの神社は折り合いが悪いらしい。
「ああ、かあさん、あって欲しい人がいるんだ」
「いいわよ」
連れてきたのは清楚な女性。
「初めまして。お付き合いさせていただいている
「いらっしゃい。母の
「はい」
「え?」
見覚えのある幼女が海老原さんの後ろにいた。
「あら、あなたもなのね」
「え?」
「へんな子供に魅入られたのね」
彼女はいきなり声を落として聞いてきた。
「見えるんですか?」
「新しい場所を見つけたっていってたのに。息子は知っているの?」
「いいえ。話しても大丈夫よ。ね?」
「あの子供は信じないのよ。あんなにあそんでやったのにぃ」
ムウと不服そうに頬を膨らませる幸運の神。
「忘れているだけよ。あなたが見える権利を与えないから」
少し彼女さんを置き去りに話してしまって海老原さんはポカンとした様子だ。
「仲がよろしんですね」
「まぁ、かれこれ何十年の付き合いになるもの」
「ええっ。そんなに?」
「まぁ、姑はおとなしく孫の誕生を待っているわね」
「はい」
「もうすぐ来るよ」
「まぁ。めでたいわね」
「私がいるから当たり前だよ」
「あらあら。あなたたちこれから大変ね」
「はやりですか」
「うふふ。困ったらうちにいらっしゃいな」
「ありがとうございます。助かります」
もし、嫁と姑の間柄になるとしたらうまくやっていけそうだ。
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