イヴィルゼロ

 黒いエネルギーによる砲撃が私に襲いかかろうとする。

 だがしかし、私の放った銃弾がそれを引き裂いて・・・・・、邪神に直撃する。

 銃撃を受けた邪神は苦しそうに悶える。


「ごおおぉぉおお……」

「どどどいうことだ?」


 神父が頭を掻き毟ると、ただでさえ少ない髪がさらに減っていく。


「邪神の攻撃が通用しないだと? そんなバカな、有り得ない」

「ふっ、いくら否定しようが、事実は事実です。認めなさい」

「このっ、小僧! どんな手を使った? 今すぐ吐け」

「いいですとも」


 私は余裕の態度で返答する。


「私が扱っているこの武器は《インヴァリッド》というもので、どんな魔力でも打ち消すことが可能です」

「そんなバカな……」

「しかしその反面、魔力を少しでも持っている人間は触れることすらが出来ませんがね」

「なんだと、それじゃあ……」

「言いたいことは分かっています。人間は誰しも皆、少なからず魔力を持っています。ですが、その場合、私がこの武器を使うことが出来る説明がつかない。

 しかしですね、中には例外が存在します。それが私なのです。

 私は《先天性魔力欠乏症》なのです。この病を患った人間は生まれたときから魔力を一切持たないのです。

 でも、そのお陰で私はこの武器、インヴァリッドと巡り合うことが出来た。私を除けば、恐らくこれを扱える人間は誰もいないでしょう」


 実はこの武器はオリガに譲ってもらったものだった。

 オリガは私が先天的魔力欠乏症であることを明かすと、『自分には使えないが、これを使ってみろ』と、この武器を勧めてくれた。

 扱いは存外、難しかったが、ものにしてからは私はずっとこれを愛用している。


「待てよ、その病、その武器、どこかで聞いたことがある……まさか貴様は邪神殺しイヴィルゼロか?」

「ああ、私の通り名ですね。

 もっともそうやって呼んでいるのはあなたたち教団関係者に限られますが」

「こんなところで遭遇するなんて……しかし、邪神は絶対の存在。人間ごときに屈するはずがない。

 アンリマン、やれ!!」

「ごおおぉぉぉおお」


 邪神が高く拳を振り上げて、迫ってくる。

 私は懐からもう一丁の銃を取り出す。それは同じ銀の銃であるが、『目には目を、歯には歯を』という別の文字が刻まれていた。

 迫り来る邪神に向かって私は二丁拳銃を一斉掃射した。

 身体に複数の穴が穿たれて、邪神はよろめいたが、構わず突っ込んでくる。再び拳を振り下ろすが、私はジャンプして、空中で身体を捻って、回避する。

 そして、後ろに回り込むことに成功した私は後頭部から背中にかけて、再度、銃弾の雨を浴びせる。


「ごおおおおおおお」


 野太い叫びを発すると、邪神はばったりと倒れて、動かなくなった。


「邪神が倒されただと?」


 激しく狼狽する神父。

 間もなく邪神の身体から暗闇が取り除かれ、後には何も残らなかった。

 その様子を最後まで見届けると、私は神父に歩みを寄せた。


「それでは神父、ご同行お願い出来ますか?」


               *     *     *


 事件は解決され、あの場にいた人間は皆、救い出され、奇跡的に全員生きていた。

 エリーゼもまた無事、回復した。


「ありがとう、助かったよ」


 エリーゼの彼氏が感謝を伝える。

 今、我々は街の通りにいるのだが、私は目立たないようにコートを羽織っている。


「いえいえ、それほどでも。というより、私はあれが仕事ですから」

「それは大変だな。同情するよ」

「いやいや、私が好きでやっていることですから」


 もしあの体験がなければ、私はきっとこんな仕事を選らばなかっただろう。というか、知る由もなかったに違いない。

 私には目標がある、それは教団に復讐することだ。それが達成されるまで、私はこの仕事をやめるつもりはない。


「それはそうと、今回の事件と私のことはくれぐれもご内密に」

「ああ、約束するよ」

「彼女さんにも話してはいけませんよ」

「分かってるってば!」


 からかったせいで、どうやら顰蹙を買ってしまったらしい。


「それは失敬、失敬。

 それでは私はこのへんで失礼させていただきましょうか」

「次の仕事か?」

「はい、意外と多忙な身の上でして」

「そうか、頑張れよ」

「ええ、言われずとも」


 そうして、私は男と別れ、次の仕事の現場に向かった。

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復讐者エヴァンス~ソノ男、復讐ヲ誓ヘリ~ 紀悠軌 @kinoyuki

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