アンリマン
「さあ、創造されよ。邪神 《アンリマン》」
神父が宣言すると、神父の前の空間に暗闇が産み出された。それはだんだん形をなしていき、最終的に髪の長い、筋骨隆々とした巨人へと変貌した。全身は変わらず暗闇に覆われているが、目だけが赤々と輝いていた。
「あれが邪神……」
僕はその存在に圧倒されて、尻餅をついた。
デカい、デカすぎる。それだけじゃない。まとっているオーラが僕たち普通の人間とは違いすぎる。
恐怖の象徴、まさにその言葉こそがふさわしかった。
「さあ、邪神の姿をご覧になってどうですか? 戦きましたか、絶望しましたか? ですが、ご安心を。すぐに楽にしてさしあげますから」
神父はさっきとは打って変わって饒舌だった。手の甲の傷を気にしている様子はなかった。
「さあ、アンリマン。生者に死の救済を」
その合図を皮切りに邪神はこちらに駆けてくる。
「ひぃぃぃぃ!!!」
恐怖に支配された僕の前にエヴァンスが立ち塞がる。
「あなたは下がっていなさい」
「お、お前は?」
「私は邪神と戦います」
エヴァンスが自分よりも巨大な存在に向かっていく。
僕はその背中を見て、勇敢であると思うと同時に、勝てるわけがないと思った。
何故なら相手は人ではなく、邪神だ。
いくら優秀だろうが、あんな化け物じみた存在に太刀打ち出来るはずがない。無駄に命を散らすだけだ。
自らに向かってきた存在に邪神は大きな拳を振り下ろす。
エヴァンスはギリギリ回避するが、床が見事に砕けちった。
邪神はそれからも両方の拳で、エヴァンスを狙い続ける。拳の応酬にエヴァンスは次第に追い詰められていく。
そんな中、エヴァンスが足を滑らせた。
その隙を邪神は見逃さず、なんと長い髪を伸ばして、エヴァンスの片足を絡め取った。
「なっ……」
囚われのエヴァンスを邪神は髪を操り、勢いよく床に叩きつけた。
口から血が噴出する。
床にめり込んだエヴァンスは荒い息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
「浅はかな。いいや、愚かしい。邪神に比べれば、人間など取るに足りない存在。それなのに抗おうとするなど、以っての外です」
ボロボロのエヴァンスを神父が侮蔑と憐憫の入り交じった目で見つめる。
「けれども、自分から死を欲するなら、致し方ありません。アンリマン、彼に相応しい最高の死を」
神父の声に反応して、邪神はエヴァンスに掌を向ける。
すると、掌にだんだん黒いエネルギーのようなものが収束していく。
直感的に僕はあれを食らったらまずいと思った。
とはいえ、僕とエヴァンスは離れた場所にいた。今更助けにいっても間に合わない。
かくいうエヴァンスの方は、銀の銃を構えて、銃口を邪神に向けている。
あんなものであれを防げるはずがない!
『ごおおおぉぉぉおおお』
邪神が恐ろしい叫びを上げ、黒いエネルギーが一直線上にエヴァンスに向かっていくのと、エヴァンスが引き金を引いたタイミングはほぼ一緒だった。
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