楽園
機代 神(Kishiro Jin)
楽園
人は死んだら何処へ行くのか、考えたことはあるか?
天国や地獄に行く。転生して別の何かとしてこの世に戻る。完全消滅して何も無い場所で1人彷徨って…なんてのがだいたいの人間が考える行き先だろう。
たった今、俺は死んだ。交通事故だ。俺の不注意で起きたんで誰にも文句は言えない。幸い両親は幼い頃に死んでるし、俺の死を悲しむような物好きな友人も居なかった。
俺は、[俺]の横に立っていた。血塗れで倒れ込んだ[俺]の横で、1本の鍵を見つめながらボーッと立っていた。
鍵には『楽園行き』と書かれたタグが付いている。顔を上げると目の前に鍵穴のあるドアがあった。本当ならスッと入ってその楽園とやらに行きたいところだが気が進まない。
この世に未練はないが、楽園という場所がどんなところか想像ができないという怖さがあった。俺みたいな空虚日本代表が行っていい場所なのか?
そうこうしている間に救急車が来て、[俺]を運んでいった。そこに俺は居ないのに。その[俺]は、今の俺より空っぽなのに。
俺が戻る場所が手元になくなったんで考える必要性がなくなった。よし、行こう。俺は鍵穴に楽園行きの鍵を挿した。
────────────────────
ドアを開いた瞬間、俺は目が覚めた。そこは病院だった。だが、それは、交通事故で倒れた[俺]が運ばれた病院ではない。
ただベッドが置かれただけ、窓には格子がはまっている殺風景で窮屈な部屋。
精神病院だ。俺はあらゆる重圧に負け、精神を病んでここに入れられた。両親も本当は生きている。悲しい現実だ。
楽園を夢見た俺は心の中で[俺]を殺した。無論轢いたのも俺だ。だが結局、楽園には行けずこうして小さなベッドで1人横たわっている。
まぁ、どのみち俺はここにいる間に、何度も、何度も[俺]を殺しているから、楽園になんて行けないだろう。
ずっと手に持っているこの鍵も、車の鍵だ。
楽園 著:機代 神
楽園 機代 神(Kishiro Jin) @DeusExMachina2000
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