Ⅴ 氷のセッカ

 広場の敵を片付けると、そのままフィニスは広場から隣接する軍本拠地の城壁を魔導剣で切り刻んだ。城壁の一部が崩れたことを確認すると、助走をつけて脆くなった城壁に突進して内部に進入する。転がりながら辺りの瓦礫を退けると、フィニスの目の前には大広間へとつながる廊下が広がっていた。豪勢な赤色の絨毯、上質な木材を使った内壁はその様相を変え、いまや朽ち果てた遺跡のような有り様になっている。廊下の至るところに遺体や怪我人が転がり、既に内部にも損害が出ているようだった。

 フィニスは壁に沿って大広間のほうへと進むが、その途中にも負傷した隊員が治療も受けられず体を横たえていた。


「村のことを思い出すな」


 独り言を呟いたつもりだったが、契約魔のグレモリーが反応する。


『大丈夫よ。あなたは力を手に入れたんだもの。』


 微笑むグレモリーに、フィニスも「そうだな」と目で笑った。


 負傷者を見ていると、すぐ近くに小型の通信機を発見した。通信機はイヤホンタイプで、情報を得るためにフィニスは片耳に通信機を装着した。


『ザ……ザザ……聞こえるか、一番隊』


 通信機の向こうからは男の声が聞こえてきた。フィニスは辺りの状況を確認してから応える。


『この通信機はいま借りている。今日配属になったフィニスだ。残念ながら、一番隊とやらはもう動けないらしい』


「なに……」と小さく驚く声が聞こえてきたが、すぐに気を取り直すようにしっかりとした口調で声が聞こえてきた。


『フィニス。君がいまから一番隊だ。私がこれから指揮を執る』


『……なに?』


『これが君の初任務だ。私は君の部隊長になる、氷のセッカだ』


 男は氷のセッカと名乗ったかと思えば、すぐに通信は一時切断された。通信機からはブツ切りに戦闘音が聞こえてくる。セッカは激しい戦闘に巻き込まれているようだ。

 安定しない通信のまま再度セッカから連絡が入る。


『ザザ……すまない、待たせたな。君の居場所は通信機で把握している。そのまま道なりに沿って進み、大広間を目指せ。私も大広間にいるが……ガガッ……一人で相手をするには敵の数が多く身動きが取れる状態ではない』


 そこで通信は完全に途切れてしまった。

 フィニスは通信機の持ち主だった男を一瞥いちべつし「いつか返す」と言い残して大広間へと走って向かった。

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