君のお骨を愛してる

ももも

君のお骨を愛してる

 閑静な街並みに朗々とした念仏が響き渡る。

 すすり泣く家族たちをぼんやり車から眺めながら、先ほど手渡された花に包まれたパピヨンを思い浮かべる。そろそろ肉体は灰になり骨が現れる頃合いに違いない。

 袈裟に身を包み厳かに念仏を唱える若い僧侶は、見目麗しく高貴さを漂わせている。八代がああやって両手を合わせる姿を見るたびに手塚治虫の「ブッダ」にでてくる主人公シッダルダの若かりし頃はこんな感じだったのではないかと思う。彼の本性を知っている俺の目にもそう映るのだから、この家族にはパピヨンの魂の安寧を導いているようにしか見えないだろう。

 だが八代は「犬猫でも極楽へいけるのか」という俺の問いに、「獣ですし、畜生道ではないでしょうか」と答えるクソ坊主だ。あいつほど外見と内面が違う人間を見たことはないが、そんなことを言ったら「善良そうな一般人の顔をして盗みを繰り返すあなたには言われたくないですね」と抗議する顔がすぐ浮かぶ。焼き上がるまであと十分ほど。空に登る煙を眺めながら、しばし相棒の念仏に耳を傾けよう。

 依頼があれば自宅に赴き亡くなったペットをお骨にする、移動型ペット火葬業者。それが俺たちの仕事だ。


 もともとは動物病院勤務だった。

 場所によってはブラックな環境と聞いていたが、幸い俺の勤め先は定時で仕事が終わり休みもとりやすく、このまま定年まで勤めるのだろうとぼんやり考えていた。

 運命の転帰が訪れたのは、病院で飼われていたゴールデンレトリバーが老衰で亡くなった時だ。治療動物に輸血が必要な際、輸血犬として血を提供する存在であった彼は持ち前の愛嬌の良さで病院スタッフのみんなから愛されていた。彼のおかげで大型犬の抑え方や採血方法を学んだ恩義があったので葬儀に立ち会わせてもらったのだが、彼が骨として目の前に現れたときは電撃をうけたようであった。

 金色の柔らかな毛皮で覆われていた体躯も、にこっと笑うとペロリとのぞく赤い舌も、くりくりと黒く丸い目も、何もかも白く成り果てていた。

 骨なんて絵や写真で見たことがあったのに、いざ前にすれば生きていた痕跡がすべて無に転じることに畏れを抱いた。

 何より美しい。

 震える手で触れば、その滑らかさにゾクゾクと肌が粟立った。

 家に帰ってからも、脳裏にあの光景が何度も浮かび上がり興奮が治まらなかった。

 骨が見たい。骨が触りたい。骨が欲しい。

 くすぶった思いは消えることはなかった。


 どうにか骨を手に入れる方法はないかとネットで調べて、鳥の手羽先の骨格標本であれば容易に作ることが可能と分かれば、すぐに取りかかった。

 手羽先の煮付けを食べたあと、パイプ洗浄液でタンパク質を溶かし、オキシドールで漂白し、ばらけた骨をボンドで組み合わせた。そうして出来上がった骨格標本は神がつくったとしか思えない美しく完璧な造形であった。肉をはぎとった先には生命の美があった。あの感動は生涯忘れることはないだろう。

 最初こそ手羽先で満足できていたが、そのうち物足りなくなっていき、徐々にエスカレートしていった。

 ラーメンスープ用の豚骨をネットで買い何時間も煮た。

 ネットオークションで珍しい動物の骨をいくつも入手した。

 交通事故死した動物がいないか郊外へ車ででかけ、見つけたら人目につかぬよう手早く回収して家に持ち帰った。

 けれど足りない。もっといろんな骨が見たい。

 どこか異常ではないかと思ったが止められなかった。考えに考えた末に行き着いたのがペット火葬業への転職だった。

「ペットを失って悲しむ家族に寄り添いたい」

 そんなもっともらしい理由をつけて、円満退社した。


 借金をしてペット火葬業者用の車を買い仕事を初めた当初は、知り合いのいる犬猫保護団体の依頼で格安で野良猫たちをお骨にしていた。

 俺としては骨格や肉付きにより、どのように温度と時間を調整すれば、いかに骨の原型を保てるのか知りたかったのだが彼らには大層喜ばれた。

 その評判が犬猫ネットワークの口コミで広まった結果、特に宣伝もしていないのにひっきりなしに声がかかるようになった。ネットに掲載されているオプション別の金額が分かりやすく、また動物病院に勤めていた実績と信用があるのも大きかったようだ。おかげで、こっそり気に入った骨を数本抜き取ったところで気づかれることはない。

 新型感染症が流行ったことも追い風となった。外出を控える世の中、家に来てくれる移動式ペット火葬業者は重宝された。借金もすぐに返済できて趣味と生活の糧を両立した仕事は順風満帆であった。


 八代と出会ったのは、この仕事を始めて二年経った頃。

 きっかけは、とある寺で番犬として飼われていたジャーマンシェパードの火葬依頼を受けたときだ。指定された寺所有の駐車場には、大きな箱に入った犬を中心に家族と寺関係者がぐるりと取り囲んでいたが、その輪から一人離れた場所にいたTシャツ坊主頭の若い男性が彼だった。

 骨になるまでの待ち時間、彼が隣に現れると、どういう風に焼いているのか、他にどういうオプションがあるのかひっきりなしに質問を受けたのを覚えている。そんな輩、後にも先にもあいつしかいない。

 それから数日後、彼は仕事受付用メールアドレスにパワポ資料を送付してきた。

 内容は、今の仕事に読経サービスをオプションでつけてみてはどうでしょうか、という具体案だった。

 誰かと組んでやるなんて考えたことはなく戸惑いは大きかった。そもそも犬猫にお経なんて欲しがるだろうか。けれど、熱心に説明する八代に根負けし、試しにネットで掲載するだけでいいですから、という言葉にのることになった。唱える時間は15分ほどで値段は俺の請求費の倍以上の強気の設定だが「値段の安く感じる念仏なんてありがたみはないでしょう」という彼の弁に確かにと思った。

 掲載三日後に依頼があった時はとんだ物好きがいるもんだと思わずにはいられなかった。メールやズームで打ち合わせはしたものの、彼の口車に乗せられてしまった感が否めず、オプション開始初日まで不安な気持ちで過ごしたが、迎えにいった時に袈裟に身をつつみ穏やかな目をした八代を見た瞬間、こいつは本物だと確信した。彼を包む空気には静寂さがあり、微笑むと蓮の花が咲き、後光が差しているようにさえ見えた。服装ひとつでここまで人は変わるのだと驚かずにいられなかった。

 そうして初めてのお経サービスの結果は、本当にありがとうございます、と家族たちに泣きながら感謝され、請求費とは別に分厚い封筒を渡された。

「他人の前で念仏を唱えるのは初めてで緊張しましたが、案外うまくいくものですね」

 帰り道、助手席に座った八代は坊主頭をなでながら言った。

「だって私、えせ坊主ですし」

 俺の驚愕した顔がよっぽどおもしろかったのだろう。くっくっとひとしきり笑うと、自分で稼いだお金ってすばらしいですねと万札を扇にして仰いでいた。それから、この自称押し掛け僧侶である八代と手を組むことになった。


 八代はもともと、あの寺の跡取りであったそうだ。だが寺を継ぐ気はないと宣言していた長男が、このコロナ禍で勤め先の会社がなくなり、方針転換した結果、ぷーになったそうだ。

「アルバイトも長く続かない私に会社勤めは無理そうだと思っていたのに、いい迷惑ですよね。いじけてブラブラしていたところあなたにお会いして、この道しかないと思いました」

 八代は寺生まれのためか声がいい。普段は静かに淡々と話すのに、いざ本気を出すと同じ人間とは思えない腹に響く声をだす。信仰心の欠片のない俺でも彼の念仏に御利益がありそうだと思う。とてもエセ坊主とは思えない。小さい頃から耳にしていた念仏を耳コピして唱えているだけと聞いてもだ。

 顔も声も頭もよくて探せば仕事はいくらでもあると思うが、どうしてこの仕事をだったのかと聞いてみれば、そうですね、と首を傾けて

「失われた愛の再生過程を知りたかったのですよ」

 と彼は応えた。

「愛は不思議なものです。形はないのに大小はある。自分の中でいくらでも増幅できる一方であまりに増えすぎるとつぶされてしまう。愛を誰かに注いだら大きくなって返ってくることもあればどこかに消えてしまうこともある。そんな摩訶不思議な愛の形が一番分かるのは、愛するものを失った時だと思うのですよ」

「つまりペットロスになった人間がどうやって立ち直っていくか観察したかったと」

「ええ、最初はそのつもりでした。ですがこんなにも簡単にお金が手に入ってしまうとは思わなかったですね。愛のことはおいおい考えるとして、今は己の力でどれだけ稼げるのかに集中したいです」

 目的と手段が完全に入れ替わった八代は最近、動物病院へ坊さん派遣サービスに行ったりネットでペット戒名サービスも受け付けている。相談は北から南までひっきりなしにあり、いい商売になっているそうだ。俺でも知っている高級ワイン片手に和牛をたしなむ八代は、本当に生臭坊主だと思う。

「他人の不幸の上に自分の幸福を築いている訳ではありません。他人の不幸を幸福へと変えていく中に自分の幸福があるわけですから別にいいじゃないですか。愛した存在を供養したと思える飼い主、私にお経をあげてもらえる獣、儲かる私、三方よしです」

 そんな発言をする八代と相棒である俺は、側から見れば慈愛に満ちた人間に見えるらしい。「二人ともまだ二十代なの? はーそりゃあ若いのにりっぱねぇ」とよく言われる。

 でも蓋を開ければ、一人はただの骨好きで、もう一人はエセ僧侶で、需要と供給の中で、私利私欲のままやりたいようにやっているだけだ。そこに愛はない。

 仮面を剥ぎ取れば非難囂々の嵐だろうが、人間という生物は誰しも人に見せられない内面を一つや二つ隠し持っており、人らしい人を演じて社会というのはどうにか回っているのではないかと最近思う。

 そんな気ままな俺たちふたりに、ちょっとした事件が起きたのはある晴れた日のことだった。


 始まりは

「もし僕が死んだら、焼いてもらえませんか」

 と知り合いのホームレスの田中さんから言われたことだった。

 田中さんと出会ったのは俺がまだ火葬業者として駆け出しだった頃のことだった。

 その日、依頼と依頼の間に時間が空いていたのでアスレチックのある広い公園のベンチで一休みしていたところ、少し離れた場所に張られたテントのそばで、何か毛のついたものをいじる不審な動きをしていた高齢男性が視界にはいった。

 興味があったので、散歩している風を装ってテントの横を通り過ぎたら、男の手にあったのは犬の死体だった。

 死後数日たっているのか、眼球は乾いており、だらりと垂れた舌もカピカピだ。男は犬の死体にわいている大量のウジを取り払おうとしていたが無駄な努力に終わっていた

 骨格標本をつくる方法の一つにウジやミルワームに肉を食わせる方法があり何度か試したことがあるが、経験上、あいつらを取り除くにはピンセットで一匹一匹つままないとと難しい。

「あの」

 声をかければ、男の体はびくりと跳ね上がり、濁った目をこれまでかというぐらい見開き俺の顔を凝視した。声をかけられたのは数年ぶりだ、という反応に見えた。

「俺、亡くなったペットを骨にする仕事をしていますが、まだ駆け出しなもので技術もそこまでないです。でももしよければ、あなたの大事な存在を骨にしませんか」

 ただの気まぐれで、暇だしいいかという気持ちから出た言葉だったが、男は「いいのですか」と泣きそうな顔になって、ありがとうござますありがとうございます、と繰り返し言った。彼は焼き上がるまでずっと黙りこくっていたが、焼きたての頭蓋骨を手渡すと、堰を切ったように泣き出した。

「こいつだけがずっと僕のそばにいてくれたんです。ごめんなぁ、死んだ後まで苦しませて。ごめんなぁごめんなぁ」

 そうしてずっと骨を抱いたまま泣き続けて、これから仕事なので、と言い出しづらかったのをよく覚えている。

 普段だったらそれきりの関係で終わっていただろう。けれどその犬がお目にかかったことがないウルフドッグだったので、方針転換した。

 オオカミの血を色濃く受け継ぐ犬。とんでもないレアもので喉から手がでるほど欲しかった。犬と違い、口蓋後縁部がへこんでおり、頭をなでると違いが分かるという。だが男がどれだけ金を積んでも絶対に譲らないのは分かっていた。

 それから、一ヶ月に一回は男に会いに行き、彼が亡くなった時に何食わぬ顔をしてウルフドッグの頭蓋骨をもっていく機会をずっとうかがっていた。

 だからこそ、その男である田中さんの突然の申し入れは、ウルフドッグの頭蓋骨もヒトの骨も同時に手に入る、またとない機会だった。



「断りましょう」

 八代のはっきりした答えにやっぱりな、と思った。

「もし仮にあなたが田中さんを骨にしたことがばれたら、死体を損壊したとして刑法190条により三年以下の懲役に課せられます」

 倫理ではなく法律を盾にするあたり俺の本質をよく知っていると思っていたら、八代はタブレットを取り出すとパワポを開いた。ゴシック体の「人骨を取り扱う時のリスクについて」という題名を見てうめいた。こいつは俺が人骨を手に入れたいと言い出した時に備えてせっせと準備していたのだ。

 流れるような八代の説明に、理性はこいつの口に敵うはずがない、とっとと諦めろと言っていたが、本能が名残惜しく人骨を手にいれられるかもしれないたった一度きりのチャンスだぞと訴える。

 部屋の一室にずらりと並んだ頭骨コレクションの光景が浮かぶ。霊長類シリーズの棚にはチンパンジー、ゴリラ、そして場違いな模造のヒトの骨がおいてある。それを本物にしたいと考えるのは、骨好きとして当たり前の感情だと思う。

 どうしたものかとタブレットを見ていたら、スライド枚数が45枚あると気づき、理性が本能に打ち勝った。

「分かった、分かったよ。田中さんの申し入れは断る。それでいいだろう?」

 説明を止められた八代は「せっかく準備していたのに」と少し不満げな顔をしていたが、すぐににいつもの穏やかな顔に戻った。

「分かればよろしいです。そもそもどうして田中さんはあなたに骨を焼いて欲しいのですが?」

「万が一でも、死体から素性がばれるのが嫌だそうだ。かなりの高温度で焼くと原型もなくなりすべて灰になるって俺から聞いた時からずっとそんな最後を迎えたいと考えてたんだって。灰はそこらへんに捨てて欲しいと言っていた」

「完全に訳ありですね。まあ普通の人間が自分を焼いて欲しいと言うはずもありませんが。ともかくこの話はこれで終わりですね」

勝ち誇った八代の顔に、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。けれど彼のいう通り何かヘマした時に、頭骨コレクションが価値の分からない人間の手に渡る可能性を考えただけでもぞっとしなかった。


 田中さんにお断りの旨を伝えると、そうですか、と残念そうな顔をしていたが、それ以上何も言わなかった。

 付き合いは以前と変わらず、会いにいくたびに弁当や酒やタバコを持っていけば喜ばれた。でも田中さんが自分を骨にして欲しいと言い出した時にはもう、彼は自分の死期を悟っていたかもしれない。

 会うたびに顔がやつれていき、頬がこけ、寝込んでいることが増えた。

「どうしてあなたは僕にこんなに優しいのでしょうか」

寝込んでゴホゴホ咳をする田中さんにコンビニでレンチンしたお粥を持って行ったらそう言われたことがある。

「なんだか放って置けないのですよ。あの時、あのウルフドッグが結んでくれた縁だと思っていただければ」

「そうか、あいつが……」

 あなたが死んだ後にやりたいことが少しあってとは流石に言えなかったが俺の気持ちを知らない田中さんはウルフドッグの頭蓋骨を手元によせ、おいおい泣いた。嘘は言っていなかった。


 俺の見立てはあと一ヶ月だったが、八代の、人って案外ぽっくり死ねないのですよと言っていたことは正しく、骨と皮になりながらも田中さんは細々と生きた。

 でもその日はなんとなく、予感があった。

 テントの入口で、独特の湿った匂いがした時にそれは確信に変わった。

 中をのぞけば、田中さんはやっぱり死んでいた。

 半目で、ポッカリと口を開けて四肢を伸ばした状態で横だおれになり、口から垂れた黒っぽい液体が地面に広がった跡があり、至る所ウジがわいている。あのウルフドックと同じ死後を迎えていた。大小さまざまな大きさのウジがいるから、死後数日はたっているだろう。動物の死体は見慣れていたが、人の死には特別な感情を抱くのではと思っていた。

 でも田中さんの死を前にしても、人も犬猫も死んでしまえば空っぽになるところは同じだな、と思っただけだった。

  遺体がなければ事件は発生しないのだ。このまま誰にも見られずに車まで運べたら、という考えがよぎらなかった訳ではないが、リスクがあまりに高すぎるという八代の渋い顔が浮かんだので、普通の人らしく警察に通報することにした。第一発見者として話を求められることもあったが、すぐに解放された。田中さんの遺体は葬祭業者の元へ運ばれ、火葬を実施し、お骨は三年間保管されるそうだ。

 どこか暗い部屋に誰にも引き取り手がないまま、ずらりと並んでいる骨壷を想像して、一度見てみたいと思った。

「おまえを飼い主と一緒にしてやりたかったんだけれどな」

 新しく頭骨コレクションに仲間入りしたウルフドッグの頭の骨をなでながら、田中さんの望み通り、身元が特定されるようなことがなければいいなと思った。



 田中さんが死んだことを告げると、八代はそうですか、と一言だけ言った。

「念仏は唱えてくれないのか?」

「私は田中さんにはなんの思い入れもないですから。ただ働きはしない主義です」

 八代の態度はある意味一貫していてブレがない。田中さんの骨が欲しかった俺でさえ、こいつは人でなしだと思う。

 やれやれと思いながら、ハンドルを切る。本日の依頼はノルウェージャンフォレストキャットだ。事前に場所を調べたところ高級住宅地の一角で、上手くやればがっぽりもらえるかもしれないと、田中さんのことはもう忘れたように八代は生き生きしている。

 家族に看取られお経もあげてもらえる犬猫。

 人知れず亡くなり、今はどこかの暗室で眠る田中さん。

 この違いってなんだろう。

「愛ってさ、死んだときに一番形にあらわれるものなんだっけ」

「そう思っていた時期がありましたね。でも今は愛より金の形だと思います」

 八代は親指と人差し指をくっつけて丸の形をつくった。さすが俗物偽坊主。言っていることが物欲にまみれている。

「そうかもな。俺が先に死んだらさ、八代にお経をあげてもらいたいとか思ったり」

 ふと思いついたことをそのまま口からだすと、八代はやや驚いた顔をしたあと、穏やかな笑みを浮かべた。

「いいですよ。耳コピしたお経を聞かせてあげます。でも、もし私が先に死んだ時にはあなたに骨にしてもらいたくないですね」

「そりゃあ残念だ。頭骨を霊長類シリーズに飾ろうと思ったのに」

「なおさらお断りです。あなたより先に死にたくない理由ができました」

「じゃあ、どっちが長生きするか勝負だな」

 いつか来るその日に思いを馳せながら、依頼場所へと車を走らせた。


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