第36話:虐殺
ビルバオ王国暦200年5月28日:王都ムルシア・ビーゴ城
「ここには近づくなと言っただろうが!」
俺が傭兵達に続いて飛び込んだ謁見の間は、血の海になっていた。
上段には首を刎ねられた国王と王妃の遺体が転がっている。
玉座には裸になった王太子とヴァレリアが抱き合っている。
「なっ?!
なんでお前がここにいる?!」
「なんでだと、お前が襲ってきたから逆撃に来たのだろうが!
両親を殺した場所で女と抱き合うなんて、いい趣味しているな」
「やかましいわ!
偉大な俺様の邪魔をする愚かな親など必要ない。
俺様は皆が恐れるヘッドフォート王国を滅ぼし、大陸の覇者となるのだ!」
「こんな昼間から女と抱き合っているから白昼夢を見るんだ。
もうお前の配下はほぼ全滅している。
だからこそ俺達がここに来たんだよ」
「笑止、俺様の偉大さはお前達如きに理解できるものではない。
カスルメーン王国も既に我が足元に触れ伏しているのだ。
もう直ぐそこまでカスルメーン王国軍がやってきている。
お前達の命もそれまでだ」
知恵遅れのこいつに何を言っても無駄だな。
「ヴァレリア、本気でここから逆転できるとでも思っているのか?
それとも自暴自棄にでもなったのか?」
「フッフフフフ、誰が自暴自棄になどなるものですか。
ちゃんと逆転の為の手段があるからこそ、ここに残ったのです」
「ほう、ここまで追い込まれた状態で、まだ逆転の目があると言うのか?
父親のゴンザーロが何処かで罠でも張っているのか?」
「あのような小者、私の使いっ走りにしか過ぎないわ。
今頃はカスルメーン王国でせっせと金儲けでもしている事でしょう」
「ほう、自分は金儲けなどに興味がないとでも言いたいのか?」
「お金など、力を手に入れる手段の一つに過ぎないわ」
「だったらお前はどのような方法で力を手に入れるというのだ?」
「この世界には偉大な先史文明が築いた叡智があるわ。
その力を手に入れさえすれば、金や戦力など物の数ではないわ」
「そこにいる知恵遅れと乳繰り合う事が叡智を手に入れる方法だとでも言うのか?」
「こいつは愚か者だけど、偉大な先史文明が残した叡智を手に入れる鍵よ。
先史文明が築いた知恵の塔に入るためには、サンチェス王家の血が必要なのよ」
「はん、そんな不確かな物のために真昼間から乳繰り合っていたのか?
まるで盛りのついた雌犬だな」
「愚かなお前などに何を言っても無駄だわ。
私が手に入れた力に平伏しなさい!」
「うっ!」
「魔女の手だ!
その魔女を直ぐに斬り殺せ!」
心臓を氷の手で鷲掴みにされたような激痛だ!
これが先史文明が残した叡智に一つだとでも言うのか?!
叡智だと言うのなら、人を傷つける力ではなく護る力を残せよ!
「うっ、ぎゃ、ぐっ、あっ、がっ!」
激痛に耐えて周囲を見れば、傭兵達が次々と倒れ込んでいる。
皆俺と同じように胸を押さえている。
全員が心臓に痛みを感じているのだろう。
「がっ!」
「ぎゃっ!」
心臓を握り潰されるような痛みに耐えて、手投剣を放った。
手足を犠牲にしてでも野獣を狩る方法は幼い頃から学んでいる。
自分の胸や腹に槍や剣を受けても野獣を道連れにする方法もだ。
たかだか心臓の痛みくらいで動けなくなる俺ではない。
死ぬと覚悟を決めれば何だってできる。
僅かな時間痛みに耐えて攻撃に転ずるくらいはできるのだ。
「ディラン様、お気を確かに、ディラン様!
回復薬だ、回復薬と治療薬を持ってこい。
マクシミリアン様から預かった秘薬を使うのだ」
「……ころせ、ヴァレリアをころせ……」
「手の空いている者はその腐れ女を殺せ。
絶対に生き返らないように首と手足を刎ね、斬り刻んで灰にしろ!
伝説の魔女や悪魔を滅ぼす心算で徹底的にやれ!」
「「「「「はっ!」」」」」
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