第24話:見世物剣闘

ビルバオ王国暦199年6月17日:王都ムルシア・闘技場


「ロドリゲス伯爵家は引き続き決闘での決着を主張されている。

 負けを認めるのなら、決闘を回避する事もできます。

 ディラン殿はどうされますか?」


 王家の使者からそう言われた時、俺はロドリゲス伯爵の正気を疑った。

 今日あれだけ圧倒的な差を見せつけられたのに、まだやるのかと。

 ゴンザーロに協力してもらうにしても無理があると思ったのだ。


「今日あれほど勝ったのに負けを認めろと言われるのですか?

 使者殿は賄賂でも貰われたのですか?」


「失礼な事を言わないでいただきたい!

 今回の決闘は家と家との戦いだ!

 一方が負けを認めない限り、続けるのが当然なのだ。

 私はロドリゲス伯爵家が続けると言ったので、ガルシア男爵家が続ける気があるのか確認しただけだ」


「確認しただけと言う割に、負けを認めろと言う態度でしたね」


「それは貴殿の被害妄想だ」


「好きに言っているがいい。

 勝っている我が家から負けを申し出る気はない。

 ロドリゲス伯爵家が戦い続けるというのなら相手してやるだけだ」


「そうか、だったら明日は剣闘で競い合ってもらう」


「剣闘?

 貴族家の名誉を賭けた決闘をジョスト以外で競う気か?!」


「貴族家同士の決闘が馬上の戦いだけで決着する訳がなかろう。

 実戦では領民歩兵の戦いが勝負を決する場合も多い。

 それに、貴族や騎士が主君に捧げるのは剣だ。

 ランスを捧げて忠誠を使う訳ではあるまい?」


「姑息な言い訳だな!」


「国王陛下が決められた事だ!

 これ以上とやかく言うようなら不敬罪が適用されるぞ!」


「分かった、剣闘であろうと負けはしない。

 明日もこちらが勝つ」


 そういう言い争いが昨日あった。

 馬上試合では勝ち目がないので、剣による戦いに切り替えたのだろう。

 

「心配しないでいただきたい。

 我らもマスターアイザックに選ばれた決闘屋だ。

 数々の決闘に生き抜いたから今生きてここにいるのだ。

 ジョストだけでなく、剣闘でも殴り合いでも負けはしない。

 明日も金貨百枚稼がせてもらうよ」


 決闘屋の代表が自信満々に請け合ってくれた。

 その堂々とした態度に安心する事ができた。

 一日で金貨千枚も吹き飛んでしまうのは痛いが、仕方がない。


 普通の決闘なら、家の代表同士が戦う一試合だけだ。

 負ければ全てを失うのだ。

 勝利に対する報奨が莫大な金額になるのは仕方がない。


「ロドリゲス伯爵家の代表は、闘技場のチャンピオン剣闘士アレハンドロ」


 貴族の決闘に奴隷剣闘士を使うだと?!

 平民の傭兵を雇うのも心が咎めたのに、そこまでやるか?!


 闘技場に集まった貴族達も驚いている。

 ヘッドフォート王国の大使が我が国を馬鹿にしている顔が浮かんでしまう。


 敵のやる事に俺が心を痛めるのはおかしいが、ごく最近まではこれでも王家と国に忠誠を誓っていたからな……


「ディラン殿、この程度の事で驚いてどうする。

 家の浮沈をかけた決闘では、信じられないくらいの謀略が行われるのだ。

 審判を抱きこまれていないだけで十分有利だ。

 普通なら審判の露骨な依怙贔屓や妨害を超えて勝たねばならないのだぞ」


 決闘屋にそう言われてようやく覚悟が決まった。

 この決闘に勝っても我が家が王家に捧げた剣は返してもらう。


 負けたら家臣領民を引き連れて逃げる気だったが、それも気が変わった。

 領地に籠って徹底抗戦してやる!


「ヨナス殿の言う通りだな。

 この程度の事で心を痛めて戦えないようでは、家臣領民を護れない。

 それに、連中はこちらに都合のいい変更をしてくれた。

 こちらが負けを認めない限り、勝負は永遠に続く。

 金が続く限り戦い続けるだけだ!」


「その意気込みだ。

 俺達決闘屋は勝てなければ死ぬだけだ。

 負ければ賞金を払う必要もない。

 次の傭兵に金を渡せばいい」


「そんな卑怯な真似はしない。

 もし貴殿らが負けて死ぬような事があっても、それまで勝った分の賞金は遺族に渡すから、誰に渡せばいいか書き残しておいてくれ」


「ありがたい、それでこそ名誉ある貴族の跡継ぎだ」


 俺の言葉が決闘屋達の心を動かしたのかどうかは分からない。

 だが、彼らが命懸けで戦ってくれたことは確かだ。

 死力を尽くして闘技場有数の剣闘士と戦ってくれた。

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