第23話:見世物ジョスト

ビルバオ王国暦199年6月16日:王都ムルシア・闘技場


 俺は国王陛下を見直していたのだが、間違いだった。

 あの腐れ国王は、ただ自分が楽しみたいだけだった。

 決闘という血塗られた殺し合いを酒を片手に楽しみたかっただけだ!


 マクシミリアンが集めて来てくれた王都の噂話では、国王は人が殺し合う所を見るのが大好きなのだそうだ。


 流石に無差別殺人などはやらないが、何かと理由をつけては、後で問題にならない立場の者に決闘で決着をつけろと命じるそうだ。


 今回の件も、国王には渡りに船だったという評判だそうだ。

 だから、父上とロドリゲス伯爵との決闘ではなく、俺とフェリペの決闘でもなく、ガルシア男爵家とロドリゲス伯爵家にしたのだそうだ。


 家同士の決闘にすれば、数多くの殺し合いを見物する事ができる。

 身分に関係なく観客を入れて賭けさせれば、親となる王家には莫大な額の利益が入ってくる。


「心配するな、ディラン。

 あそこに掲げられているのはヘッドフォート王国の国旗だ。

 今回の件はヘッドフォート王国の大使も注目しているようだ。

 審判が露骨な依怙贔屓をすれば、大使が文句をつけてくれる。

 それこそディランが言っていたように、侵攻の大義名分になる」


「それはうれしいが、マリアは大丈夫だろうか?

 好色そうな連中がマリアに露骨な視線を送ってきやがる」


「大丈夫だ、俺が必ず護って見せる。

 ディランを見殺しにしてでもマリア嬢を護って見せる」


「本当に頼んだぞ」


「任せておけ!

 それにそれほど心配する事はない。

 マスターアイザックがとっておきの傭兵を集めて来てくれた。

 金さえ払えばどのような奴が相手でもぶち殺してくれる決闘屋だ。

 相手がゴンザーロの手練れであろうが何の問題もない」


 マリアの事はマクシミリアンと侍女達に任せれば大丈夫だろう。

 他にも領地から呼び寄せた三人の騎士がいる。


 闘技場の外には多くの軍竜と軍鳥も隠してある。

 王国軍にいる軍馬では、本気で駆ける軍竜と軍鳥には追いつけない。


 それにしても、マスターアイザックはよくこれほど多くの決闘屋を集められたな。

 それも、今もまだ王家にも宰相一派にも決闘屋の事を隠し通している。

 何処をどう脅せばこれだけの隠蔽工作ができるのだ?


「対するはガルシア男爵家の騎士ヨナス」


 ロドリゲス伯爵家の騎士に続いて我が家の騎士の名が呼ばれる。

 本当は決闘屋なのだが、建前上は我が家の騎士だ。


 対戦相手はかなりの巨漢だが、ヨナスは全く動じていない。

 決闘慣れしているのだろうが、少々不安だ。

 俺は、マクシミリアンのように堂々とした態度ができているのか?


「はじめ!」


 審判の掛け声と同時に、愛馬に拍車を入れて突撃する。

 すれ違いざまに互いにランスを突き合い、どちらが落馬させられるか競う。


 普通の試合なら、折れ易い殺傷力のないランスを使う。

 よほど弱い者でなければ落馬する事もないので死ぬことはない。


 だが今回は試合ではなく貴族家同士の決闘だ。

 戦場で使う本物のランスを使っている。

 上手く急所を突ければ一撃で殺すことができる。


 ランスで突き殺せなくても、完全装備で落馬してしまうと、五割の確率で死ぬ。

 百キロ近い完全鎧の重量が首にかかれば確実に折れる。


 ガッーン!


 一瞬だった、一瞬で敵が吹き飛ばされた。

 左手で馬を操るためには盾を持つことができない。

 そのために完全鎧なのに、大きく凹んでしまっている!


 あれでは右胸の肋骨はほぼ全て折れているぞ。

 大きくはね飛ばされて頭から落馬したから、首も折れている。

 上級の回復薬でも助ける事は不可能だろう。


「「「「「ウォオオオオオ!」」」」」

「「「「「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」」」」」


 一周の静寂の後で、闘技場が揺れるほどの大歓声と足踏みが起きた!

 殺戮のために決闘を見慣れた王都の連中すら驚く試合だったようだ。

 正直俺も驚いた!


 初見であのような攻撃をされたら、俺も同じように吹き飛ばされていた。

 いや、何とか身を捻って躱せていただろうか?


 まあ、馬上槍試合でない限りこんな戦い方はしない。

 俺は野獣を斃す事が役目の辺境貴族の跡継ぎだからな。

 何でもありの実戦で生き残る事ができれば勝ちだ。


「対するはガルシア男爵家の騎士ミラン」


 第二試合もロドリゲス伯爵家の騎士に続いて我が家の騎士の名が呼ばれる。

 少々腹立たしい事だが、全てロドリゲス伯爵家が優先される。

 それが伯爵家と男爵家の違いだと分かっているが、どうしても腹は立つ。


 第二試合も我が家の騎士、決闘屋ミランの圧勝だった。

 いや、今日予定されていた十試合全てが我が家の圧勝だった。


 ロドリゲス伯爵家の代表騎士は全て死んだと聞いた。

 もうロドリゲス伯爵家に戦える騎士はいないと思う。

 ゴンザーロが私兵を投入したとしても、どうにもならないはずだ。

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