第22話:逆転

ビルバオ王国暦199年6月11日:王都ムルシア・ビーゴ城


「ガルシア男爵家嫡男ディラン、この訴状内容で間違いないのだな?

 何か勘違いしているのなら、今訂正すれば問題にはせぬ。

 今一度よく考えてみろ。

 ロドリゲス伯爵家は長年ガルシア男爵家の寄り親だったのだぞ!」


 名前も覚えていない新しい宰相が露骨に脅してくる。

 国王陛下も嫌々この提訴に付き合っているのが分かる態度だ。

 正直こんな国王や王国に忠誠を誓うのが嫌になってくる。


「何度考えても我が家がロドリゲス伯爵家にやられた事が変わる事はありません。

 そしてロドリゲス伯爵家の裏にゴンザーロとヴァレリアがいる事もです。

 このような無法が続くのなら、今富貴を愉しんでいる貴族以外は、王家王国に対する忠誠心を失う事でしょう。

 近隣の王家王国から誘いの使者が送られてくる事でしょう。

 そうなってから慌てて行いを改めても、多くの貴族の心を取り戻せません」


 父上とマクシミリアンは無駄だと言っていたが何もせずに諦める気にはなれない。

 言うべき事を言ってからでないと、騎士の剣を返上するわけにはいかない。

 戦うにしても他国に移るにしても、義理は通さなければいけない。


「おのれ、男爵家の嫡男風情が聞いたような事を口にしおって!

 貴様が何を言うおうと、証人が何を言おうと、伯爵家の当主が言う事の方が信用されるのだ、愚か者め!」


 もうここで諦めて領地に戻り、家臣領民を連れて近隣諸国のどこかに亡命してもいいのだが、最後の決めた忠誠心の証だ。

 もう一言だけは言っておこう。


「ロドリゲス伯爵家の寄子の中で、我が家だけが未開発地で軍役演習を命じられましたが、その場に私達の命を狙う者達が二組六百兵も待ち伏せしていました。

 捕まえてみれば、ロドリゲス伯爵の命令でやったと言っています。

 これを私の嘘だと決めつけてしまって本当にいいのですか。

 王都に常駐されているヘッドフォート王国の大使がこの話を聞かれて、本国に報告したら、陛下に統治能力なしと判断されるのではありませんか?!」


 ヘッドフォート王国は近隣最強最大の国家だ。

 代々名君を輩出し、国民も平和と豊かさを享受している。

 我が国では何の対処もできなかった疫病も、国の指導で抑え込んだほどだ。


 そんな強国が近隣を併合しないのは、体面を気にしているからだけだ。

 兵力と経済力だけで見れば、何時でも近隣諸国全てを併合できる。

 そんなヘッドフォート王国に侵攻併合の大義名分を与えるほど愚かなら……


「おのれ、ヘッドフォート王国の名を使って我らを脅そういうのか?!

 虎の威を借る狐が!

 恥を知れ、恥を!」


「その言葉、そっくりそのまま宰相閣下にお返しさせていただきます!

 国王陛下の威を借りている狐は貴男でしょう。

 そうでないと申されるのでしたら、ご自身の私兵だけで我が家と戦って見せていただきましょう!

 その首、我が剣で斬り飛ばして御覧に入れます!」


 もう決めた、こんな国王や国に忠誠を誓う気にはなれない。

 ヘッドフォート王国の大使館に行って臣従を認めてもらう。

 

 臣従を認めてもらえたなら、ヘッドフォート王国軍が侵攻して来るまで領地に籠って、ビルバオ王国軍を辺境に引き付け続けてみせる!


「宰相、うるさいぞ。

 これ以上耳障りな言葉を繰り返すのなら、お前の首も斬り落とすぞ」


「陛下、何を申されるのですか?!

 このような田舎男爵の言う事など、」


「近衛騎士団長、これ以上こいつが口を開いたら首を刎ねよ」


「はっ!」


「ひぃいいいいい!」


「ディラン、よくも余を脅してくれたな」


「はっ、申し訳ありません陛下」


「ふん、全く申し訳なさそうではないが、まあ、いい。

 余はヘッドフォート王国軍に首を刎ねられたくはない。

 とは言え、内戦を引き起こす気もない。

 寄子が寄親を訴えるなど、本来なら許される事ではない。

 ロドリゲス伯爵家は王家に毎年多くの献金をしてくれている。

 国王としてこの件に対してどちらに肩を持つ事もできぬ。

 よって、決闘で決着をつけるがよかろう。

 ガルシア男爵家が勝っても負けても、ロドリゲス伯爵家の寄子から外してやる」


「はっ、有難き幸せでございます」

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