第6話:賞金と買取査定
ビルバオ王国暦198年3月27日:ダンジョン都市プロベンサーナ
傭兵ギルドのマスター、アイザックは素早く丁寧に賞金を査定してくれた。
最初に生きている刺客を調べ、暗殺者ギルドの現役構成員だと断言してくれたうえで、金貨一枚と査定してくれた。
俺がマクシミリアンと一緒に斃した賊の査定金額は、思った通り低かった。
頭となる賊で大銀貨一枚か二枚。
末端の賊で小銀貨一枚か二枚だった。
賊と言っての賞金がかけられているとかけられていない者がいる。
国から賞金がかけられている者もいれば地方領主からかけられている者もいる。
そもそも単に村を襲う程度の賊なら、賞金などかけなくても、生き残りたい村人が必死になって戦ってくれる。
賞金がかけられて賊は、並の村では撃退できないような連中だ。
以外に高値で引き取ってもらえたのは、鈍らでも剣だった。
一振り大銀貨一枚以上で買い取ってもらえた。
そこそこ使える刀は金貨一枚で引き取ってもらえた。
刺客が使っていた出来の良い剣は短くても金貨十枚以上になった。
王侯貴族が保管しているような名剣なら金貨百枚は下らないと言う。
刀狙いで盗賊狩りをしようかと思うくらいの値段をアイザックに教えられた。
それと、死体からはがした防具や衣服もそれなりの値段がついた。
特に血にまみれた衣服が以外と高く買い取ってもらえた。
八割の人間が死んでしまった今でも衣服は高いそうだ。
確かに、人間が減った分衣服を作る人間も減っている。
服は着れば着るほど摩耗する。
特に重労働をする者が着れば直ぐに駄目になるだろう。
そんなこんなで、俺がマクシミリアンと一緒に斃した賊の査定金額を正確に折半すると、金貨五十二枚と少々という事になった。
だが、俺と出会う前にマクシミリアンが斃した者達の査定金額まで加えると、なんと、金貨二百六十三枚と少しになった!
そこまで金額が違う理由ははっきりしていた。
マクシミリアンが単独で斃した者達の装備がとてもよかったのだ。
アイザックがダンジョンで狩りをするのなら残しておけと言って、引き取りを拒否された装備まで含めたらいくらになっていた事か……
正直、ガルシア男爵家の誇りを守るために受け取らないと言いたかった。
だが、受け取らなかったら、その誇り高きガルシア男爵家自体が腐れ外道に乗っ取られてしまうのだ。
自分の事よりも妹や家族の事を優先すると誓ったのだ。
家臣領民のために全てを投げうつと言うのがガルシア男爵家の家訓だ。
自分のプライドなど捨てなければいけない。
そう思って金貨二百六十三枚を受け取った。
その日から、安全のために傭兵ギルドに併設されている宿に泊まった。
安宿より高いが、刺客に狙われている立場では金より安全を取らないといけない。
俺達は傭兵ギルドの宿を拠点にダンジョンに潜って狩りをした。
狩りとは言っても、疫病が猛威を振るう前と今とでは狙う獲物が違っている。
前は王侯貴族が求める美味珍味となる魔獣が高値で買い取られていた。
社交界で自慢できるような珍しい魔獣が高値で買い取られていた。
だが今では、回復薬や治療薬の原料となる素材が高値で買い取られている。
魔獣が強いとか珍しいとかは、あまり価値がなくなっているのだ。
だから傭兵ギルドの連中も無理をしなくなった。
魔獣に殺される可能性がほとんどない低層で、ギルドメンバー同士が争う事になっても、薬の原料となる魔獣を狩るのが主流になっていた。
だが俺とマクシミリアンはその流れに逆らった。
何故なら低層に現れる薬の原料となる魔獣の数が決まっているからだ。
限られた数を大人数で争っても稼げる金額はしれている。
中層よりも深く潜って強く貴重な魔獣を斃した方がいい。
二度の疫病の影響があるこの国では価値が下がっているが、疫病の流行らなかった国では、未だに中層以下の強くて珍しい魔獣が高値で売買されている。
それに、中層よりも深い場所にいる強い魔獣からでなければ作れない、高品質の回復薬や治療薬がある。
疫病に効果のある回復薬や治療薬も、中層よりも深い場所でなければ狩ることができないのだ。
いや、深層と言われる二十一階層以下にまでも潜らなければ狩れないのだ。
それを知っていたから、アイザックはマクシミリアンの持つ高価な武具甲冑の買取を拒否したのだ。
そして俺達に、中層以下に降りて魔獣を狩れと言ってきたのだ。
アイザックが惜しみなく情報を教えてくれたのは単に親切だからではない。
ギルドマスターとして利益を確保するために必要だから教えてくれたのだ。
「マスター、今日も目的の魔獣を狩ってきたぜ」
「そうか、では直ぐに出してくれ」
マクシミリアンがアイザックに自慢する。
大人のアイザックは軽く受け流している。
俺達はアイザック直属の傭兵と言う扱いになっている。
だから受付に並ぶ必要もない。
直接マスター室に行き、直ぐに査定場に行く事になる。
「最初はザコだ。
相手を選んで掛かってくればいいモノを、見境なく襲い掛かってきやがる。
行き帰りの邪魔になって仕方がないぜ」
「邪魔でも他に狩る者がいないのならしっかり狩ってくれ。
灰牙ウサギや灰角ウサギ程度でも、孤児や寡婦には貴重な食糧だ。
毛皮だって使い道がないわけじゃない。
解体する仕事があれば、命懸けでダンジョンに入らなくてもよくなる」
冷酷そうな表情や態度に反してアイザックは優しい。
他の街や村では生きていけない孤児や寡婦を、積極的にダンジョン都市で受け入れ、傭兵ギルドで雇っている。
決して疫病による人手不足だけが理由じゃない。
王国が派遣してくる代官や役人には人手不足を理由にしているが、本心は野垂れ死ぬ者を少しでも減らいたいのだ。
それが分かっているから、マクシミリアンも口では文句を言っているが、できるだけ多くのザコを狩るようにしている。
アイテムボックスを持たない普通の冒険者は、少しでも金になる魔獣しか地上には持ち帰らない。
だからといって、生き残るために命懸けでダンジョンに入る孤児や寡婦に無償で与えたりもしない。
命懸けでダンジョンに入ってきた孤児や寡婦に運ばせて、僅かな手間賃しか払わない、しみったれた態度なのだ。
だからつい俺も手当たり次第ザコを狩ってしまうのだ。
マクシミリアンがアイテムボックスを持っている事を知られないようにするには、目立たない方がいいと分かっているのに……
まあ、マスター直属の傭兵になった時点で嫌ほど目立っているから、今更なのだが、これ以上目立ちたくないと言う気持ちも嘘ではない。
「ほう、多いな、灰牙ウサギと灰角ウサギだけで二百七十五頭か。
金貨二枚には少し足らないが、いい稼ぎだ。
灰牙ネズミと灰角ネズミはどれくらい狩ったのだ?
お前達が狩った獲物なら、孤児や寡婦の解体練習に使っても構わないな?」
「ああ、構わないぞ。
何なら俺の驕りで腹一杯喰わせてやってくれてもいいぞ。
それが強い奴の責任というモノだろう」
王侯貴族の誇り高き義務か……
もうこの国にはほとんど残っていないモノだな。
マクシミリアンの母国ではいまだに普通の事なのだろうか?
それとも、マクシミリアンだけが守っているモノなのだろうか?
俺も同じようにしたいが、今の状況では……
「ディランもそれでいいのか?」
「ああ、構わない。
そもそもマクシミリアンのアイテムボックスがなければ絶対に不可能な事だ。
この件に関してはマクシミリアンの流儀に従う。
それに、アイテムボックスがなければこれほど稼げていないからな」
「分かった、では灰牙ウサギと灰角ウサギ二百七十五頭、灰牙ネズミと灰角ネズミ三百十九頭は孤児と寡婦に解体させる。
赤牙ウサギと赤角ウサギは、そこそこ解体に慣れた奴らにやらせてもいいか?」
「全てマスターに任せる。
強くなるためにも上手くなるためにも練習は必要だ。
練習に怪我や失敗は付き物だ。
それを笑って許せないようでは大人とは言えぬ」
「マクシミリアンは良い事を言ってくれる。
家の解体部の連中に聞かせてやりたいよ」
もう十分聞き耳を立てているだろう、マスター!
そんな嫌味な言い方をされたら俺らまで睨まれるだろうが!
「だがマスター、貴重な食糧や素材を大切する気持ちも失ってはいけない。
それに解体に失敗すれば傭兵ギルドが損失を被るか、傭兵が損をしてしまい、解体部の者が文句を言われるのではないか。
そう言う高貴なる義務は、選ばれたマクシミリアンのような者だけがやるべき事で、解体部の者や傭兵が負担するべきものではないぞ」
なんで俺がこんなフォローを入れないといけないのだ!
解体部の連中が逆恨みしてアイテムボックスの事を話したらどうするつもりだ?
あ、最初から俺がこう言うのまで計算してやがったな!
これだから海千山千の古強者は油断できないのだ!
「おう、査定が終わったようだぞ。
今回は総額、一人当たり金貨百二十一枚だ。
このまま順調にいけば、金貨二千枚くらい直ぐだな」
マスターの言う通りだ。
このペースで稼げれば金貨二千枚など直ぐに溜まる。
一攫千金を狙った多くの人間が、ダンジョン都市に集まる理由が身に染みて分かったが、アイテムボックスがなければここまで順調にはいかなかった。
往復三日かかる行程に必要な物資も、狩った獲物全て持ち帰れるのも、アイテムボックスのお陰だ。
アイテムボックスがなければ、二人で運べる獲物しか持ち帰れない。
それも、帰りの襲撃を計算した分量しか持ち帰れない。
非常に徹するなら、使い捨ての荷運びを雇う方法があるが、選びたくない。
だから、俺がマクシミリアンの流儀に従うのは仕方のない事なのだ。
決して俺が情に流されている訳ではない。
俺が最優先しているのは妹や家族、家臣領民の事だ。
今溜まっている金額は金貨で四百八十四枚だ。
後十四回ダンジョンに潜れば確実に金貨二千枚になる。
もう少しだ、もう少し頑張るだけで妹を助けられる!
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